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<火花>
しおりを挟む時は少し戻り。
マオーとクイーンが、魔王城で戦っていた頃。
苦しそうに胸元を押さえ、倒れたクイーンを俺が見下ろし。
決着は付いたかの様に見えたが、何故かクイーンは笑っていた。
互いに牽制する様に、合わさった視線が火花を散らす。
殺さない様に手加減したとはいえ、笑える状態ではないはずだ。
何か強力な返し技や、回復方法でも有るのか?
解らないが、不気味さが尋常じゃない。
まだ油断は出来ないので、距離を保ったまま警戒していると。
クイーンが笑ったまま、口を開く。
「魔王よ気にいったぞ、妾と子を為そうぞ」
「……!?」
クイーンの言っている意味が解らず、俺はエミリと顔を見合わせ。
そんな困惑している俺達を観て、ウスロスも笑いだしている。
「いったい、何の話しをしているんだ? 」
なんとか魔王らしく装い聞いてみるが、会話の内容のせいで威厳の欠片も無い。
「妾の番を殺したのは、お主なのだから責任を取る必要が有るだろう? 」
そう言って、立ち上がるクイーンの見た目はキレイな女性。
正直、誘われて悪い気はしない。
会話は成立しているので、子を為すの意味は解っているのだろう。
魔物だから貞操観念が、人間とは違うのかもしれない。
だがエミリの前で欲望むき出しでいては、もう話し相手にすらならないだろう。
ずっとエミリの肩に乗ったまま喋らないトウも、行く末を見届けようとしているのか黙ったまま。
それでいて遠慮の無いトウの鋭い視線は、まるで審査員の様だ。
「其れは無理な話しだ、我は骸骨だからな……」
「そういうものなのか、試してみぬと解らぬぞ」
そう言って俺に近付いて来たクイーンは、魅惑的に俺の頬を撫でる。
グヌヌ。
戦闘が続くよりはマシだが、実に困った状況だ。
「離れてくれ……」
「子を為すのを認めるなら、離れようぞ」
そんなやり取りをしていると、王室の扉が開く。
「グレン様お戻りになられたのですね……」
そう言って嬉しそうに、入って来たのはネズだった。
だが俺に摺り寄るクイーンを見て、ネズの顔色が変わる。
「グレン様、その者は……? 」
「妾は魔王の嫁じゃ」
「嫁? 」
「それは違うぞ」
ネズの視線が俺に刺さり否定するが、クイーンは気にせず会話を続ける。
「お主こそ何者ぞ? 」
俺を間に挟み、対峙する二人の視線が火花を散らす。
「私は魔王グレン様、一の配下ネズよ」
一の配下というのも違うが、今は黙っておこう。
「なら妾の部下も同然、下がっておれ」
当然ネズが引き下がる訳も無く、睨み合いは続く。
「仲間割れを止めろ、もういい俺は眠る」
「流石は魔王ぞ、話が早い」
「そういう意味ではない」
透かさず王室を出たが、クイーンとネズが押し合いながら後をつけてきている。
まあまあ早歩きだが、二人を引き離す事が出来ない。
自室寝床の扉を慌てて閉めると、数秒後二人の足音は離れて行った。
やっと一人になったと思ったら、魔王の声が、直接頭に聞こえてくる。
「中々モテてるではないか」
もう、本当に一人にしてほしい。
魔王の言葉を無視して、ベッドに入った俺は寝たふりを決め込む。
オカシイぞ、異世界のハーレムってこんなんじゃね-だろ。
そんな心の叫びすら、隠すしかないのだった。
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