上 下
35 / 78

しおりを挟む
「冒険者登録、お願いしま、す」
「いけません。あなたのように幼い子を冒険者に推薦するような人はここにはいません」
「俺が推薦人だ」
「何しちゃってくれてるんですか!?」

 さっそく断られてしまった。やっぱり先日に成人していることを伝えたのは本気にされていなかったらしい。
 断ったミリーにティオヴァルトが咲也子の推薦人であることを告げるとまるで鬼でも見たかのような顔でティオヴァルトは睨まれた。ミリーは顔芸が豊富だなとどこかずれたことを考えながら、咲也子は試験の合格証明であるスタンプ帖をポーチから取り出して見せる。

「合格してきまし、た」
「おめでとうございます。ええ、冒険者登録には必須ですね、わかってますよ! 冒険者登録だってできるのはわかってるんですけど……! 冒険者。汚いマッチョじゃない、冒険者……あれ? 悪くない? むしろ良い?」
「あの女失礼なこと言ってねえか?」

 冒険者……汚いマッチョ……と偏見を全開にして呟いているミリーに、ティオヴァルトが冷たい視線を送る。きっと中にはきれいなマッチョもいると思うよと、咲也子はうんうん頭を抱えているミリーを見ながら心の中で念じておいた。そうじゃない。
 ミリーがあきらめたようにうなだれながらも必要書類と思われる紙をデスクから取り出す。抱えられている咲也子の前に差し出されたそれはニ枚重なって、下に転写するタイプの用紙だった。

「こちらに、お名前と、年齢、パーティメンバーの名前、パーティ名の記入をお願いします。テスター、お持ちですよね? こちらに種族名と愛称を書いていただきますと、登録されて盗難防止にもつながります。この太枠のところですね。所属ギルドは冒険者ということなので赤となります。また、発行国やランクなどはこちらで記入させていただきますが、討伐履歴などを確認のための魔石に主人登録させますので、こちらの針に指をさしていただいて、血液をプレートについている魔石に吸わせてください」

 うなだれながらも仕事を全うしようとする心持ちは見事で、実際有能ではあった。
 ティオヴァルトに腰を抱えてもらうことで受付のカウンターに高さを合わせ、教えてもらった箇所に記入していく。パーティ名と年齢は別に無記入でも構わないということであったので無視した結果、一分もかからずに書き終わった。
 その次は、と突き出た一本の針先を見る。その下には雫型の紅石が揺れてそれを守るように針の下が囲っていた。見るからに鋭いそれに。

(痛そうだなぁ……)

 思いつつも針に指をさし、ぷつんと皮膚がはじける感覚とともにぷっくりと小さな血の球が指先にできたのを確認してギルドプレートの透明な魔石にその指をあてる。予想よりは痛くはなかった。前でミリーが声のない叫びをあげ続けていたのが妙にうっとうしかったし、ティオヴァルトが先ほどよりも鋭くなった冷めた視線をそんな受付嬢に向けていた。
 そんな様子に周囲でうかがっていた冒険者たちは苦笑いをしていて、中にはミリーほどではないがはらはらとした視線を投げかけている者もいた。
 
 すうっと透明な魔石に血の球が吸い込まれると同時に書類に書かれた文字が、同調したようにうねってプレートへと移行していく。すべての文字を移し終えると同時にプレートが強く光り魔法陣の刻まれたなかに、赤く染まった魔石が特徴的なギルドプレートが完成した。

 おずおずとそれを手に取って。
 ランクD
 サクヤコ
 パーティメンバー:サクヤコ、ティオヴァルト
 と自分の名前が書かれているところを見て、完全に自分のものだと思ったのか、咲也子がまた花をまき散らさんばかりに空気をやわらげた。

「おれ、のー」
「よかったな」

 とりあえずの目的は達成した。
 嬉しそうにギルドプレートを掲げた咲也子に周囲の冒険者からは生暖かい目とミリーからは、止まないのではないかと思われるほどに激しい拍手が送られた。
 プレート作成後。ティオヴァルトに降ろしてもらい掲示板を見ににいったものの力仕事や体力のいる仕事などばかりで、咲也子ができそうな依頼は一切なかった。
 古い依頼は月一で消化されるのだとミリーが教えてくれ、その月一の日が昨日らしかった。咲也子はしょんぼりと肩を落としてティオヴァルトの腕の中に戻っていった。一連の行動中も生暖かい目線は止むことはなかったことをここに記したい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

烙印を理由に婚約破棄。その結果ステータスALL1000の魔導師になりまして

流雲青人
ファンタジー
生まれながらに魔力を一切持たずに生まれたエデンは直ぐに跡取り失格の烙印を押されてしまう。幼い頃は気にしなかった烙印だが、成長していくのにつれ次第にその烙印を気にするようになっていく。性格も暗くなり、笑顔を見せなくなったエデンだったが婚約者が出来、エデンの人生は大きく変わった。 だがある日突然その悲劇は起こった。 「君との婚約を取り消したい」 婚約者からまさかの婚約破棄 その悲しさのあまり、エデンに本来目覚める筈のなかった魔力が目覚める。しかしそれは平均ステータスの300を大きく上回る、ALL1000のステータスだった。 こうして最強の力を手に入れたエデンは家を飛び出し、のんびり自由に生きていく……筈だった。 という物語。 題名変更しました 題名について考えてくれた皆さん、本当にありがとうございましたm(*_ _)m ※3月24日、完結しました

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界でお金を使わないといけません。

りんご飴
ファンタジー
石川 舞華、22歳。  事故で人生を終えたマイカは、地球リスペクトな神様にスカウトされて、異世界で生きるように言われる。  異世界でのマイカの役割は、50年前の転生者が溜め込んだ埋蔵金を、ジャンジャン使うことだった。  高級品に一切興味はないのに、突然、有り余るお金を手にいれちゃったよ。  ありがた迷惑な『強運』で、何度も命の危険を乗り越えます。  右も左も分からない異世界で、家やら、訳あり奴隷やらをどんどん購入。  旅行に行ったり、貴族に接触しちゃったり、チートなアイテムを手に入れたりしながら、異世界の経済や流通に足を突っ込みます。  のんびりほのぼの、時々危険な異世界事情を、ブルジョア満載な生活で、何とか楽しく生きていきます。 お金は稼ぐより使いたい。人の金ならなおさらジャンジャン使いたい。そんな作者の願望が込められたお話です。 しばらくは 月、木 更新でいこうと思います。 小説家になろうさんにもお邪魔しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

処理中です...