上 下
59 / 143

<バカンス野郎>

しおりを挟む

速ぇ。とにかく速ぇ~。

モフモフどころか、乗り心地すら気にする余裕も無ぇ。

とんでもないじゃじゃ馬だ。



走る二匹のクーガーは、まるで制してみよと云わんばかりの勢いで安全なんて皆無。



近くに集まって居たクーガー達も、とっくに見えやしないし。



勿論、コントロールなんて絶対出来っこない。



必死に掴まってはいるが、何処まで行けば止まるんだ。



そんな事を考えていると、談笑するエミリ達の姿が見えてきた。



どうやら、いつの間にか辺りを一周していたらしい。



指示した訳ではないがクーガーはエミリ達の近くで止まり、顔を上げて俺を見つめている



やっと降りれたと安心する様な俺を、認めてくれたという事なのか?。



試しに頭を撫でてみると、さっき狂った様で走っていたのが嘘の様におとなしい。



隣に居るルドエルのクーガーも、同じように落ち着いている。



やれやれだ。

命懸けだったが、なんとか面目は保てたらしい。



「これで揃ったね、アンタ達そろそろ行くよ」



寛ぐ間も無く、ルミニーが出発を告げる。



もう一度乗るのかと思うと憂鬱だが、あの速度だと躊躇ったら置いてきぼり確実だろう。



それなりの覚悟をして飛び乗ると、走り出したクーガー達は軽やかに駈けて行く。



だが速いのは間違いないが恐怖を感じる様な走りではなく、心地好い走りだった。



変わりゆく景色と、通り抜ける風が解放感へと誘う。



まるで子供の頃に初めて乗った自転車の様に、何処までも行ける気がする。



とはいえ解放感を感じているのは俺だけじゃなく、さっき迄一緒に走っていたルドエルも同じらしい。



この野郎。

ずっと楽し気に、エミリと喋りながら並走してやがる。



女性二人も居るんだし、ガルのメンバー同士で並走すれば良いものをバカンス野郎め。



一応右側は空いているが、右肩にトウが乗っているから話し掛けにくい。



そんな事を考えながら後ろを走っていると、下がって来たルドエルが隣に並び囁く。



「エミリの隣を賭けて勝負するか?」



なんて嫌な野郎だ。

そんなに睨んだつもりは無いが、コイツ気付いてやがったのか。



「どうやって勝負するんだ」



「単純なチキンレースさ。クーガーは前傾姿勢で乗ると速度を上げるから、先にびびって速度を落とした方が負け。解りやすいだろ」



「開始の合図は?」



「ルミニーに号令してもらうさ」



俺達のやり取りを怪訝そうに見ていたルミニーが、ルドエルに聞く。



「アンタ何を始める気だい?」



「少し試してやるのさ……」



「アンタも馬鹿だね。放っときゃ良いものを……、これだから男は駄目なんだよ」



呆れた様子でルミニーは、リジョンと顔を見合わせる。



聞き捨てならね-。

何が試してやるだ、絶対に負かしてやる。



こうして俺は再び、命懸けの戦いに挑むのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...