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「お前ら、馬鹿にしやがって! 俺が<災厄>なんか捕まえたせいで、母さんは死ぬし。穴に落としたはずなのに、生きてるし! なんで。お前が、ティオヴァルトがいるせいでいっつも俺は2番だ! 俺だって、ソロでSランカーになれたはずなのに!」
とりあえず逆恨みであることは確定した。咲也子は以前テリアが言っていた『<災厄>と知って逃がした冒険者』なのかと思いつつも、その逆恨みに眉をひそめた。そんな咲也子の横で、殺気が膨れ上がる。
いま、この目の前の男は『穴に落としたはずなのに生きている』と言った。当然ティオヴァルトには落とされた覚えはない。と、言うことはだ。これは咲也子に向けられていると考えていいだろう。つまりこの男は殺しかけたのか。この存在を。
膨れ上がった殺気が場を包む。剣を抜いた手が刹那的に動いて、アーシュの顔面横の樹に突き刺さった。
「ひっ……」
アーシュは腰が抜けて座り込んだ。
真横の樹に刺さる大剣にさっきまで興奮で赤くなっていた顔が急速に青くなる。はくはくと口は空気をかむだけだった。
咲也子を不愉快にさせたことだけでなく、殺そうとまでしていた。それに対してほぼ反射的と言ってもいい。浮かんだ感情は原因を排除しなければならないという絶対感だった。その思考にすべてを塗りつくされて、さらなる実行に移そうとした直後。
今度はティオヴァルトの後ろで存在感が膨れ上がるように殺気に包まれた空間を上書きした。
「不愉快だ」
清廉な威圧が。その包容ともいうべき威圧が。絶対的支配者であることを知らしめる存在感が。ティオヴァルトごとアーシュを包んだ。
呟かれた幼い少女のその一言に、大の大人である二人は肩を跳ねさせた。
存在感が空間だけではなく時間さえも塗りつぶす。木々がざわめく瞬間すらスローモーションで見えて、これからの断罪を思いティオヴァルトはそっと嘆息した。
「なん、な「黙って」」
本能を持って屈服させようと、ねじ伏せようとする存在に、アーシュの言葉は意味を持って発することすら許されはしなかった。短い懇願ともいえるそれは、絶対的な命令としてアーシュの口を閉ざさせる。
穏やかだった午後の日差しが、その暖かい空気が急速に冷えていく。ひんは動きを止めて湖面に波紋の一つもなくなる。すべての音が遠くなったように、陰ったように思えるその空間の中で、フードの奥の青い目だけがただ爛々と光っていた。
(テイカーで、魔法も使えて、チームを組める人望もある。確かにSランカーにふさわしい能力。でも)
「勘違いした人間の道理に当てはめて、傷つけるその行為が。自分の才能を過信して及ばないと分かれば他者を傷つける、その考えが」
そよ風すら吹いてもいないというのに、空気がざわめいた。
アーシュは座り込んだその場所から見上げた、その少女の目が。青く光ったその目が。蛇のように瞳孔の細いそれが。自分に向けられてることが。
その存在に見放されてしまうことが、何よりも恐ろしいことのように感じた。恐怖に、その畏れゆえに自分が青ざめたことがわかる。その存在から吐き出される一言を待つ、待たされるその姿は。
「気に入らない」
まるで、死刑の宣告を待つ罪人のようだった。
とりあえず逆恨みであることは確定した。咲也子は以前テリアが言っていた『<災厄>と知って逃がした冒険者』なのかと思いつつも、その逆恨みに眉をひそめた。そんな咲也子の横で、殺気が膨れ上がる。
いま、この目の前の男は『穴に落としたはずなのに生きている』と言った。当然ティオヴァルトには落とされた覚えはない。と、言うことはだ。これは咲也子に向けられていると考えていいだろう。つまりこの男は殺しかけたのか。この存在を。
膨れ上がった殺気が場を包む。剣を抜いた手が刹那的に動いて、アーシュの顔面横の樹に突き刺さった。
「ひっ……」
アーシュは腰が抜けて座り込んだ。
真横の樹に刺さる大剣にさっきまで興奮で赤くなっていた顔が急速に青くなる。はくはくと口は空気をかむだけだった。
咲也子を不愉快にさせたことだけでなく、殺そうとまでしていた。それに対してほぼ反射的と言ってもいい。浮かんだ感情は原因を排除しなければならないという絶対感だった。その思考にすべてを塗りつくされて、さらなる実行に移そうとした直後。
今度はティオヴァルトの後ろで存在感が膨れ上がるように殺気に包まれた空間を上書きした。
「不愉快だ」
清廉な威圧が。その包容ともいうべき威圧が。絶対的支配者であることを知らしめる存在感が。ティオヴァルトごとアーシュを包んだ。
呟かれた幼い少女のその一言に、大の大人である二人は肩を跳ねさせた。
存在感が空間だけではなく時間さえも塗りつぶす。木々がざわめく瞬間すらスローモーションで見えて、これからの断罪を思いティオヴァルトはそっと嘆息した。
「なん、な「黙って」」
本能を持って屈服させようと、ねじ伏せようとする存在に、アーシュの言葉は意味を持って発することすら許されはしなかった。短い懇願ともいえるそれは、絶対的な命令としてアーシュの口を閉ざさせる。
穏やかだった午後の日差しが、その暖かい空気が急速に冷えていく。ひんは動きを止めて湖面に波紋の一つもなくなる。すべての音が遠くなったように、陰ったように思えるその空間の中で、フードの奥の青い目だけがただ爛々と光っていた。
(テイカーで、魔法も使えて、チームを組める人望もある。確かにSランカーにふさわしい能力。でも)
「勘違いした人間の道理に当てはめて、傷つけるその行為が。自分の才能を過信して及ばないと分かれば他者を傷つける、その考えが」
そよ風すら吹いてもいないというのに、空気がざわめいた。
アーシュは座り込んだその場所から見上げた、その少女の目が。青く光ったその目が。蛇のように瞳孔の細いそれが。自分に向けられてることが。
その存在に見放されてしまうことが、何よりも恐ろしいことのように感じた。恐怖に、その畏れゆえに自分が青ざめたことがわかる。その存在から吐き出される一言を待つ、待たされるその姿は。
「気に入らない」
まるで、死刑の宣告を待つ罪人のようだった。
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