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<二人の笑顔>

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地下の洞穴にキラーアントもどきを集めていたのか、城門の中に魔物は居ない。



「……どうやら魔物も居ないし、大丈夫そうだな」



照れ隠しに先を急ぐと、何事も無かったかの様にエミリが後を追う。



不気味な事に、魔物が居ないのは城の中に入っても同じだった。



「久しぶりに観ると、恐い雰囲気だな……」



「夜だからですよ、骸骨姿なのに以外と怖がりなんですね。 ホラー映画みたいで面白いですよ」



そう言ってエミリは笑い、鼻唄を口ずさむ。



キョロキョロと周りを視て、恐る恐る進む俺と違い。



どうやらエミリには、お化け屋敷やジェットコースター感覚らしい。



今迄気付かなかったが、明らかに俺以上ハートが強いぞ。



見た目は魔王の骸骨姿でも、エミリの前で魔王らしく振る舞う必要は無くなったのだが。



これでは好かれる為に、男らしくも難しいじゃないか。



「少し急ぐぞ」



そんな強がりを言って、誤魔化し。



少しだけ早歩きしたが、もう心音はヘビメタ化している。



もしも、立ち塞がる相手がガオンだったら。



そんな事を考えていると、どうしても身震いする。



今なら勝てるかもしれない、だが先に攻撃を食らったら即アウトだ。



止まらない不安とは裏腹に、城内は静まりかえっている。



玉座で待つ、魔王を試す危険な新しい仲間とやらは予想がつかない。



「……着いたな」



王室の扉を前にして、緊張が走る。



ゆっくりと扉を開けると、王室内にはウスロスともう一人。



紅く長い髪のグラマーな女性が

、玉座に座っていた。



もしかして、この女性の事なのか?



ウスロスが勧誘する位だから、ミノタウロスみたいな魔物を予想していたが。



視たところ普通の女性で、凶悪な魔物には見えない。



冒険者らしき服を身に付けてはいるが、ボロボロで肌が露出しまくっているから。



あまり直視は出来ないのだが…… 



そんな事を考えていると、白々しく頭を下げたウスロスが口を開く。



「流石は魔王様。キズ一つ無く、お早いお着きで感服致します」

毎度ながら不敵な笑顔が、全く言葉と一致していない。



「早速ご紹介致します。此方の女性がキラーアントの女王、クイーンにて御座います」



クククという笑い声と同時に、ウスロスは一歩下がる。



「お主が魔王とやらか、妾は待ちくたびれたぞ」



そう言って殺気を放つクイーンは、玉座から立ち上がり俺を見下ろす。



「エミリ下がっていろ……」



透かさず右腕を伸ばした俺は、空間圧縮魔法でクイーンの心臓を握る。



潰して殺さない手加減は、セト戦で取得済みだ。



悲鳴を上げる間もなく、クイーンは静かにその場で倒れ。



はだけた胸元を押さえたまま、何故か笑いながら俺を見上げていた。
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