幼女神の物見遊山観光記

小雨路 あんづ

文字の大きさ
上 下
2 / 78

プロローグ

しおりを挟む
 白いテーブルクロスの敷かれた、丸いテーブルを十名で囲む。 
 白いシャツにプリーツスカートとスラックスを基調に、それぞれ色の違っているカーディガンを身に着けそれと同色の髪と青い目を持つ九名。

 それに囲まれるように、上座に座っているのは、白いケープに時代遅れの黒いワンピース、白いタイツに茶色のブーツをはいた顔に傷があるが。前髪の一部を三つ編みにして、赤いリボンで止めているところがかわいらしい、幼い少女だった。

 猫のドアベルのかかった扉の両横にある磨きぬかれた窓からは新緑に萌える木々が見える。
 そんな窓辺には多肉植物やサボテンを白いティーカップを模した植木鉢に寄せ植えし、取っ手には可愛らしく赤いリボンが巻かれたものなどが置かれていた。
 テーブルは白いレース調のテーブルクロスが敷かれたものが、全員が着席している丸いもののほかに、四角いものが三つの窓辺にそうような形で配置されている。
 穏やかな春の日差しは、木製のカウンターの中に置かれた調味料や茶葉の入ったたくさんの小瓶をきらめかせて、店内に反射していた。
 ガラス瓶に混じって丸く眠る猫の置物やくちばしを小さく開けてつぶらな瞳で見てくる小鳥など可愛らしい物が所々に置かれていた。

 開けていた窓からはすうっと柔らかい風が吹き込んで、新緑の香りとともに白いテーブルクロスを揺らす。 

 店自体は木造でそれが、全体的にアンティーク調な店内に拍車をかけている。また、可愛らしい小物がそこら中に散りばめて置いてあり、女の子らしい柔らかい雰囲気となっていた。

 バニラと数種類のベリーの甘酸っぱさ漂うパイタルト、口の中でアーモンドクリームを残して消えるマカロン、ふわふわ真っ白の生クリームに艶やかな苺が一粒のったショートケーキ、しっとりスフレのチーズケーキとスコーンのジャムはマーマレード、レモンクリーム、ミルクジャム。三つのティースタンドに全種ずつ配置されたそれらと、二つの大きなボウルの中にはきらきらひかるクラッシュコーヒーゼリーとオレンジムースといった変わり種が用意されていた。 

 アッシアの紅茶、リリアの茶葉、ミルクティー。
 彼らの主たる咲也子さくやこが日々ブレンドを繰り返し、彼らの好みのため個々に作る紅茶はその時のティータイムの内容によって変わる。今回は渋めに攻めてみた咲也子は皆に口々に紅茶を淹れる腕を褒められて嬉しそうである。
 白い取り皿に好きなお菓子を取り、彼女に紅茶を淹れてもらい、この会の主役である咲也子との会話を才能たちは楽しんでいた。  

「主、コーヒーゼリーのお代わりはいかがでしょうか」 
「主、見てみなよ。次兄の皿、性格でてるよねぇ」  

 暖かくなった日差しに、黒いカーディガンを腕までまくり、ガラスの器でコーヒーゼリーを差し出してくる襟足の長い‘傲慢‘の名を持つ才能の青年・クロエと。全種類を皿からはみ出んばかりに乗せている赤いカーディガンの青年、クロエと同じ顔形の‘強欲‘ことマシロを揶揄する白いカーディガンのおさげの少女‘暴食‘であるキイナ。
 ちなみにキイナはマカロンとスコーンのみを自分の皿に移し、他のお菓子は弟である茶色のカーディガンを着た、所々癖っ毛の青年‘色欲‘ことヒイナからぶんどっていた。
 本当に性格がよくにじみ出ている。  

「主、ショートケーキもうまい。食べてみるといい」  

 ヒイナはそんな姉の態度をいつものことと受け流し、ショートケーキの苺をすくい咲也子の口元に近づける。
 姉からの弟への仕打ちはいつものことであり、もう反応すら面倒くさくなったのか。
 だが  

「うん。おいしい」 
「あんたにやったんじゃないぞ、次兄!」  

 さすがに怒った。小さい主にあげようと苺の部分をすくっておいたのにも関わらずマシロが食らいついたからだ。挙句の果てにおいしいとか。
 そんなことはわかっている! といった目線で睨んだ。これもけっこういつものことだ。 

「あらら、じゃあ私からはコーヒーゼリーを、我が主に」 
「あー、じゃあ僕からはオレンジムースね」  

 ‘虚飾‘である月色のカーディガンを身に着けたポニーテールの少年とツインテールの少女、リヨとニナにあーんとつられて口を開けると最初にコーヒーゼリー、飲み込んだらオレンジムースをいれてもらう。

 つるつると喉を通る感触が楽しくて、ひんやりと気持ちよかった。おいしい。満足そうに頷いて、咲也子は空気を綻ばせる。ほわほわと花が舞わんばかりのそれに、全てのお菓子を手掛けたクロエも嬉しそうな顔をして口元を緩める。
 続いてクロエが入れてくれたコーヒーゼリーを食し始める。  

 おいしくてぱたぱたと地面から十センチほども離れた両足を揺らす。黒いワンピースの裾を揺らして、白いタイツに包まれた足が喜びを表現していた。
 
 小さい子どもがよくやる仕草に。可愛らしい、と周りの才能へびたちが頬を緩める。窓から入ってきた風が、それぞれのカーディガンと同色の髪を揺らした。すべての青い目は愛おしいものを見るように和んでいた。

「主、お行儀が悪いですよ。いけません」
 
 行儀悪くもいっぱいにうれしさを表現していた咲也子をクロエがたしなめる。
 いさめられて足を止め、しょんぼりとうつむきながら咲也子のスプーンを持つ手が止まる。
 クロエは苦笑すると、咲也子の手からスプーンを受け取り、取り皿に乗ったコーヒーゼリーをその小さな口に入れていく。

「主、あーんですよ」
「主を叱るなんて長兄ちょうけいも調子に乗ってると思わないかい? この万年片想いのロリコンが」
「万年片想い関係ねえだろ。ロリコンでもねえっつうの。黙れ長妹ちょうまい
「主、哀れ」
「我が主が外で食事をとるときに、他の奴らから『礼儀知らず』だなんて思われた方が哀れだろう」

 にやにやしながらキイナが煽り、マシロも乗っかる。振った方は厭味いやみ半分、乗った方は主への好意百%だったが。
 クロエと同意見のヒイナがため息をつく。少し疲れたようにかっちりと第一ボタンまではめていたシャツのそれを一つ外した。

「もう、長姉もにぃたちもやめなよね」
「それ以上やっても事態は好転せず、むしろ現在主がコーヒーゼリーを食していることで主の満腹中枢が刺激されるだけとなる気がするんだが」  

 ‘憂鬱‘であり、漆黒のカーディガンを着ている肩までのストレートの少年と腰まである髪をふんわりと巻いてある少女ミサキとマイは一応止めるものの我関せずを貫いた。
 なぜか。だってティータイムを始める前に主に一枚ずつクッキーを食べさせていたからだ。事前に咲也子と触れ合うことが出来ていた。つまり、ご機嫌。
 二人ともいっぱいにスフレチーズケーキを頬張っていた。

「えー、長兄ってロリコンじゃなかったの? ユカリ初めて知った!」

 キイナの悪ふざけにほいほい乗っかる紫紺色のカーディガンを身にまとう少女‘怠惰‘ことユカリはプリーツスカートを揺らしながら言う。暇ならばひょいひょい煽りに乗るユカリはどうやら暇だったらしい。にまにまとした口元をぶかぶかのカーディガンの折り返した袖で隠すが、雰囲気が場を全力で煽っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された運送屋、僕の【機械使役】は百年先の技術レベルでした ~馬車?汽船? こちら「潜水艦」です ドラゴンとか敵じゃない装甲カチカチだし~

なっくる
ファンタジー
☆気に入っていただけましたら、ファンタジー小説大賞の投票よろしくお願いします!☆ 「申し訳ないが、ウチに必要な機械を使役できない君はクビだ」 ”上の世界”から不思議な”機械”が落ちてくる世界……機械を魔法的に使役するスキル持ちは重宝されているのだが……なぜかフェドのスキルは”電話”など、そのままでは使えないものにばかり反応するのだ。 あえなくギルドをクビになったフェドの前に、上の世界から潜水艦と飛行機が落ちてくる……使役用の魔法を使ったところ、現れたのはふたりの美少女だった! 彼女たちの助力も得て、この世界の技術レベルのはるか先を行く機械を使役できるようになったフェド。 持ち前の魔力と明るさで、潜水艦と飛行機を使った世界最強最速の運び屋……トランスポーターへと上り詰めてゆく。 これは、世界最先端のスキルを持つ主人公が、潜水艦と飛行機を操る美少女達と世界を変えていく物語。 ※他サイトでも連載予定です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

戦力より戦略。

haruhi8128
ファンタジー
【毎日更新!】 引きこもりニートが異世界に飛ばされてしまった!? とりあえず周りを見学していると自分に不都合なことばかり判明! 知識をもってどうにかしなきゃ!! ゲームの世界にとばされてしまった主人公は、周りを見学しているうちにある子と出会う。なしくずし的にパーティーを組むのだが、その正体は…!? 感想頂けると嬉しいです!   横書きのほうが見やすいかもです!(結構数字使ってるので…) 「ツギクル」のバナーになります。良ければ是非。 <a href="https://www.tugikuru.jp/colink/link?cid=40118" target="_blank"><img src="https://www.tugikuru.jp/colink?cid=40118&size=l" alt="ツギクルバナー"></a>

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

処理中です...