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<悪運>
しおりを挟む「自分達が殺されるかもしれないからなんて理由で、皆殺しが認められる訳がない」
「……しかしレオン様。人間達は既に兵器を造り、着々と戦争の準備を進めております。早急に手を打たないと、我等獣人は滅ぼされてしまいますぞ」
「其の件はもういい、下がっていろ」
早朝。獅獣王国の王の間にて現王レオンと重役達の会話に、獣人兵士達の表情は動揺を隠せない。
重役達の間でも戦争賛成派と反対派は二分しており、意見が纏まる事は無かった。
決定権を持った獅獣王レオンの一言で、強制的に会議は終わり。
王の間を出た重役は、悲痛な表情で嘆く。
「レオン様は奴隷にされていた獣人達の過去をお忘れなのか、こんな時にガオン様が居れば……」
海岸に面した獅獣王国の街では交易が盛んで、大通りには沢山の露天が建ち並んでいた。
「此所はいつ見ても盛況で、良い街ですな」
無事に着いた喜びからか、商人は御機嫌そうに笑い。
「そうですね」
そう言って愛想笑いを返すセトは、気味が悪そうに多種多様な獣人達を見下ろす。
そんな表情の変化に気付く様子も無く、商人は笑い続け。
馬車は露天の並ぶ港街を通り進んで行き、人通りの少ない路地で停車した。
嘘臭い笑顔で商人と別れたセトは、こうして獅獣王国に降り立ち。
情報収集を兼ねた、港街の探索を始めるのだった。
指名手配された日が一日早ければ、商人に悪人だと気付かれた可能性も在ったが。
そうならずに来れたのは、運が良かったと云えるだろう。
金は余る程に持っていたので、情報収集は簡単だった。
酒場に入り酒を頼み、後は他の客に聞き耳をたてる。
国の規模や交流国・文化や流行等は、数時間居ればおおよその見当は付く。
問題はセトが一番知りたかったであろう情報、指名手配についてだが。
其れは夕方仕事終わりの獣人兵士二人組みが、始めた会話で解決した。
「どうやら人間の国で新しい兵器が造られたらしい……」
「兵器って大袈裟だな、どうせ只の噂だろ。勢力を保とうとして、人間がわざと流してる情報じゃないのか」
馬鹿らしそうに一人は鼻で笑うが、もう一人の表情は真剣なまま変わらない。
「上官から聞いたから間違いない、王宮で議題に上がったからな」
「其の話し真実だとして、どんな兵器なんだ? 」
「一気に何十人も殺せる毒ガスだってよ」
「其れはヤバイな……、武力で補っていた人数差の均衡が崩れて戦争が起きるぞ」
其の話しを聞き終えたセトは、ニヤついた顔で酒場から出るのであった。
人間達は毒ガスを手に入れた事を隠した為、入手先で製作者のセトが指名手配な事もあやふやとなり。
何人かの毒ガス被害者が存在する事から、毒ガスを所持している事実だけが明らかとなったのだった。
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