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(今日は四月《しづき》の二日で、ここはマロウ大陸なのか。お母さん、来たことあるって言ってたな。白軽貨百枚で銅貨一枚、銅貨百枚で銀貨一枚……屋台で軽食を銅貨十枚、しかもそれが普通ってことはそれがあの程度の食べ物の相場で。それから百枚ずつ上がってくのか。銀貨があって、金貨があって、白金貨、光金貨がある……ってお母さんが言ってた。でもあれからだいぶ経ってるし、もうちょっと情報が必要かも。……テリアの店? 迷宮品取り扱い……ん、やっぱり目立つか)
‘虚飾‘の認識齟齬により姿を消し、くたびれた馬と古めかしい荷台。藁売りと思われる馬車のひき車につまれた藁のなかに隠れて入門し、その後はすぐに藁の隙間から人通りをみて馬車から転がるようにして路地裏へと逃げ込んだ。
騒がしいそこは市場の真裏だったらしく、身なりを整えて路地裏を出たとたん、すぐに人の波にあった。メインストリートらしかった。
とりあえずティーポッドは路地裏で左手の【アイテムボックス】へと入れ、思う丈に伸びるケープをふくらはぎまで伸ばして一般人を装う。
灰色の石畳に、整然と並んだレンガ造りの家。それのどの家も太い煙突が、空高くに突き出ていた。人々の頭上には所々にょっきりと何がしかの看板掛けが生えている。上を見上げると、天辺がわからないほど高い尖塔がいくつか確認できた。
不規則にならんだ、大小不揃いのテントが食材から服、軽食、鍋に至るまで様々な商品がその下に置かれた樽やござの上で売られていて。通りを歩く人々は白いシャツにスカートやスラックスを基調として、赤いストールを羽織ったり緑色の腰布をまいたりとお洒落をしていた。
売り込みの声が騒がしい中、混雑した人混みにもみくちゃにされながらも流れに乗って歩く。自分の上で交わされる会話から、看板に書かれた単語から、同じ物品を売る店の価格を比較し妥当を割り出していくことで必要な情報を収集していく。
偶然にも子どもへとお使いを頼み、貨幣の説明をしている母親の側を歩けたのは幸運だったといえるだろう。なぜ咲也子を見ながらひとりでのお使いをぐずる子どもをあやしていたのかはわからないが。
咲也子の強みは、キメラとしての能力ではなくその思考力である、と咲也子の大切なひとが言っていた。同時にいくつものことを考えられることと、才能のひとつである‘暴食‘の情報収納による絶対的な記憶力での知識。一つのことに対していくつもの予想を立て、その中でも‘強欲‘の最善選択によりその時に最善のものを選び出すことができる。恐ろしいほどの冷静さと、最善を選び出す力に長けていると称賛された時を思い出して、思わず目を細めてしまう。ひとりにやけ(かけ)ていることなど悟られてはいないだろうが、口元を袖て隠す。だが、周囲は売買以外の声でもざわついていた。
「なあ、あの仕立て良い子迷子か?」
「近くに親御さんいないよな?」
「でもお使いかもしれないじゃない」
「お使いなら邪魔すんのもなぁ。迷子じゃなきゃいいんだけどね」
「もし、迷子だったら警備隊に送ってってやろうぜ」
抱えていたクマのぬいぐるみに、‘虚飾‘で変身させた<災厄>を抱えなおす。
年端も行かぬどころか、六か七歳にしか見えない子どもがフードを顔が見えないくらいまで深く被り大きなクマのぬいぐるみを抱えて、親も近くにいなくうろうろしている。とくればすわ迷子か、一人でお使いか、と周りを騒がしくさせていた。
ちなみに、人の流れに逆らわず進んでいることから、迷子説が現在有力である。たとえ本人にその気はなかったとしてもだ。
(やっぱり、ケープかな。周りの人達の、皆茶色とか黒だし。真っ白は目立つよね。でも、まずはお金作らないとなぁ。お金についても情報はまだ不足かもだし。空間移動が出来なかったから、すぐには帰れないわけだし。お金がないとポーション、買えないよね)
途中、人ごみ越しにみえた紅茶の茶葉を売っている店に興味を引かれないでもなかったがそんなことより、今は救命第一だ。
待っててね、と腕の中の存在に話しかけながらもう一度、安心させるようにゆすり、抱きなおす。ぐったり意識をなくした<災厄>の体は重かった。
フードの中で、瞳は‘暴食‘の絶対記憶で青く染まり続けている。
目立つ理由と思われることを見当違いにつらつらと考えつつ、思考を二転三転させて今後のことについても同時進行で考えていく。
ある程度の常識だと思われる情報収集をその人外の脳に刻み込み、人なみからはずれてまた裏通りへと足を進める。さっき、頭上で交わされていた会話から拾った中で示された道順をたどった。
目指すのは迷宮品を取り扱う店だ。
‘虚飾‘の認識齟齬により姿を消し、くたびれた馬と古めかしい荷台。藁売りと思われる馬車のひき車につまれた藁のなかに隠れて入門し、その後はすぐに藁の隙間から人通りをみて馬車から転がるようにして路地裏へと逃げ込んだ。
騒がしいそこは市場の真裏だったらしく、身なりを整えて路地裏を出たとたん、すぐに人の波にあった。メインストリートらしかった。
とりあえずティーポッドは路地裏で左手の【アイテムボックス】へと入れ、思う丈に伸びるケープをふくらはぎまで伸ばして一般人を装う。
灰色の石畳に、整然と並んだレンガ造りの家。それのどの家も太い煙突が、空高くに突き出ていた。人々の頭上には所々にょっきりと何がしかの看板掛けが生えている。上を見上げると、天辺がわからないほど高い尖塔がいくつか確認できた。
不規則にならんだ、大小不揃いのテントが食材から服、軽食、鍋に至るまで様々な商品がその下に置かれた樽やござの上で売られていて。通りを歩く人々は白いシャツにスカートやスラックスを基調として、赤いストールを羽織ったり緑色の腰布をまいたりとお洒落をしていた。
売り込みの声が騒がしい中、混雑した人混みにもみくちゃにされながらも流れに乗って歩く。自分の上で交わされる会話から、看板に書かれた単語から、同じ物品を売る店の価格を比較し妥当を割り出していくことで必要な情報を収集していく。
偶然にも子どもへとお使いを頼み、貨幣の説明をしている母親の側を歩けたのは幸運だったといえるだろう。なぜ咲也子を見ながらひとりでのお使いをぐずる子どもをあやしていたのかはわからないが。
咲也子の強みは、キメラとしての能力ではなくその思考力である、と咲也子の大切なひとが言っていた。同時にいくつものことを考えられることと、才能のひとつである‘暴食‘の情報収納による絶対的な記憶力での知識。一つのことに対していくつもの予想を立て、その中でも‘強欲‘の最善選択によりその時に最善のものを選び出すことができる。恐ろしいほどの冷静さと、最善を選び出す力に長けていると称賛された時を思い出して、思わず目を細めてしまう。ひとりにやけ(かけ)ていることなど悟られてはいないだろうが、口元を袖て隠す。だが、周囲は売買以外の声でもざわついていた。
「なあ、あの仕立て良い子迷子か?」
「近くに親御さんいないよな?」
「でもお使いかもしれないじゃない」
「お使いなら邪魔すんのもなぁ。迷子じゃなきゃいいんだけどね」
「もし、迷子だったら警備隊に送ってってやろうぜ」
抱えていたクマのぬいぐるみに、‘虚飾‘で変身させた<災厄>を抱えなおす。
年端も行かぬどころか、六か七歳にしか見えない子どもがフードを顔が見えないくらいまで深く被り大きなクマのぬいぐるみを抱えて、親も近くにいなくうろうろしている。とくればすわ迷子か、一人でお使いか、と周りを騒がしくさせていた。
ちなみに、人の流れに逆らわず進んでいることから、迷子説が現在有力である。たとえ本人にその気はなかったとしてもだ。
(やっぱり、ケープかな。周りの人達の、皆茶色とか黒だし。真っ白は目立つよね。でも、まずはお金作らないとなぁ。お金についても情報はまだ不足かもだし。空間移動が出来なかったから、すぐには帰れないわけだし。お金がないとポーション、買えないよね)
途中、人ごみ越しにみえた紅茶の茶葉を売っている店に興味を引かれないでもなかったがそんなことより、今は救命第一だ。
待っててね、と腕の中の存在に話しかけながらもう一度、安心させるようにゆすり、抱きなおす。ぐったり意識をなくした<災厄>の体は重かった。
フードの中で、瞳は‘暴食‘の絶対記憶で青く染まり続けている。
目立つ理由と思われることを見当違いにつらつらと考えつつ、思考を二転三転させて今後のことについても同時進行で考えていく。
ある程度の常識だと思われる情報収集をその人外の脳に刻み込み、人なみからはずれてまた裏通りへと足を進める。さっき、頭上で交わされていた会話から拾った中で示された道順をたどった。
目指すのは迷宮品を取り扱う店だ。
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