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「冒険者スクールですか?」
フードを取って顔をさらしながら、優雅に繊細な百合のティーカップを傾ける咲也子の前でテリアは首を傾げた。窓から入る午後の日差しに、テリアの銀髪がきらきらと輝いて。
いつもと同じように紅茶とお菓子で歓迎されながら、咲也子はテリアの道具店に来ていた。
「今日はもう、お休み、ね」
大蛇を食し終わり、その鱗と魔石は後で売ろうということになって【アイテムボックス】にしまわれた。バーベキューセットを片付け終えたティオヴァルトに告げられた一言は、自由行動を許すものだった。
本来、奴隷に自由行動なんてありえない。就寝している以外のすべての時間を就労しているという条件で奴隷として売られるときの金額は決められるからだ。知識が色々不十分な主人がそのことを知らないのかと思って教えたところ
「知ってるも、のー……」
怒ったように頬を膨らませていた。が、若干目線が泳いでいたので、実は知らなかったのではないかとティオヴァルトは踏んでいる。まあ、知っていても休暇を出されたわけで。
日が暮れるまでには帰ってきてねという咲也子に対して、暇を出されたティオヴァルトは呪印を刻まれた叡智の龍を倒すことにした。実は呪いをかけられたあとの記憶がなく、ギルドプレートには踏破の履歴がなかったため、あの後きっと転移石で倒す前に引き上げたのだろうことが分かったからだ。
絶対にあの龍はぶっ倒して、迷宮踏破すると決め。咲也子に迷宮に潜ることを告げた。
咲也子はティオヴァルトと別れたその足で、テリアの道具店へと来たのである。
「そうですね。冒険者スクールは毎日あるわけではなくて、週に一度なんです。だから、次にあるのは……あ、三日後ですね」
ローテーブルの上に置かれた卓上カレンダーを見、三本の指を立てにこにこと告げられた言葉だったが、すぐにテリアは不思議そうな表情を見せる。咲也子は飲んでいたティーカップを置いて、真似て首を傾げて見せた。
「ギルドプレート、お持ちですよね? もう一度スクールに通われるのですか?」
「んー、と。一日体験したいな、って」
「なるほど、場所によって内容が違いますからね」
テリアの店の扉を開けたとき、堂々と手にしたばかりのギルドプレートを掲げて入ってきたのは咲也子である。
正直ほかに客がいたら恥ずかしかったが、中にはテリアしかいなかったから良しとしたい。
テリアの方は鑑定用の眼鏡越しにみたそれがすぐにギルドプレートとわかったため、おめでとうございます! という祝いの言葉と拍手を送ったのだが。
そんなことより、咲也子はスクールに通っていたと思われていたらしい。まあ、常識的に考えてスクール後に冒険者となるわけだから、スクールにも通っていない子どもが冒険者になりたいなんて言わないわけで。咲也子はあいまいに首を傾げて、うなずいて見せた。
「内容違、う」
「はい。その地域によって生える薬草や地形が違いますからね。実践できるところは実践して、地域によっての差は冒険者の方が教鞭をとって教えてくださるらしいですよ。」
ここの冒険者スクールは。と言って、テリアはお茶うけに出したクッキーを咲也子に勧めながら、自分も口の中に放り込む。さっくりとしたバターの甘みと香りが口に広がり、うまく焼けたなあと少し自分を褒めてみた。毎回お茶うけとして出されるお菓子はテリアの手作りであることを知っているのは咲也子だけである。
「今日も紅茶と、クッキーおいしい、ね」
褒められて思わず口元がにやける。こうやって毎回目の前で淹れている紅茶以外も褒めてくれるので理由を聞いたところ、当然のように手作りであることを見抜かれていた。
正直、二十歳を過ぎた男が作っていることに内心引かれているのではないかと思った。が、当の咲也子から「お菓子を作れるのすごい、ね」と褒められたことやおいしいと言ってくれているときにはいつも、花がぽわぽわ浮かんでいるような雰囲気を出しているため、お世辞や嘘ではないことが分かった。
フードを取って顔をさらしながら、優雅に繊細な百合のティーカップを傾ける咲也子の前でテリアは首を傾げた。窓から入る午後の日差しに、テリアの銀髪がきらきらと輝いて。
いつもと同じように紅茶とお菓子で歓迎されながら、咲也子はテリアの道具店に来ていた。
「今日はもう、お休み、ね」
大蛇を食し終わり、その鱗と魔石は後で売ろうということになって【アイテムボックス】にしまわれた。バーベキューセットを片付け終えたティオヴァルトに告げられた一言は、自由行動を許すものだった。
本来、奴隷に自由行動なんてありえない。就寝している以外のすべての時間を就労しているという条件で奴隷として売られるときの金額は決められるからだ。知識が色々不十分な主人がそのことを知らないのかと思って教えたところ
「知ってるも、のー……」
怒ったように頬を膨らませていた。が、若干目線が泳いでいたので、実は知らなかったのではないかとティオヴァルトは踏んでいる。まあ、知っていても休暇を出されたわけで。
日が暮れるまでには帰ってきてねという咲也子に対して、暇を出されたティオヴァルトは呪印を刻まれた叡智の龍を倒すことにした。実は呪いをかけられたあとの記憶がなく、ギルドプレートには踏破の履歴がなかったため、あの後きっと転移石で倒す前に引き上げたのだろうことが分かったからだ。
絶対にあの龍はぶっ倒して、迷宮踏破すると決め。咲也子に迷宮に潜ることを告げた。
咲也子はティオヴァルトと別れたその足で、テリアの道具店へと来たのである。
「そうですね。冒険者スクールは毎日あるわけではなくて、週に一度なんです。だから、次にあるのは……あ、三日後ですね」
ローテーブルの上に置かれた卓上カレンダーを見、三本の指を立てにこにこと告げられた言葉だったが、すぐにテリアは不思議そうな表情を見せる。咲也子は飲んでいたティーカップを置いて、真似て首を傾げて見せた。
「ギルドプレート、お持ちですよね? もう一度スクールに通われるのですか?」
「んー、と。一日体験したいな、って」
「なるほど、場所によって内容が違いますからね」
テリアの店の扉を開けたとき、堂々と手にしたばかりのギルドプレートを掲げて入ってきたのは咲也子である。
正直ほかに客がいたら恥ずかしかったが、中にはテリアしかいなかったから良しとしたい。
テリアの方は鑑定用の眼鏡越しにみたそれがすぐにギルドプレートとわかったため、おめでとうございます! という祝いの言葉と拍手を送ったのだが。
そんなことより、咲也子はスクールに通っていたと思われていたらしい。まあ、常識的に考えてスクール後に冒険者となるわけだから、スクールにも通っていない子どもが冒険者になりたいなんて言わないわけで。咲也子はあいまいに首を傾げて、うなずいて見せた。
「内容違、う」
「はい。その地域によって生える薬草や地形が違いますからね。実践できるところは実践して、地域によっての差は冒険者の方が教鞭をとって教えてくださるらしいですよ。」
ここの冒険者スクールは。と言って、テリアはお茶うけに出したクッキーを咲也子に勧めながら、自分も口の中に放り込む。さっくりとしたバターの甘みと香りが口に広がり、うまく焼けたなあと少し自分を褒めてみた。毎回お茶うけとして出されるお菓子はテリアの手作りであることを知っているのは咲也子だけである。
「今日も紅茶と、クッキーおいしい、ね」
褒められて思わず口元がにやける。こうやって毎回目の前で淹れている紅茶以外も褒めてくれるので理由を聞いたところ、当然のように手作りであることを見抜かれていた。
正直、二十歳を過ぎた男が作っていることに内心引かれているのではないかと思った。が、当の咲也子から「お菓子を作れるのすごい、ね」と褒められたことやおいしいと言ってくれているときにはいつも、花がぽわぽわ浮かんでいるような雰囲気を出しているため、お世辞や嘘ではないことが分かった。
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