転生者だか魔王だか知らんが俺の娘はオマエにはやらん

雨実 和兎

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<魔笛>

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只の洞穴とは知らず、ダンジョンだと騙されたまま魔王一行は進み続けていた。



少ない敵とは戦わないという、宣言以降の気楽さは口笛ものだ。



勿論魔王という立場が在るし、暗闇で口笛を吹くのは不吉だから実際に吹く事は出来ないが。



多少のキラーアントならガオンが瞬殺だし、後はお宝を手に入れエミリと仲良くなれれば完璧だ。



「魔王樣何か良い事でも有りました? 」



そんな事を考えていると、ゴブリンが話し掛けてきた。



「何もないぞ……」



もしかして、俺は二やついていたのか。



弱いから社畜の部分しか気にしていなかったが、コイツも以外と油断出来ない。

やたらと俺の事を観てやがる。



歩き続けていると、背後から地震のような地響きが近付いて来ている。



感知を使ってみると、狭い洞穴を埋め尽くす疑いたくなるような反応が。



「ガオン、後ろの道を塞げ」



叫ぶ声に反応して、ガオンは大斧を振り道を塞ぐ。



まるで濁流のような其の反応は、間違いなく百を超えていて。



強いかどうかなんて、そんな確認していれば確実に飲み込まれいた。



もう帰り道の事を考えている暇も無く。



其の判断が正しかったかを知る術は無かった。



「魔王樣、いったい何が起きたんですか……」



「大群が背後から来ていたのだ、我なら倒す事も出来たが此の方が楽だからな」



心配するゴブリンが洞穴の埋まった背後を観ると、瓦礫の隙間からは鋭く光る多数の視線。



「はっ……早く行きましょう」



怯えるゴブリンに急かされ、俺達は再び進み始める。



さっき道を塞いだ事で行き止まりに遭遇するのが一番の不安だったが、ずっと道は続いていた。



取り敢えずは安心出来たが、今の所別れ道も無いし帰れる確証は無い。



誰も口にはしないが一行も其れを理解してか、足取りは重く会話も少なくなっていた。



其れでも数十分歩き続け、辿り着いたのが紅いキラーアントの居る広場だった。



「……魔王樣、何か様子が変です」



広場内の異変に気付いたゴブリンは、後退り怯えた様子で報告する。



眼を凝らして広場内を見渡すと、壁面や床にキラーアントと卵らしき物体の残骸が散らばり。



魔王城の牢獄でも嗅いだ事の無い、鼻を刺すような異臭が漂っている。



自分達以外にもダンジョンに入った者の仕業か、もしくはキラーアントの仲間割れか。



そんな事を考えていると、広場の奥から硬い物を噛み砕く咀嚼音が響く。



其の音がする方向には山の様に残骸が積み上がっていて、其の山の頂上には一匹の紅く異色なキラーアントが座っていた。
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