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<チキンレース>
しおりを挟む男にはどうしても負けられない戦いが在る、其れが今だ。
そんな大袈裟な決意を胸に抱き、俺はチキンレースに挑む。
会話が聞こえていないエミリは不思議そうな顔をしているが、気にする事はない。
直ぐに隣に行くのだから。
意外と真剣な表情のルドエルも、手加減する気は無さそうだ。
「……仕方ないね、スリーカウントでいくよ。3・2・1ゴー!!」
ルミニーの合図で俺とルドエルは前傾姿勢を取り、一気にクーガーは速度を上げて走りだす。
ウオォオ~。
やはり速ぇ-。
少しでも気を抜けば、振り落とされそうになる。
だが其れは横並びに走る、ルドエルの方も同じはずだ。
「乗ったばっかりなのにやるな! だが騎乗のスキルを持ってるオレに勝てるかな」
そう言って、ルドエルを乗せたクーガーは更に速度を上げていく。
バカンス野郎そんなスキル持ってやがったのか、なんて卑怯な野郎だ。
だが俺だって、無策で挑んだ訳ではない。
ポイズンスパイダーから得た、この<粘糸>スキルだ。
流石に開始早々アイツのクーガーに使う程、悪魔ではないが自分になら反則じゃないだろう。
こうしてクーガーの首もとに粘糸を巻き付ければ、例え両手を離しても落ちる事は無い。
死ぬつもりは無いが、負けるつもりも無いのだ。
お誂えむきに走っている場所も、段差の在る荒れ地に差し掛かってきた。
騎乗スキルとやらで、バカンス野郎が落ちないのか見物だ。
さあ行け、走れクーガー。
お前の本気を見せてやれ。
だが勝負はここからだと思っていた矢先に、身体が締め付けられ息苦しくなっていく。
此れはもしかして、走る振動で粘糸が絡まってしまっているのか。
マズイぞ。
とにかく粘糸を伸ばして、スペースを確保しなければ。
良し、何とか粘糸を伸ばし自由に動ける様になったぞ。
そう思ったと同時に、俺の身体は段差の反動で宙に飛ばされる。
あれっ? ウオォオ~オゥァ~。
止まれ。
止まりやがれ~。
粘糸~。
粘糸のせいで俺が引き摺られてるぅうぅぅ~。
こうして俺は気を失い、当然チキンレースに負けたのだった。
「魔王さん大丈夫ですか……? 」
眼が覚めると周りにはガルのメンバーが居て、俺はエミリに膝枕されていた。
とんでもない眼にあった。
殺された時よりも怖い体験だ。
気を失っている間に回復してくれたのか、痛くは無いが衣服の破れた背中がスースーする。
「アンタはいったい何がしたかったんだい? 」
ルミニーが冷たい言葉を浴びせかけてくるが、今は気にはならない。
自分のスキルで首が絞まり死にかけはしたが、結果的にはエミリの膝枕をゲットしたのだから。
ざまあみやがれ。
今にもルドエルの悔しげな歯ぎしりが、聞こえてきそうだ。
これぞ、試合に負けて勝負に勝つというヤツだろう。
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