転生者だか魔王だか知らんが俺の娘はオマエにはやらん

雨実 和兎

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<精一杯の笑顔>

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「もうやめて-!! お願いだからトウちゃん逃げて…… 」

背後でエミリが懇願して、泣く声が響く。

其れでも、自分はエミリを守る事を諦める気は無い。

我が娘を置いて逃げても、生きる意味が無いだろう。

其れが召喚獣だから守ってくれていると、エミリに思われていてもだ。

そんな事を考えていると、言葉の通じなさそうな魔物が触手を伸ばし。

火を吹き焼き斬る、攻防は繰り返される。


触手自体はデカイが焼き斬る事が出来ているので、何とか凌いではいる。

問題は辺りが紫色に変わる程の、この毒粉だ。

吸い込まなくても、一定の時間で息苦しくなり。

皮膚が爛れだし、意識を失い死ぬ。

エミリに毒の効果が及んでいないのがせめてもの救いだが、自分はもう何度死んだかも解らない。

死んでは蘇り、蘇りは死んでを繰り返している。

「ゲホッ……、グフッ……」

目眩がしてきて、羽も皮膚から崩れ落ちだしている。

どうやら、次の死期が近付いているようだ。

もう此れでは不死鳥として死なないというよりは、死ねないと言った方が正しいのかもしれない。

そんな皮肉めいた事を考えてしまうが、今はありがたいと思えた。

自分が諦めない限り、エミリを守り続けられるのだから。


また苦しむ自分を見てエミリが泣き出すので、精一杯の笑顔で語り掛ける。

「そんなに心配するな……、トウちゃんが何度でも絶対に守ってやる!」

「……でも。 もう……、 もう見てられない……」

こんなに泣かすつもりではなかったのに、エミリの涙は止まらなかった。

娘の為なら、何度死のうと苦しくなんてない。

そう思っていたからこそ、気付けなかった。

其の繰り返されるが、エミリの泣く理由だった事。

其の重要性を、自分は理解していなかったのだった。



再び蘇り、目覚めた時。
背後に居るはずのエミリが居ない。

何故だ
蘇る時間が長かったのか…… 。

振り返り、理由は直ぐに解った。
エミリは自ら魔物の方に歩いていき、触手に捕らわれる。

「エミリなんで……!? 」

「私が捕まれば…… 。トウちゃんはもう苦しまなくても良い…… 、だから…… 」

無情にもエミリを捕らえた触手は、エミリを体内に引き摺り込んでいく。

「……そんな、 ……そんなの認められない!!」

自分一人が生き延びて、飛んで逃げても幸せな訳がないだろう。

エミリが居なければ、生きてる意味なんて何も無いのだから。

必死で炎を吹き、体当たりして救出しようとしても。

もう手前の触手が邪魔で、焼き切ってもエミリには届かない。

エミリの名を叫ぶが、虚しく響く。

もう自分の力では、どうしようもない絶望の最中。

エミリは笑顔を浮かべ、別れを悟った様に呟く。

「お父さん、ありがとうね…… 」

「……!? 、気付いていたのか…… 」

「当たり前じゃない、仕草もしゃべり方も同じなんだから…… 」

そう言って、エミリは笑いながら触手の本体に取り込まれてしまうのだった。
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