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<噂>
しおりを挟むエミリ達三人が街に来て、数日後。
レンガ運びの仕事が終わると、仕事仲間で一緒に飯を食って酒を呑むのが日課になっていた。
「マオー、お前も随分慣れてきたな」
「いやいや、ソイツはまだまだ新人だ」
宿屋の食堂に大きな笑い声が響く。
相手が全く遠慮の無い性格だからか、俺やエミリも打ち解けるのに時間は掛からなかった。
いまだに慣れないのはエミリの隣で寝る事と、身動き一つしただけで殺されそうなトウの視線だけだ。
「この現場終えたら、皆は次の現場に行くのか? 」
「ああ、何人かは出稼ぎだから地元に帰るけどな」
「仕事こそ少ないが俺の地元は景色の良い所だぞ、お前らも終わったら遊びに来い」
「行きたい、行きたい!」
「近いんですか? 」
はしゃぐエミリを横目に訊ねると、又トウが睨んでくる。
「近くはないな、獅獣王国の近くだからな」
「獅獣王国?」
「何だお前。隣国も知らないのか、獣人達が住む国だ」
俺とエミリが頷いていると、仲間の一人が心配そうに身を乗り出す。
「獅獣王国の近くって大丈夫なのか? 近頃怪しい噂ばかりだぞ」
「中間地の魔王が倒されたから戦争になるってやつか、この国にそんな戦力無いから大丈夫だろ」
「ところが何か新しい兵器を手に入れたって話しだぞ、最近牢屋に入ってた奴が見たって言ってたぞ」
「何を見たってんだ」
「毒ガスを使われて、身体中の皮膚が爛れた死刑囚の悲惨な姿だって。其の状態で囚われたままだから、夜中でも呻き声が聞こえてくるらしい。ソイツは其れ見て怖くなったから、マジメに生きるって改心したって言ってたぞ」
「……其の話し、本当だったらヤバすぎるな」
一緒に居た誰もが不安で口をつぐむ中、俺が考えていたのは中間地域と言っていた魔王城の事だった。
元は人間だったと魔王は言っていたが、もしかして隣国との戦争から守っていたのか。
理由は解らないが、有り得ないとも言い切れない。
長い間種族違いでの大きな争いが無く、其れが隣国なんて普通では考えられない。
俺がそんな事を考えていた時、ずっとトウが見ていた隣の席では。
「本当に冒険者を辞めるのか……」
「仕方ないだろ、スキルを奪われたんだから……」
「スキルを奪うなんて可能なのか、そんなスキル聞いた事も無いぞ……」
「襲ってきた黒髪のソイツが自慢気に言ってたんだよ、で実際にスキル使えなくなったんだからどうしようもないだろ……」
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