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<謝罪>

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「……!? ンゴ、ンググググ……」



目を覚ましたセトは、粘糸で身動きのとれない状態に困惑している。



ンゴンゴと何か文句を言っている様子だが、粘糸で縛ったのは両手と口だから内容は解らない。



まあサイコパス野郎と会話をする気も無いから、丁度良いのだ。



コイツは取り敢えず衛兵に引き渡すつもりだが、その前にやる事が在る。



所謂お仕置き。

勿論エミリを襲った罰だ。



二度と近付きたくなくなる位に、俺が知っている最高の恐怖を味わってもらおう。



サイコパス野郎は顔を真っ赤にして、まだ何か言っているが構わない。

さあ、お仕置き開始だ。



走り出したクーガーは引き摺るセトを気にせず、軽やかに駈けて行き。



「ングゴゴゴ、ンゴ~!!」



セトの、言葉にならない悲鳴が響く。



だが流石に全速力でクーガーを走らす程、俺は悪魔ではない。



痛々しい傷痕は、出来れば視たくないしな。



とはいっても回復魔法は使えないから、多少の擦り傷は仕方ない。



街に着き振り返ると、セトは二度目の気絶をしていた。



盗賊を捕まえたと軽く説明して、衛兵に引き渡す。



「後で詳しい事情を聞かせてもらいます」



宿屋の場所を告げると、衛兵は一礼してセトを連れて行った。



トウの話しでは余罪も多そうだったので、牢屋から出る事は出来ないだろう。



急いで宿屋に戻り宿舎に近付くと、ルミニーと話すエミリの声が聞こえてくる。



今回エミリの護衛をガルのメンバーに頼んだので、安心して行動出来たのは大きかった。



ドアを開けると、心配そうなエミリの声が響く。



「マオーさん無事で良かった……」



「どうやら、当りを引いたのはアンタの方みたいだね……。で倒せたのかい? 」



そう聞くルミニーの表情は、残念そうに見える。



よほど、自分が倒したかったのだろう。



「さっき衛兵に渡してきたから、後で事情を聴きにくるらしい」

少し誇らし気に言うと、呆れた様にルミニーが呟く。



「……そんな服装だけで、よく騙せたもんだね」



其のルミニーの言葉で、思い出した。



俺、エミリの服着た状態だったの忘れてた。



室内には、ガルのメンバーが笑う声が響く



恥ずかしさで赤面する俺を庇う様に、俺の服を手渡しエミリが小声で呟く。



「でもマオーさん、格好良かったですよ……」



赤面のせいじゃなく、身体中の熱が上がったのが解る。



馬鹿にされて笑われてる状況での、この言葉。



これは、彼女が優しい天使だからではない。



これは、もう告白と受け取って良いのじゃないだろうか。



そんな事を考えていると、ドアをノックする音が響き。



さっきの衛兵が入って来て、謝罪を始めるのだった。
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