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<クッキー>
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駆け寄るグレンに獣人の女性は驚いていたが、ベンの飼い主だと理解して笑顔を返す。
「ベンちゃんって言うんですか、カワイイですね」
そう言って女性はベンを撫で回し、ベンは腹を見せたまま尾を振り喜んでいる。
骸骨姿になってからのベンは、社交辞令でも可愛いなんて言われた事は無い。
其のせいか、自分以外の人間になついた事も無く。
ベンの楽しみはグレンとの散歩と、母が焼いてくれるクッキーだけだった。
骸骨姿のベンが怖くないのか?
獣人だから感性が違うのだろうか?
言葉を無くし驚くグレンの表情は、そう言っているようだった。
獣人の女性サラは長い耳と小さな身体が特長的な、人懐っこい兎の獣人。
孤児院の子供達に誘われ、肝試しに来た先での出逢いだった。
「サラさん~! やっぱり骸骨なんて居ないや」
茂みの奥から、楽し気に笑う子供達の声が響き。
グレンは常備している布で、慌ててベンを隠す。
其れを見ていたサラは、グレンを気遣い。
「こっちにも居ないわ」
そう嘘を言って、グレンに笑顔を返し去って行く。
布で隠されたベンは、名残惜しそうに尾を振り。
「変な噂にならなければ良いが…… 」
そう言って心配するグレンを慰める様に、ベンはグレンを見つめている。
「そうなれば違う国に行って、もう会い事も無いだろうな…… 」
サラの背中からいつまでも視線を逸らせないグレンも、淋しい気持ちはベンと同じ様だった。
翌日。
いつもと同じように日課の散歩に出掛けると、突然ベンが駆け出し。
追いかけるグレンの心は、少し舞い上がっていた。
もしかしたら、またサラに逢えるかもしれない。
そんなグレンの思いに応える様に、立ち止まるベンが見上げる先にはサラが居たのだった。
「またベンちゃんに会いに来ちゃいました」
そう言って笑顔を返すサラは、ベンの頭を撫で鞄から何かを取り出す。
「クッキー焼いちゃったけど、ベンちゃん食べれるかな…… 」
すでに匂いで嗅ぎ付けていたのか、ベンは飛びはねて喜んでいる。
「ベン待て。待てだ、すいません食いしん坊で…… 」
サラに飛び付くベンの身体を、グレンは両手で抑え。
制止するグレンが困った顔を返すと、サラは吹き出し。
「食べても、大丈夫そうですね」と言い、思わず二人は笑い合う。
互いに初めて出逢った時から、惹き合う何かを感じていたのか。
見た目で判断しない優しい性格のサラに、グレンが恋に落ちたのは云うまでもなく。
そして誘われた訳でもなく、再び逢いに来たサラも其れは同じだった。
其れからも何度となく、二人と一匹は同じ時を過ごし。
グレンとサラが付き合う様になり、一緒に暮らす様になるには其れほど時間は掛からなかった。
「ベンちゃんって言うんですか、カワイイですね」
そう言って女性はベンを撫で回し、ベンは腹を見せたまま尾を振り喜んでいる。
骸骨姿になってからのベンは、社交辞令でも可愛いなんて言われた事は無い。
其のせいか、自分以外の人間になついた事も無く。
ベンの楽しみはグレンとの散歩と、母が焼いてくれるクッキーだけだった。
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獣人だから感性が違うのだろうか?
言葉を無くし驚くグレンの表情は、そう言っているようだった。
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其れを見ていたサラは、グレンを気遣い。
「こっちにも居ないわ」
そう嘘を言って、グレンに笑顔を返し去って行く。
布で隠されたベンは、名残惜しそうに尾を振り。
「変な噂にならなければ良いが…… 」
そう言って心配するグレンを慰める様に、ベンはグレンを見つめている。
「そうなれば違う国に行って、もう会い事も無いだろうな…… 」
サラの背中からいつまでも視線を逸らせないグレンも、淋しい気持ちはベンと同じ様だった。
翌日。
いつもと同じように日課の散歩に出掛けると、突然ベンが駆け出し。
追いかけるグレンの心は、少し舞い上がっていた。
もしかしたら、またサラに逢えるかもしれない。
そんなグレンの思いに応える様に、立ち止まるベンが見上げる先にはサラが居たのだった。
「またベンちゃんに会いに来ちゃいました」
そう言って笑顔を返すサラは、ベンの頭を撫で鞄から何かを取り出す。
「クッキー焼いちゃったけど、ベンちゃん食べれるかな…… 」
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「ベン待て。待てだ、すいません食いしん坊で…… 」
サラに飛び付くベンの身体を、グレンは両手で抑え。
制止するグレンが困った顔を返すと、サラは吹き出し。
「食べても、大丈夫そうですね」と言い、思わず二人は笑い合う。
互いに初めて出逢った時から、惹き合う何かを感じていたのか。
見た目で判断しない優しい性格のサラに、グレンが恋に落ちたのは云うまでもなく。
そして誘われた訳でもなく、再び逢いに来たサラも其れは同じだった。
其れからも何度となく、二人と一匹は同じ時を過ごし。
グレンとサラが付き合う様になり、一緒に暮らす様になるには其れほど時間は掛からなかった。
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