上 下
107 / 143

<それぞれの冒険>

しおりを挟む
重症を負いゴーレムから逃げ延びたセトだったが、休む間も無く次の戦いは始まる。

下の階層ではスキルを奪われた魔物達が、仲間を集め待ち構えていたのだ。

勿論魔物達の目的は、セトへの報復である。

上階には攻撃の効かないゴーレム、目の前には種族の垣根を越え徒党を組んだ魔物達。

「そんなの卑怯でしょ……」

辛うじて人である意識を保つセトの表情は、驚きで眼を開き。

自分がしてきた事を省みない言葉を呟いても、魔物達は待ってはくれない。

其れでも魔物と化したセトは、飛び交う魔物達の攻撃を避け。

進化した爪や牙で攻撃、確実に魔物の数を減らしていく。

次第に消耗していく体力や魔力を、殺した魔物を喰う事で補い。

命からがら何とか、不利な戦況を保っていた。

だが次々と襲い迫る魔物達に、セトは壁際に追い込まれ。

いよいよ逃げ場も無くし窮地の中、魔物達は四方八方から飛び掛かる。

幾ら魔物と化したセトでも、此の状況を打開する事は不可能であり。

因果応報の如く、死に迎えられた瞬間。

「暴食の禁忌が発動されました」

機械的な女性の声が響く。

最後にセトが食べていた、食人植物の影響を受けてなのか。

魔物と化していたセトの姿は、植物の様に紫を帯びた緑色に変貌。

蔓の様に伸びていく手足は巨大化し、その場に居る魔物達を捕食していく。

静かな迷宮に、響く咀嚼音と魔物達の悲鳴。

異変に気付いた魔物達は我先にと逃走を始めるが、押し合う通路に逃げ場は少なく。

阿鼻叫喚の地獄さながら、次々と捕まり食べられていく魔物達。

魔物という養分を得た事で、暴食植物と成ったセトは更に巨大に進化していく。

破邪の塔の壁や天井を突き破り、伸び続ける食手が塔に絡まりながら塔全体を侵食。

まるで最初から、仕組まれた一本の花だったかの様に。

頂上に到達した蔓は、妖しき紫色のつぼみを成す。

世界の滅亡を告げる様に、空の色は紅紫に変わる。

つぼみから漏れ出る毒粉は、通りすぎる鳥を殺し。

其のつぼみが咲いた時の甚大な被害を、容易に物語っている。

人としての、セトの意識などは当に無く。

悪意すら越えた、起こるはずのない災害が起きた瞬間だった。



其の頃。
破邪の塔入り口テントに居たルミニー達は、経験した事の無い大きな揺れに慌ててテントから脱出。

見上げた破邪の塔は、異常に大きな蔓が壁を突き破り巻き付いている。

「此れは異常事態だぞ。こんな現象は文献にも無い、これでは塔が倒れてもおかしくないぞ…… 」

「すぐに隊長を助けなければ…… 」

「だが隊長は待っていろと…… 」

一緒にテントから抜け出した、コボルト調査部隊の隊員達は混乱を窮めていた。

其の間も蠢き続ける蔓の食手は、森の中へと範囲を拡げていく。

「アンタ達、引き受けてやろうか? 」

意外なルミニーの一言に、コボルト達は困惑の表情を返し。

リジョンとルドエルの二人は、諦めた様子で溜め息を吐く。

「此の状況で、いったい何を引き受けるって言うんだ? 」

「決まってるじゃないか、アンタ達隊長の救出依頼だよ」

元より危険だと云われている破邪の塔に、更なる非常事態。

自ら死地に飛び込む様なもので、誰の眼から見ても生存確率は低い。

「正気か? 報酬なら喜んで払うが死にに行く様な物だぞ…… 」

「勿論正気さ。 アタシ達は冒険者だからね、他人の行けない所に行ってなんぼなのさ」
しおりを挟む

処理中です...