上 下
103 / 143

<ピクニック>

しおりを挟む
時は戻り魔王城。

畑で野菜の収穫をしている、エミリとトウを見付けた。

とは言っても、トウはエミリの肩に乗ってるだけっぽいが。

「景色の良い場所を近くに見付けたんだ、たまにはピクニックでもしないか?」

俺のピクニックという言葉に、トウは疑いの眼差しの様な鋭い視線を送る。

だがトウとは違い、エミリの反応は笑顔で上々だ。

「良いですねマオーさん。 それでは準備します、皆さんを呼んで楽しみましょう」

まあ、皆さんは要らないのだが。
どちらにせよ、二人にはなれないから仕方ない。

「じゃあ、時間が経ったら呼びに行くよ」


数時間後。
おかしい……。
エミリとピクニックの約束をしてから、結構時間は経ったはずだが何処にも見当たらない。

ついでに声を掛けようと思った、ガオンとゴブドも見付からない。

この二人は、放っておいても大丈夫だろうが。

これは何か在ったのか?
食事の材料調達にしては長すぎるし、盗賊や魔物に襲われたとか。

あるいは、最近大人しいウスロスが何かしたのか。

不安を抑え早足で玉室に戻ると、クイーンが玉座で居眠りしている。

「皆で景色を観ながら食事をする予定なんだが、エミリを知らないか? 」

「わらわは知らぬぞ。皆と云わず、わらわと二人で良いのでないか? 」

アクビをしながら答えるクイーンは、艶かしく擦り寄り。

骸骨姿でも伝わる柔らかな肉感が、煩悩と理性を戦わせる。

「二人での食事は、又の機会だな」

何とか魔王らしく返したが、正直それは勘弁願いたい。

二人で食事というよりも、俺が食われそうだ。

どうしても仲間を食っていた、あの恐ろしい紅い蟻の姿を思いだしてしまう。

迫るクイーンから離れ、王室を出てネズを探す。

ウスロスには出来るだけ関わりたくないから、もう聞ける相手はネズしか居ない。

やっとの思いで見付けたネズだったのだが、何とも話し掛けにくい。

畑で作業している骸骨兵を、ネズはヨダレを垂らし食い入る様に見つめている。

かなり近付いている俺に、全く気付かない程の凝視。

話し掛ければ其れが今度は、骸骨姿である自分に向くと思うと憂鬱だ。

「ネズ、………」

恐る恐る声を掛けてみたが、自分の世界に入っているのか反応は無く。

ヨダレが滴り落ちて、自分の服を汚してる事すら気付いていない。

「ネズよ、聞きたい事が有るのだが」

やっと振り向いた、ネズの瞳孔は開ききっている。

怖ぇえ。
骨好き過ぎだろ。
幾ら獣人とは云え、犬の比率が高すぎねーか。

「エミリが何処に居るか知らないか? もしかしたら、何か事件に巻き込まれたかもしれない」

改めて聞き直すと、ネズは鼻を上げ不敵な笑顔を返す。

「私の鼻なら探すのは簡単ですけど、私も何か褒美が欲しいですわ」

最近ゴブドに、名前という褒美をあげた事を聞いたのか。

仮にも俺は魔王で上司なのだが、これでは褒美というよりは恐喝じゃねーか。

だが問題ない、ネズの欲しい物は解っている。

「逃げ回る骸骨兵を1体くれてやろう、其れでどうだ?」

「直ぐに始めますわ」

大量にヨダレを落としながら笑顔を返すネズ。

コイツには、ピクニックの飯は要らなさそうだな。

もう既に、ピクニック気分じゃねーか。

こうして行方不明となった、エミリの捜索が始まるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

処理中です...