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「聞きたいこと、あるから答えて、ね」
ひんとじゃれあいながらの食事を終え早々に部屋に戻ってきた。
人気がないところを選んだもののやはり完全に人が来ないことなどあり得なくて。ひんをカードに戻そうとしたときにやってきた散歩中らしき老人。ひんを見てその神々しさに拝みだしたときには思わず二人と一匹で顔見合わせてどうしようかと思ってしまった。
曰く「神話に出てくるキメラ様の御遣いのような美しさ」らしいが、あながち間違ってはいないなと内心苦笑したのは仕方がなかった。惜しむべくはこの老人はキメラである咲也子こそを拝むべきであったということだろうか。惜しかった。夜も深まりさすがに寒くなってきたため、ひんを拝んでいる老人を無視する形で強制的にカードに戻した。
老人が何事かを言いたげにこちらを睨んだが、小さくくしゃみをした咲也子を見たティオヴァルトの睨みには負けてすごすごと帰っていった。
バスケットをカウンターに返すときに厨房に向かい「ごちそうさまでし、た」と声をかけると「ありがとう」の合唱で帰ってきた。あの奥にいったい何人いたのか謎である。帰りがけに牛乳を自販機で購入しながらも不思議でたまらなかった。
部屋に戻ってきて、備え付けの茶器で紅茶を淹れる。ほんわりと香る紅茶に牛乳と砂糖がたっぷりと入ったミルクティーを作ってローテーブルの上、ティオヴァルトと自分の前に置く。中間地点にはクッキーなどの焼き菓子が乗った皿を配置して。
外で冷たくなってしまった体に手のひらからじんわりと広がる暖が心地よかった。まだまだ夜は長い。暖を取るだけでなく、眠気覚まし的な意味合いも込めていたのが伝わったのか、胡坐をかいていたティオヴァルトが顔を引きつらせているのが分かった。理解はできなかったが。ちょこんと正座をして、咲也子は息を吸った。
「まず、言っておきたい。おれはキメラで、す」
「……馬鹿にしてんのか?」
「本当のこと、だ」
背筋を伸ばしてティオヴァルトの目を見ながら告げる。何を言っているのかと言わんばかに強く視線が返される。
「……仮にキメラだとして、なんでこんなとこにいんだよ」
「んと。んー、突然ぽいってされて。たぶん誰か迎えに来てくれるから、待ってる、の」
「それでいいのかよ」
テーブルの上に置いたカードの中のひんが反抗するようにカタカタと震えている。
しかし、ティオヴァルトはすぐに考え込み、今日奴隷商館で会ってからの出来事を思い出すかのように視線を緩めて咲也子を見返す。
あの威圧の包容ともいうべきあれは、人間に出せるようなものではない気がして。確かにところどころふるまいに違和感は拭えないが、貴族の箱入り娘で一歩も外に出ることがなかったと考えた方がよっぽども信憑性は高い。そうしたら、あの顔面の傷や今現在外に出ていることに対して新しい疑問として出てきてしまうが。それも飲み込んで信じようと心が傾くのを感じた。
信じる気になったのは咲也子が自らに不利となるような嘘をつくはずがないと確信しているからだ。出会って間もなくても、あれを、昼間の威圧を見ればわかる。
ただ頷かせとけばいい奴隷にこんな無為滑稽ともいえる話をするのは、話しておいた方が効率的だろうというある種さめた考え方をしたのだろうとティオヴァルトは察した。
ひんとじゃれあいながらの食事を終え早々に部屋に戻ってきた。
人気がないところを選んだもののやはり完全に人が来ないことなどあり得なくて。ひんをカードに戻そうとしたときにやってきた散歩中らしき老人。ひんを見てその神々しさに拝みだしたときには思わず二人と一匹で顔見合わせてどうしようかと思ってしまった。
曰く「神話に出てくるキメラ様の御遣いのような美しさ」らしいが、あながち間違ってはいないなと内心苦笑したのは仕方がなかった。惜しむべくはこの老人はキメラである咲也子こそを拝むべきであったということだろうか。惜しかった。夜も深まりさすがに寒くなってきたため、ひんを拝んでいる老人を無視する形で強制的にカードに戻した。
老人が何事かを言いたげにこちらを睨んだが、小さくくしゃみをした咲也子を見たティオヴァルトの睨みには負けてすごすごと帰っていった。
バスケットをカウンターに返すときに厨房に向かい「ごちそうさまでし、た」と声をかけると「ありがとう」の合唱で帰ってきた。あの奥にいったい何人いたのか謎である。帰りがけに牛乳を自販機で購入しながらも不思議でたまらなかった。
部屋に戻ってきて、備え付けの茶器で紅茶を淹れる。ほんわりと香る紅茶に牛乳と砂糖がたっぷりと入ったミルクティーを作ってローテーブルの上、ティオヴァルトと自分の前に置く。中間地点にはクッキーなどの焼き菓子が乗った皿を配置して。
外で冷たくなってしまった体に手のひらからじんわりと広がる暖が心地よかった。まだまだ夜は長い。暖を取るだけでなく、眠気覚まし的な意味合いも込めていたのが伝わったのか、胡坐をかいていたティオヴァルトが顔を引きつらせているのが分かった。理解はできなかったが。ちょこんと正座をして、咲也子は息を吸った。
「まず、言っておきたい。おれはキメラで、す」
「……馬鹿にしてんのか?」
「本当のこと、だ」
背筋を伸ばしてティオヴァルトの目を見ながら告げる。何を言っているのかと言わんばかに強く視線が返される。
「……仮にキメラだとして、なんでこんなとこにいんだよ」
「んと。んー、突然ぽいってされて。たぶん誰か迎えに来てくれるから、待ってる、の」
「それでいいのかよ」
テーブルの上に置いたカードの中のひんが反抗するようにカタカタと震えている。
しかし、ティオヴァルトはすぐに考え込み、今日奴隷商館で会ってからの出来事を思い出すかのように視線を緩めて咲也子を見返す。
あの威圧の包容ともいうべきあれは、人間に出せるようなものではない気がして。確かにところどころふるまいに違和感は拭えないが、貴族の箱入り娘で一歩も外に出ることがなかったと考えた方がよっぽども信憑性は高い。そうしたら、あの顔面の傷や今現在外に出ていることに対して新しい疑問として出てきてしまうが。それも飲み込んで信じようと心が傾くのを感じた。
信じる気になったのは咲也子が自らに不利となるような嘘をつくはずがないと確信しているからだ。出会って間もなくても、あれを、昼間の威圧を見ればわかる。
ただ頷かせとけばいい奴隷にこんな無為滑稽ともいえる話をするのは、話しておいた方が効率的だろうというある種さめた考え方をしたのだろうとティオヴァルトは察した。
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