転生者だか魔王だか知らんが俺の娘はオマエにはやらん

雨実 和兎

文字の大きさ
上 下
86 / 143

<求める強さ>

しおりを挟む
「俺でいいのか…?」

「うん!フェアンじゃなきゃだめなんだ!」

そう言ったアリンの目はもう泣いてなどなく決意に満ち溢れ光り輝いていた。

「わかった。一緒に行こう。どこまでも一緒だ!」

2人は微笑み合いどちらからともなく優しくキスをした。

アリンが気持ちを伝えてくれた。もう俺だけ秘密にしておくわけにはいかない。

初めは可愛いアリンに嫌われたくない、もう少し一緒にいたいという気持ちだけだった。でもそれが共に過ごすようになり、幸せな事も辛い事も分かち合う中で一生そばにいたいと思うようになった。

ーー伝えよう。自分がルシュテン王国の王子だということを。
そして、この日に共に生きてくれるようアリンへの永遠の愛を誓おう。


ーーー



「う~…蒸し暑いね、まだ6月になったばかりなのに…」

ノスティアからデリアへ向かう道のりは山道を通る。6月と言う事もあり道中は木々が生い茂り湿気で汗が体に張り付いた。アリンを俺の前に座らせて馬で移動しているが、猫獣人は人間よりも体温が高いからかアリンは見るからに辛そうで休ませならなければいけないのは一目瞭然だった。

「アリン、一度休もう。」

「ごめんね、僕、他の猫獣人より暑いの弱いみたいで…」

「気にしなくていいさ。まだ時間はあるから休みなさい。ほら水を飲んで…。」

木陰にアリンを下ろしあらかじめ用意しておいた水筒をアリンに渡した。そして自分のカバンからタオルを取り出すとアリンへ告げた。

「アリン、タオルを川で絞ってくるから少し待っててくれるか?冷やした方がいいから…」

「えっ…そこまでしなくていいよ!」

「ダメだ!少し冷やそう、な?」

「う、うん…ありがとう!」

照れるアリンの頭を優しく撫でると近くの小川に向かった。

「ここでいいか…」

サラサラと流れる川にタオルを浸しぎゅっと硬く絞る。そのままタオルを近くの岩に置くとアリンが自分を見ていないかを確認し、ポケットに手を入れた。

ーー1週間ではこれしか用意できなかったが…。

フェアンの掌には木でできた小箱があり中にはシルバーの細いリングが入っていた。

なんの変哲もないただのシルバーリングだが、宝石屋などないノスティアでは、買えるのはこれが限界だった。しかし裏側には永遠の愛を表す『etarnal love』の文字が彫ってあり、それはフェアンが店主にお願いし自分で刻印したものだった。

小箱をもう一度ポケットに大事にしまうと、タオル片手にアリンの元へ走った。
急いで戻るとそよそよと優しい風が流れる中アリンは気持ちよさそうに木にもたれかかり眠っていた。

「アリン…?冷たいタオルだよ。」

「ん…?気持ちいい…。…あれ、僕眠っちゃってた?」

「暑かったからな、疲れたんだろう。もう大丈夫か?」

「うん…!後少しだし大丈夫!」

水分をとって少し眠ったおかげか顔色が良くなったアリンの額をタオルで拭いた。
その後アリン自分の前に座らせ馬の手綱を持つと目的の場所まで向かった。

しばらく歩くと、どうやらアリンの様子がおかしい。肩が小刻みに震え、血の気が引いているように見えた。

「フェアン…。こ、この場所なんだ…。」

ただの森のように見えるが、よく見るとその場所だけには木が生えておらずそこで何があったのかは容易に想像がついた。
アリンは5年前の光景が忘れられないのだろう。ただでさえ白い顔が真っ白になり涙が止めどなく溢れている。

「アリン…大丈夫か?」

「ぐずっ…ふっ……だ、大丈夫。フェアン、馬から…降ろして?」

「わかった。」

馬から降ろすとアリンはよたよたと事故のあった場所に座り込み叫ぶように泣いた。

「おと、さん…おかあさ…ん!ごめん、ごめんね。今まで来れなくて…。痛かったよね、怖かったよねっ…。ずっと来れなくてごめんね…」

まるで幼い子供のように泣くアリンの姿は見ている方も心を痛めた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

刺草(いらくさ)の魔女の娘

吉野屋
ファンタジー
 魔女の母が、国を守って亡くなったという。  気軽に「戦争の手伝いをしてくるので、家の事はよろしくね」と言って家を出て行ったまま・・・。  魔物の森に住んで、引きこもり生活に何の不満もない私のもとへ、魔鳥によって届けられた手紙で半年前の出来事を知らされた。  この事をきっかけに、娘の私は外界に出て自分探しを始める事となる。 ※不定期更新です。よろしくお願いします。    

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界で理想のスローライフを!目指して頑張ってます!!

ララ
ファンタジー
一度は憧れたことがあるのではないだろうか? 異世界召喚や転生に。 かく言う俺もめちゃくちゃ異世界転生に憧れていた時期があった! いつ転生してもいいように、異世界にはないであろうお菓子や調味料、果ては日用品まで準備したセットを作っていたくらいだからな! 社会人となった今となっては黒歴史以外のなんでもないが。 仕事が転勤になって引越しの準備をしていた時、学生の頃に作った異世界リュック(異世界に持っていきたいものを詰め込んだもの)を見つけて自分の黒歴史を思い出し赤面していた時だった。 感じたのは一瞬の痛み、それから周囲の人々の悲鳴が聞こえた。 ーーあぁ、これだめだな。死んだな‥‥ ‥トラックが家に突っ込んできて死ぬって不運すぎない? ‥ラノベなら横断歩道渡ってる途中でしょ! ‥でもトラックに轢かれたことには変わりないから転生できる? ‥どうせ転生するなら異世界がいいなぁとか最後にしょうもないことを考えていた。 次に目が覚めた時最初に見たのは2つの満月だった。 えっ、あっ、マジで異世界? 転生しちゃった?? ******************** アカウントを変えたので再投稿です! 1話ずつ、文章を直しながら投稿していきます。 ちょっとだけ変更あり! 見切り発車で色々と矛盾が出てきていたので改めて設定を考えて書きましたがそれでも変なとこあるかもしれません!指摘してくださると嬉しいです!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...