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「きれい、ね」
「ひんっ!」

 結晶の名にふさわしく、あたりには大きな結晶が隆起していたし、天井自体も光が乱反射して内部を神秘的に照らしていた。観光客の大半は入り口のところでガイドに写真を撮ってもらいはしゃいでいたが、そのままに連れられ五階へと直通できる転移陣に乗って行ってしまった。

 迷宮は潜るものだ。
 天井に向かって上る迷宮などは存在せず、地下に進むように潜っていくから迷宮の探索は潜ると表現される。だから、咲也子が扉のすぐ横にある階段を下がっていくことも、潜ると表現されるのだ。
 でも、この迷宮の名前は結晶塔。上ることができないものに対し塔、五階とは上と下どちらに向けていっているのか非常に気になるところであるが。

「階段も、水晶なんだ、な」
「ひん!」

 カードの薄桃色の核石から白い光でひんが形作られる。
 と、真っ先に階段に触れ、その上で何回か飛び跳ねてみる。安全だよ! と知らせるようにもう一度ひん! と鳴いて見せた。
 迷宮の二階層は一階層とはそんなに変わりがなかった。どこで生み出されているかもわからない光が反射して隆起している結晶に当たり、きらきらして美しかった。あえて言うのなら水晶の色が少し濃くなったように感じるくらいだろう。
 そして、階段を降りきった瞬間。覆いかぶさらんばかりに魔物が襲ってくることくらいだろうか。こういう風に階段で下がっていくと、さすがに比較的安全度の高い迷宮であっても魔物に襲われる。

(だから一気に五階にまで行ってしまう必要があるのね)

 実際に襲われつつ咲也子は感慨深く思った。まったく危機感というものを感じない主人に対して、慌てたように横を歩いていたひんが前に出る。

「ひんっ!」
「‘小さな水球'を放て」

 ひんの口がぷくっと膨れて、そこから水の球が連発される。
 正直に言って、咲也子には黒っぽい何かが襲ってきたことしかわからなかった。何かが覆いかぶさるように襲ってきたことは確認したが、はっきりと姿を見る前にひんに攻撃を命じていたからだ。
 
 しかし、攻撃を受けてぐらりとよろめいたものの踏みとどまる魔物に、目を合わせ'憤怒'による視線合致と石化を使う。
『合致』という言葉がふさわしいほどにそれは型に収まったように咲也子の青い目と、魔物たちの赤い目、対照的な両者の目がぴったりと合わさる。

 どれくらいだろうか。そうしていると、とんと足元に衝撃がはしった。
 下を向くと、ひんが一生懸命にすり寄ってきていた。甘えるように、もうやめようと語り掛けるようなそれに応えひんを抱き上げる。
 瞬きをして目を黒く戻し、周囲を見回すと目が合っていたはずの魔物たちは一切の例外なく石像になっていた。それにちょっとだけ首を傾げてから。

「‘小さな水球'を放て」

 物理的に砕いてお終いだった。
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