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行ってみたいの 冒険者スクール編
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「みんなー、冒険者になりたいかー!!」
「「「おおーー!」」」
「……」
「……ん? ん。お、おー」
さっそくテンションに取り残された2人を朝日が照らしていた。
止まり木を出て左に曲がる。賑やかなそこを通り過ぎてもう一度左にまがると、圧迫感のある大きな城が見えた。そんな神殿の前には十歳くらいの子どもたちが九人と猫の獣人一人の計十人ほどが、もう集まっていた。
普段であれば起きていない時間帯に目をこすりながらも冒険者スクールに参加している咲也子は、よく理解していないながらもとりあえず賛同の声をあげた。
ちなみに、ティオヴァルトにしか聞こえていなかった。当のティオヴァルトは非常に冷めた目線を、掛け声をかけた猫の獣人に投げかけた。うるさいのは嫌いらしい。
「じゃあ、冒険者になりたい諸君! 私についてくるのにゃ! 今日は全部野外授業ってうちのリーダーが決めてるから!」
「お前がやるんじゃねえのかよ」
ティオヴァルトのつぶやきに咲也子はこっくりうなずいた。咲也子も同意見らしい。
神殿から少し歩いたところにある南門からでてすぐのところにある野原まで行きついたとき、先頭を歩いていた猫の獣人が振り返った。全員が漏れなくついてきていることに頷いた後、咲也子とティオヴァルトに目をとめて、首を傾げた。
「にゃ? マフラーのお兄さんとフードのお嬢ちゃん、冒険者ギルドで見たことがある気がするんにゃけど」
「後学のため、に」
「同じ」
「なるほど、勉強熱心にゃ!」
とりあえず参加に問題はないらしかった。
うんうん首を縦に振って、ついてきていた冒険者候補生たちに向き直る。冒険者候補生たちも後方にいた咲也子たちを振り返っていたが、つられて前を向いた。春の穏やかな日差しが心地よく柔らかい風が吹く野原に、猫の獣人の声はよく通った。
「私の名前サーニャです! みんな、私のことはサーニャ先生って呼んでにゃ! 今日は緊急時に使える薬草を紹介した後、実際に皆さんに持ってきてもらいたいと思います! 判別するのは我らがリーダーです!」
どうやらサーニャは講義を担当するらしい。
腰に巻いていたウエストポーチからをあさり、手袋をした片手で草花を五つ取り出し。続いて根元を輪ゴムでくくった草束を、手袋をしていない方の手で出した。ひょいひょいと小さなポーチから取り出す様子はまるでマジックでも見ているような気分になる。
(あんなにいっぱい入らなそうなのに。ああ、マジックバッグの類か)
咲也子が納得しつつ見ている中でサーニャは同じくポーチからだした麻の敷物を広げると、その上に薬草を置く。
根っこが付いたままのそれらはギルドで買い取ってもらえる時に有効なのだということをウインク付きで教えてくれた。
六種類の内一つだけ束でだした薬草を手でつかみながら、サーニャは言った。
「さあて、質問です! ここに一本だけ毒草があります。どれかわかるかにゃ?」
ざわめく冒険者候補の子どもたちに満足したようにサーニャはうなずくと、ぼんやりと眠そうにサーニャの手の中の草束をみる咲也子に気付いた。
後方にいるため、抱きかかえられていても咲也子には見えづらかったのかと思い持ったまま近づいていく。毒草の特徴話し合っている子どもたちをかき分けて、咲也子の目の前に草束を差し出すと、驚いたようフードの中で丸くなる黒い目ににんまりと笑った。
「お嬢ちゃん、わかるかにゃ?」
「ん」
「へ? わかるにゃ?」
こっくりと咲也子が頷く。
ぽかぽかと暖かい日差しに生き物の三大欲求である睡眠欲を刺激される。そうそうにティオヴァルトに抱きかかえられていた咲也子は眠気に目をこすりつつ答えた。
「証明一、本当に毒草があるなら素手では掴まないは、ず。証明二、君は『この草束の中に』とは言わなかっ、た。証明三、この中に種類が違うものは一つとして含まれていな、い。故に、この草束の中には毒草はな、い。そして君の足元にあったのはグーイ草。グーイ草の根には毒があ、る。」
「……あは、ふふふ。うん、正解にゃ!」
毒草はその根っこにも毒があり、決して素手で扱ってはいけない。毒草の性質を理解したうえで、サーニャの言動までを細かく見ての回答に、サーニャは思わず笑ってしまった。
わざわざ証明などとつけるところが厭味ったらしく感じるが、幼い少女がいうことだと、途端に大人ぶってる感がでていてかわいらしかった。
なぜサーニャが笑っているかわからない咲也子が首を傾げている様子をみてもサーニャはさらに笑っていた。解せぬ。
「じゃ、これから講義の後はごはんの後は自分で薬草探しに行ってもらいます! みんなー、ごはんちゃんと食べるんにゃよー?」
はーいと返事をした候補生たちは。きちんと答えられた咲也子に尊敬の目を向けつつ、やっぱり本物の冒険者は違うなと思いを噛みしめた。
サーニャの足もとにあったグーイ草は、決してそうとは見えない可憐な花だった。それぞれの薬草の効能やどういう場面で有効か、生えている場所や副作用について説明しているうちに午前の講義は終わり、午後は実施らしい。
試験でやったことよりも深い内容で展開される講義に、来てよかったと思いつつも他の候補生たちはおもいおもいにシートを広げ、昼食をとりだした。咲也子も草の絨毯の上にシートを広げ、ティオヴァルトが預かってくれていたバスケットから、昼食を出す。
今回は野菜たっぷりのグラタンとサンドイッチ、オニオンスープだった。本日も食堂のおばちゃんたちはいい仕事をしている。
ちなみに、最初に咲也子たちが冒険者であることを知った冒険者候補生の中には勇敢にも話しかけようとしていた者がいたのだが、咲也子と一緒にいるティオヴァルトの眼力に負けて。結局近寄ってくることはなく、誰も勇者にはなれなかった。
「「「おおーー!」」」
「……」
「……ん? ん。お、おー」
さっそくテンションに取り残された2人を朝日が照らしていた。
止まり木を出て左に曲がる。賑やかなそこを通り過ぎてもう一度左にまがると、圧迫感のある大きな城が見えた。そんな神殿の前には十歳くらいの子どもたちが九人と猫の獣人一人の計十人ほどが、もう集まっていた。
普段であれば起きていない時間帯に目をこすりながらも冒険者スクールに参加している咲也子は、よく理解していないながらもとりあえず賛同の声をあげた。
ちなみに、ティオヴァルトにしか聞こえていなかった。当のティオヴァルトは非常に冷めた目線を、掛け声をかけた猫の獣人に投げかけた。うるさいのは嫌いらしい。
「じゃあ、冒険者になりたい諸君! 私についてくるのにゃ! 今日は全部野外授業ってうちのリーダーが決めてるから!」
「お前がやるんじゃねえのかよ」
ティオヴァルトのつぶやきに咲也子はこっくりうなずいた。咲也子も同意見らしい。
神殿から少し歩いたところにある南門からでてすぐのところにある野原まで行きついたとき、先頭を歩いていた猫の獣人が振り返った。全員が漏れなくついてきていることに頷いた後、咲也子とティオヴァルトに目をとめて、首を傾げた。
「にゃ? マフラーのお兄さんとフードのお嬢ちゃん、冒険者ギルドで見たことがある気がするんにゃけど」
「後学のため、に」
「同じ」
「なるほど、勉強熱心にゃ!」
とりあえず参加に問題はないらしかった。
うんうん首を縦に振って、ついてきていた冒険者候補生たちに向き直る。冒険者候補生たちも後方にいた咲也子たちを振り返っていたが、つられて前を向いた。春の穏やかな日差しが心地よく柔らかい風が吹く野原に、猫の獣人の声はよく通った。
「私の名前サーニャです! みんな、私のことはサーニャ先生って呼んでにゃ! 今日は緊急時に使える薬草を紹介した後、実際に皆さんに持ってきてもらいたいと思います! 判別するのは我らがリーダーです!」
どうやらサーニャは講義を担当するらしい。
腰に巻いていたウエストポーチからをあさり、手袋をした片手で草花を五つ取り出し。続いて根元を輪ゴムでくくった草束を、手袋をしていない方の手で出した。ひょいひょいと小さなポーチから取り出す様子はまるでマジックでも見ているような気分になる。
(あんなにいっぱい入らなそうなのに。ああ、マジックバッグの類か)
咲也子が納得しつつ見ている中でサーニャは同じくポーチからだした麻の敷物を広げると、その上に薬草を置く。
根っこが付いたままのそれらはギルドで買い取ってもらえる時に有効なのだということをウインク付きで教えてくれた。
六種類の内一つだけ束でだした薬草を手でつかみながら、サーニャは言った。
「さあて、質問です! ここに一本だけ毒草があります。どれかわかるかにゃ?」
ざわめく冒険者候補の子どもたちに満足したようにサーニャはうなずくと、ぼんやりと眠そうにサーニャの手の中の草束をみる咲也子に気付いた。
後方にいるため、抱きかかえられていても咲也子には見えづらかったのかと思い持ったまま近づいていく。毒草の特徴話し合っている子どもたちをかき分けて、咲也子の目の前に草束を差し出すと、驚いたようフードの中で丸くなる黒い目ににんまりと笑った。
「お嬢ちゃん、わかるかにゃ?」
「ん」
「へ? わかるにゃ?」
こっくりと咲也子が頷く。
ぽかぽかと暖かい日差しに生き物の三大欲求である睡眠欲を刺激される。そうそうにティオヴァルトに抱きかかえられていた咲也子は眠気に目をこすりつつ答えた。
「証明一、本当に毒草があるなら素手では掴まないは、ず。証明二、君は『この草束の中に』とは言わなかっ、た。証明三、この中に種類が違うものは一つとして含まれていな、い。故に、この草束の中には毒草はな、い。そして君の足元にあったのはグーイ草。グーイ草の根には毒があ、る。」
「……あは、ふふふ。うん、正解にゃ!」
毒草はその根っこにも毒があり、決して素手で扱ってはいけない。毒草の性質を理解したうえで、サーニャの言動までを細かく見ての回答に、サーニャは思わず笑ってしまった。
わざわざ証明などとつけるところが厭味ったらしく感じるが、幼い少女がいうことだと、途端に大人ぶってる感がでていてかわいらしかった。
なぜサーニャが笑っているかわからない咲也子が首を傾げている様子をみてもサーニャはさらに笑っていた。解せぬ。
「じゃ、これから講義の後はごはんの後は自分で薬草探しに行ってもらいます! みんなー、ごはんちゃんと食べるんにゃよー?」
はーいと返事をした候補生たちは。きちんと答えられた咲也子に尊敬の目を向けつつ、やっぱり本物の冒険者は違うなと思いを噛みしめた。
サーニャの足もとにあったグーイ草は、決してそうとは見えない可憐な花だった。それぞれの薬草の効能やどういう場面で有効か、生えている場所や副作用について説明しているうちに午前の講義は終わり、午後は実施らしい。
試験でやったことよりも深い内容で展開される講義に、来てよかったと思いつつも他の候補生たちはおもいおもいにシートを広げ、昼食をとりだした。咲也子も草の絨毯の上にシートを広げ、ティオヴァルトが預かってくれていたバスケットから、昼食を出す。
今回は野菜たっぷりのグラタンとサンドイッチ、オニオンスープだった。本日も食堂のおばちゃんたちはいい仕事をしている。
ちなみに、最初に咲也子たちが冒険者であることを知った冒険者候補生の中には勇敢にも話しかけようとしていた者がいたのだが、咲也子と一緒にいるティオヴァルトの眼力に負けて。結局近寄ってくることはなく、誰も勇者にはなれなかった。
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