28 / 78
疑問にとける夜
しおりを挟む
「ごはん、外でもい、い?」
「……ああ」
結局、なぜか委縮してしまった館主にティオヴァルトの代金である金貨三百二十枚を光金貨一枚で支払うと、なぜこんな子供が大金を持っているのかという表情をしたが、すぐに何かに納得したようにうなずきながら速やかに支払いに応じてくれた。意味が分からない。
その後はもともとティオヴァルドが自己清算するときにも手放さなかった大剣や服などの装備品をティオヴァルトの持ち物であるマジックバッグにまとめて受け取り、奴隷印の所有者書き換えを行ったり、奴隷に関する法の説明などを聞いていると、気づいたらもうどっぷりと日もくれ、夕暮れも終わる時間帯だった。
ティオヴァルトには首にマフラーを巻いてもらうことで奴隷の証である首輪を隠して、奴隷服から普段着だという全身黒の装備に着替え、その上から薄茶のローブを着てもらい奴隷商館から一緒に出てきた。驚くべきは黒いジャケットに黒いパンツの膝から下は黒いブーツ、腰には大剣を支えるための黒い革のベルトが三本巻いてある。肩当てと胸当ても全身黒で、すべてが何かしらの効果がついた装備品であるということだった。
それを売ればかなりのお金になったのではないかと思うが、ティオヴァルトは断固として手放さなかったらしい。冒険者でも一ヶ月に金貨三枚稼げれば良い方であるこの冒険者世界で、ティオヴァルトが借金として背負っていた金貨三百二十枚という金額がどれだけ莫大かわかる。
フードを被りなおして止まり木に戻り、とりあえず夕飯のために食堂に直行した。いつもなら扉を開けると待っていたかのように話しかけてくれるミリーはいなかった。
(朝もいなかったし、いそがしいだけかと思ったんだけど……お休みなのかな)
そんなことを考えつついつものため池のあるベンチで食べられるように、バケットサンドをひんの分を含め十本分注文する。
「君、は?」
「あー……二本で」
「お金ならあるの、よ?」
「……十本で頼む」
まさかの自分とひんを含めての同じ本数分食べるとは思わなかったが、随分我慢しようとしていたらしい。
(……かわいい)
視線をそらしながら言うさまにいじましささえ感じた。
木の板にはられた紙に『バケットサンド・持ち帰り・二十本分・コーンスープ・水筒二本分』と訂正しなおしてから食堂受付に提出すると、本当にあっているのかなぜか何回も確認された。首を傾げながらも連れたちの分を含めてだと説明するとやっと納得してもらえたが。
二十三と走り書きされた紙を受け取って食堂内のテーブル席で包みあがるのをティオヴァルトと一緒に待つ。手持ち無沙汰に足をぶらぶら揺らしていると、いつからかティオヴァルトがこちらをじっと見ていることに気付いた。睨んでいるような目つきなものの特に不機嫌そうな空気は感じないため、これが彼にとっての普通なのだろうと咲也子は思った。
「な、に?」
「さっきは、悪かった」
フードを脱ぐように言ってという一言がなければ、何を謝られているのか正直全く分からなかった。人前でフードをかぶったままなんて非常識だと思われるだろう。咲也子もそう思う。ただ、自分が非常識だと思われることよりも。
この傷をさらして相手を不愉快にさせることの方が、咲也子にとってはよっぽども怖いことだった。
『気持ち悪い子』やさしかった母の声で吐かれたその言葉が、耳を離さないうちはまだ。
騒がしい冒険者たちでにぎわっている中でも小さく聞こえたその消え入りそうな謝罪は、気まずさを含んでいて、その不器用さが咲也子には好ましかった。気にしてないよ、とフードを被った頭を横に振ったところで。
二十三番のかたーと大声で呼ばれた。椅子をおりて、自分の手の中にある二十三と書かれた紙を握り、ティオヴァルトと一緒に受け取りに行く。さすがに二十本分のバケットサンドと水筒二本分のコーンスープは持てそうにない。丁寧にもバスケットにいれてくれたそれらをティオヴァルトが受け取る。
「バスケットは食い終わったら、カウンターに置いてってくれりゃいいからね!」
「こっちのでっかい兄ちゃんはいいけど、お嬢ちゃんはもっと食べて大きくなるんだよ!」
威勢のいい瓜二つの顔をしたおばちゃんたちに背中をたたかれ、咲也子は背骨が折れるかと思った、とのちに語った。
「……ああ」
結局、なぜか委縮してしまった館主にティオヴァルトの代金である金貨三百二十枚を光金貨一枚で支払うと、なぜこんな子供が大金を持っているのかという表情をしたが、すぐに何かに納得したようにうなずきながら速やかに支払いに応じてくれた。意味が分からない。
その後はもともとティオヴァルドが自己清算するときにも手放さなかった大剣や服などの装備品をティオヴァルトの持ち物であるマジックバッグにまとめて受け取り、奴隷印の所有者書き換えを行ったり、奴隷に関する法の説明などを聞いていると、気づいたらもうどっぷりと日もくれ、夕暮れも終わる時間帯だった。
ティオヴァルトには首にマフラーを巻いてもらうことで奴隷の証である首輪を隠して、奴隷服から普段着だという全身黒の装備に着替え、その上から薄茶のローブを着てもらい奴隷商館から一緒に出てきた。驚くべきは黒いジャケットに黒いパンツの膝から下は黒いブーツ、腰には大剣を支えるための黒い革のベルトが三本巻いてある。肩当てと胸当ても全身黒で、すべてが何かしらの効果がついた装備品であるということだった。
それを売ればかなりのお金になったのではないかと思うが、ティオヴァルトは断固として手放さなかったらしい。冒険者でも一ヶ月に金貨三枚稼げれば良い方であるこの冒険者世界で、ティオヴァルトが借金として背負っていた金貨三百二十枚という金額がどれだけ莫大かわかる。
フードを被りなおして止まり木に戻り、とりあえず夕飯のために食堂に直行した。いつもなら扉を開けると待っていたかのように話しかけてくれるミリーはいなかった。
(朝もいなかったし、いそがしいだけかと思ったんだけど……お休みなのかな)
そんなことを考えつついつものため池のあるベンチで食べられるように、バケットサンドをひんの分を含め十本分注文する。
「君、は?」
「あー……二本で」
「お金ならあるの、よ?」
「……十本で頼む」
まさかの自分とひんを含めての同じ本数分食べるとは思わなかったが、随分我慢しようとしていたらしい。
(……かわいい)
視線をそらしながら言うさまにいじましささえ感じた。
木の板にはられた紙に『バケットサンド・持ち帰り・二十本分・コーンスープ・水筒二本分』と訂正しなおしてから食堂受付に提出すると、本当にあっているのかなぜか何回も確認された。首を傾げながらも連れたちの分を含めてだと説明するとやっと納得してもらえたが。
二十三と走り書きされた紙を受け取って食堂内のテーブル席で包みあがるのをティオヴァルトと一緒に待つ。手持ち無沙汰に足をぶらぶら揺らしていると、いつからかティオヴァルトがこちらをじっと見ていることに気付いた。睨んでいるような目つきなものの特に不機嫌そうな空気は感じないため、これが彼にとっての普通なのだろうと咲也子は思った。
「な、に?」
「さっきは、悪かった」
フードを脱ぐように言ってという一言がなければ、何を謝られているのか正直全く分からなかった。人前でフードをかぶったままなんて非常識だと思われるだろう。咲也子もそう思う。ただ、自分が非常識だと思われることよりも。
この傷をさらして相手を不愉快にさせることの方が、咲也子にとってはよっぽども怖いことだった。
『気持ち悪い子』やさしかった母の声で吐かれたその言葉が、耳を離さないうちはまだ。
騒がしい冒険者たちでにぎわっている中でも小さく聞こえたその消え入りそうな謝罪は、気まずさを含んでいて、その不器用さが咲也子には好ましかった。気にしてないよ、とフードを被った頭を横に振ったところで。
二十三番のかたーと大声で呼ばれた。椅子をおりて、自分の手の中にある二十三と書かれた紙を握り、ティオヴァルトと一緒に受け取りに行く。さすがに二十本分のバケットサンドと水筒二本分のコーンスープは持てそうにない。丁寧にもバスケットにいれてくれたそれらをティオヴァルトが受け取る。
「バスケットは食い終わったら、カウンターに置いてってくれりゃいいからね!」
「こっちのでっかい兄ちゃんはいいけど、お嬢ちゃんはもっと食べて大きくなるんだよ!」
威勢のいい瓜二つの顔をしたおばちゃんたちに背中をたたかれ、咲也子は背骨が折れるかと思った、とのちに語った。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
アラフォー少女の異世界ぶらり漫遊記
道草家守
恋愛
書籍版が発売しました!旅立ち編から石城迷宮編まで好評レンタル中です!
若返りの元勇者、お忍び休暇を満喫す?
30歳で勇者召喚された三上祈里(女)は、魔王を倒し勇者王(男)として10年間統治していたが、転移特典のせいで殺到する見合いにうんざりしていた。
やさぐれた祈里は酒の勢いで「実年齢にモド〜ル」を飲むが、なぜか推定10歳の銀髪碧眼美少女になってしまう。
……ちょっとまて、この美少女顔なら誰にも気づかれないのでは???
溜まりまくった休暇を取ることにした祈里は、さくっと城を抜けだし旅に出た!
せっかくの異世界だ、めいいっぱいおいしいもの食べて観光なんぞをしてみよう。
見た目は美少女、心はアラフォーの勇者王(+お供の傭兵)による、異世界お忍び満喫旅。
と、昔に置いてきた恋のあれこれ。
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ループn回目の妹は兄に成りすまし、貴族だらけの学園へ通うことになりました
gari
ファンタジー
────すべては未来を変えるため。
転生者である平民のルミエラは、一家離散→巻き戻りを繰り返していた。
心が折れかけのn回目の今回、新たな展開を迎える。それは、双子の兄ルミエールに成りすまして学園に通うことだった。
開き直って、これまでと違い学園生活を楽しもうと学園の研究会『奉仕活動研究会』への入会を決めたルミエラだが、この件がきっかけで次々と貴族たちの面倒ごとに巻き込まれていくことになる。
子爵家令嬢の友人との再会。初めて出会う、苦労人な侯爵家子息や気さくな伯爵家子息との交流。間接的に一家離散エンドに絡む第二王子殿下からの寵愛?など。
次々と襲いかかるフラグをなぎ倒し、平穏とはかけ離れた三か月間の学園生活を無事に乗り切り、今度こそバッドエンドを回避できるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる