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「これより、テスターによるテペットを行います。なお、ランクAのツキヒは<当千>を、ランクDのサクヤコは<壮麗>を代理として選出しました!」
「おい、なんかいじめみたいじゃないか?」
「ランクAがランクDとテペットとかまじか」
「しかも<当千>ってあの『テペットの悪魔』だろ。あの子なんで受けたんだろうな」
「ばっか、見てなかったのかよ。断ろうとしてたけど、ツキヒさんのごり押しだよ」
「ランク上からのごり押しって……いいのかそれ」
修練場に審判の声が響き渡る。箱型ドーム状のフィールドにテイカーをテスターたちの攻撃から守る術式が描かれた陣の上に、審判、ツキヒ、そして咲也子は立っていた。隣にはテスターの体力を示す水晶玉。現在は緑に輝くそれが、赤になったらテペットは終了である。
冴え冴えとした雰囲気が漂うその場で、そこそこな人数がいる見物人たちは青年と幼い少女。いっそ虐待と言ってもまかり通りそうな試合に顔を引きつらせていた。
「な、なあ、どうなんだよ。あんた、あの小っちゃい子と一緒に居るだろ? あの子、強いのか?」
「強いんじゃねえの。見たことねえけど」
「彼女が負けるわけもないな」
「見たことねえって……」
むっつりと顔をしかめていたティオヴァルトはただでさえ鋭い眼光がさらに目も当てられないほど凄まじいなことになっていた。シャーロットに至ってはなんの根拠もなく断言である。
喋りかけてきたほうも見物人のなかでじゃんけんに負けて尋ねさせられただけで、その見ただけでものが切れるのではないかと思えるような眼に、ひるんで輪の中に帰っていった。
ちなみに、そんなティオヴァルトとシャーロットの周囲は人が避けぽっかりと空いてしまっているが、二人は歯牙にもかけなかった。
ひんは水属性で<当千>は草属性。相性的には<当千>に軍配が上がるが、体格で言うならばまさに大人と子ども以上の差をもつひんが、有利になるというどちらにもメリット・デメリットを抱えた勝負となった。
優雅にとぐろを巻いて、背中に生える無数の翼を羽ばたかせながら<当千>を一瞥するひん。
小さい体ながらもアリーナチャンピオンの奥の手、『小さな悪魔』とすらささやかれる<当千>はその圧倒的な経験をもって、ひんを眺める。
「以上をもって口上とします。始め!」
「<当千>、‘咆哮《ほうこう》‘」
先手必勝、とばかりに<当千>が咆哮を放つ。当たったものをしびれさせ、動けなくすることが出来るそれを。
「ひん、とべ」
幼く小さい声でささやかれた命令に、嬉々として身をくねらせたひんは咆哮の射程圏内を越え、<当千>の後ろの上空へと空中を泳ぐことで避けた。
「<当千>、‘草花の縛り‘」
静かな声に<当千>は素早く振り返り周りの自然、修練場の奥に眠る種子に働きかける。と、ぼこぼこと地面から一気に蔓が這い出る。
蛇のようにうごめいて、あっという間に地上を覆い尽くしたそれは、重力に逆らいひんを捉えようと上に伸びてくる。軽いホラーと言っても通じそうなその光景に、見学をしていた冒険者たちは顔をひきつらせた。
「‘凍てつく吐息‘からの‘水落とし‘」
「ふぃぃん!」
軽やかな鳴き声と同時に、ひんから吐き出された冷たい息が一瞬で植物を凍らせる。芯まで凍ってしまった蔓は完全に動きを止め、大きなオブジェとなってフィールドに残った。
それをちらりとも見ずに、ひんはさらに上空へと身をくねらせると、空中から大量の水の塊が降ってくる。
「<当千>」
「キュア!」
当たれば間違いなく痛いどころではすまない質量で落ちてくる水塊の間を縫って器用に飛ぶことで水塊自体は避けられているものの、氷のオブジェと化していた蔓たちにも水は当たり、砕いていく。怒濤の勢いのそれはかすかに<当千>の身体をかすめては、その硬い鱗に、もしくは鱗の隙間に入り込み細かい傷を作っていく。
「ひん、うがて」
「<当千>、‘草刃の吐息‘。切り裂け」
咲也子とツキヒが命じたのはほぼ同時だった。
「ふぃぃぃん!」
「ギュアア!」
<当千>は小さな痛みを気にせず、‘草刃の吐息‘で天井全体を切り裂くと、役目を終えた葉がひらひらとフィールド全体に舞い落ちる。
ひんは残っていた水塊を逆円錐状に変え、錐状のとがった部分でフィールドの地面を穿つことによって、えぐりながら降った水がそこを深いため池へと変えた。ひんが一番深いところに身を半分しずめ、顔を出す。
天井は裂け、フィールドの半分は氷と落ち葉の浮いたため池。
本来は修練場に合わせた戦い方をするのが暗黙の了解であるのにもかかわらず。修練場に合わせた戦い方をするのではなく、修練場を自分に合わせるなんて思いもつかなかった冒険者たちが唖然と口を開ける中。一人盛り上がっているギルド長の隣で、ミリーは修理代のことを考えると目がくらんだような気がした。
「おい、なんかいじめみたいじゃないか?」
「ランクAがランクDとテペットとかまじか」
「しかも<当千>ってあの『テペットの悪魔』だろ。あの子なんで受けたんだろうな」
「ばっか、見てなかったのかよ。断ろうとしてたけど、ツキヒさんのごり押しだよ」
「ランク上からのごり押しって……いいのかそれ」
修練場に審判の声が響き渡る。箱型ドーム状のフィールドにテイカーをテスターたちの攻撃から守る術式が描かれた陣の上に、審判、ツキヒ、そして咲也子は立っていた。隣にはテスターの体力を示す水晶玉。現在は緑に輝くそれが、赤になったらテペットは終了である。
冴え冴えとした雰囲気が漂うその場で、そこそこな人数がいる見物人たちは青年と幼い少女。いっそ虐待と言ってもまかり通りそうな試合に顔を引きつらせていた。
「な、なあ、どうなんだよ。あんた、あの小っちゃい子と一緒に居るだろ? あの子、強いのか?」
「強いんじゃねえの。見たことねえけど」
「彼女が負けるわけもないな」
「見たことねえって……」
むっつりと顔をしかめていたティオヴァルトはただでさえ鋭い眼光がさらに目も当てられないほど凄まじいなことになっていた。シャーロットに至ってはなんの根拠もなく断言である。
喋りかけてきたほうも見物人のなかでじゃんけんに負けて尋ねさせられただけで、その見ただけでものが切れるのではないかと思えるような眼に、ひるんで輪の中に帰っていった。
ちなみに、そんなティオヴァルトとシャーロットの周囲は人が避けぽっかりと空いてしまっているが、二人は歯牙にもかけなかった。
ひんは水属性で<当千>は草属性。相性的には<当千>に軍配が上がるが、体格で言うならばまさに大人と子ども以上の差をもつひんが、有利になるというどちらにもメリット・デメリットを抱えた勝負となった。
優雅にとぐろを巻いて、背中に生える無数の翼を羽ばたかせながら<当千>を一瞥するひん。
小さい体ながらもアリーナチャンピオンの奥の手、『小さな悪魔』とすらささやかれる<当千>はその圧倒的な経験をもって、ひんを眺める。
「以上をもって口上とします。始め!」
「<当千>、‘咆哮《ほうこう》‘」
先手必勝、とばかりに<当千>が咆哮を放つ。当たったものをしびれさせ、動けなくすることが出来るそれを。
「ひん、とべ」
幼く小さい声でささやかれた命令に、嬉々として身をくねらせたひんは咆哮の射程圏内を越え、<当千>の後ろの上空へと空中を泳ぐことで避けた。
「<当千>、‘草花の縛り‘」
静かな声に<当千>は素早く振り返り周りの自然、修練場の奥に眠る種子に働きかける。と、ぼこぼこと地面から一気に蔓が這い出る。
蛇のようにうごめいて、あっという間に地上を覆い尽くしたそれは、重力に逆らいひんを捉えようと上に伸びてくる。軽いホラーと言っても通じそうなその光景に、見学をしていた冒険者たちは顔をひきつらせた。
「‘凍てつく吐息‘からの‘水落とし‘」
「ふぃぃん!」
軽やかな鳴き声と同時に、ひんから吐き出された冷たい息が一瞬で植物を凍らせる。芯まで凍ってしまった蔓は完全に動きを止め、大きなオブジェとなってフィールドに残った。
それをちらりとも見ずに、ひんはさらに上空へと身をくねらせると、空中から大量の水の塊が降ってくる。
「<当千>」
「キュア!」
当たれば間違いなく痛いどころではすまない質量で落ちてくる水塊の間を縫って器用に飛ぶことで水塊自体は避けられているものの、氷のオブジェと化していた蔓たちにも水は当たり、砕いていく。怒濤の勢いのそれはかすかに<当千>の身体をかすめては、その硬い鱗に、もしくは鱗の隙間に入り込み細かい傷を作っていく。
「ひん、うがて」
「<当千>、‘草刃の吐息‘。切り裂け」
咲也子とツキヒが命じたのはほぼ同時だった。
「ふぃぃぃん!」
「ギュアア!」
<当千>は小さな痛みを気にせず、‘草刃の吐息‘で天井全体を切り裂くと、役目を終えた葉がひらひらとフィールド全体に舞い落ちる。
ひんは残っていた水塊を逆円錐状に変え、錐状のとがった部分でフィールドの地面を穿つことによって、えぐりながら降った水がそこを深いため池へと変えた。ひんが一番深いところに身を半分しずめ、顔を出す。
天井は裂け、フィールドの半分は氷と落ち葉の浮いたため池。
本来は修練場に合わせた戦い方をするのが暗黙の了解であるのにもかかわらず。修練場に合わせた戦い方をするのではなく、修練場を自分に合わせるなんて思いもつかなかった冒険者たちが唖然と口を開ける中。一人盛り上がっているギルド長の隣で、ミリーは修理代のことを考えると目がくらんだような気がした。
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