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<守るもの>

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時は少し戻り。

破邪の塔内部で追跡調査を進めていたギズ隊長率いるコボルト調査部隊は、塔内の状況に驚愕していた。

「酷い匂いだ、此処でも毒を使っているな」

進む程に増えていくセトが殺した魔物の残骸を見つめ、隊員は呟く。

「ギズ隊長。 毒の残留で匂いからの追跡難航していますが、キャンプに戻りますか?」

「いや追跡は継続だ、間違いなく迫っているからな」

そう言ってギズ隊長はセトが流した血痕を確認し、調査部隊は進んで行く。

其の判断は勘に拠るものではなく、ギズ隊長は死骸の温度から近いと読んでいた。

魔物がセトにより一掃されていた事で、迷宮内での戦闘は少なく。

駆け続ける調査部隊の追跡ペースは、通常の迷宮攻略では考えられ程に速くなっていた。

数時間後。

「かなり近いな、警戒して進むぞ」

そう言って、ギズ隊長が視ていた魔物は微かに鼓動しており。

セトに攻撃されて間もない事を、隊長は読み取っていた。

隊員達が周囲に警戒を強めた時、迷宮に凄まじい揺れが起き。

立っていられない程の衝撃に、隊員達にかつてない緊張が走る。

其の時だった。
再度続く揺れと、響く建物の破壊音。

其れと同時に天井が崩落し、上階から大量の瓦礫が落ちてきたのだった。

「皆大丈夫なようだな、後の問題はアレか……」

そう言って警戒する隊長の視線の先には、瓦礫と共に落ちてきたゴーレムが立ち上がるのだった。

「ギズ隊長あれって、破邪の塔守護者って奴ですか…… 」

「落ちた衝撃で動かないって事は、無さそうですね…… 」

隊員達は愚痴をこぼしながらも陣形を整え、ゴーレムの一挙一動に警戒している。

「追跡は中止だ、隙が在れば此の場を離脱するぞ」

ギズ隊長の指示は、守護者で在るゴーレムと戦闘しても敵わない事を意味しており。

戦闘が始まってしまえば、全滅する可能性が高い事を物語っていた。

完全に立ち上がったゴーレムの目元に光りが灯り、其の視線が調査部隊を捉える。

「来るぞ!! 」

ゴーレムは右腕を振り上げ、調査部隊に迫る。

立ち向かうコボルト調査部隊は、降り下ろされた右腕を避け。

弓と剣の連係でゴーレムに攻撃を浴びせるが、頑強なゴーレムの身体には傷一つ付いてなく。

更に降り払うゴーレムの左腕に依って、前衛の調査部隊二人が突き飛ばされる。

「グッハ…… 」

壁に強く打ち付けられた前衛二人は、そのまま意識を失い。

二人を庇うように前に出たギズ隊長が善戦、俊敏な動きでゴーレムの意識を反らし。

倒れた二人を守っているが、敵は体力という制限の無いゴーレム。

いずれ力尽き倒されるのは、誰の眼にも明らかだった。

息を切らしながら、陽動を続けるギズ隊長の限界を察し。

フォローをしようと後衛が前進したタイミングで、ゴーレムの剛腕が狙いを変える。

「俺の部下に手は出させん」

そう言って体当たりをして、後衛を庇ったギズ隊長は打ち飛ばされ。

震える後衛を一人残し、意識を失うのだった。

「ギズ隊長-!! 」

判断ミスを嘆く、後衛の叫び声が悲しく響く。

もう逃げる事すら出来なくなった状況でも諦めず、後衛は倒れた隊員達の前に立つ。

「かかってきやがれ、この岩石野郎が-!! 」

後衛は精一杯の虚勢を張り、立ち向かう。

再び右腕を振り上げ、迫るゴーレム。

絶体絶命の瞬間。

飛んできた岩石魔法に直撃したゴーレムは後ずさり、其の視線は標的を奥に変える。

「旨い儲け話しってのは無いもんだね」

そう言って後方から表れたのは、ルミニー達一行だった。
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