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<魔王の一歩>

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寝室に移動した俺は、一息ついて寝室内を眺める。

室内には天幕の付いた豪勢なベッドと、机と椅子が綺麗に並んでいた。



異世界に来てからのゴタゴタ続きで疲れていたから、ベッドで寝れるのは素直に嬉しい。



だが、寝る前に確認しておかなければいけない事が幾つか有った。



「魔王なのに配下ってあの獣人しか居ないのか?」



もう呪いの様な状態なせいか、元魔王相手でも敬語を使う気にはなれない。



「魔王など只の呼称にしか過ぎんよ。もう一人ネズという配下が居るが、配下と云っているガオンも戦友みたいなものだからな」



意識内の元魔王が自慢気に語り。



「戦友って・・・・・・」



「まだ我が若かった頃に闘って倒したら、何度も挑んできて城に住み着いたのだ。配下ならいつでも闘えるし城で寝ても良いだろうと言ってきてな」



「其のガオンが俺の事を供物だって云ってたけど」



「其れは我が人間に戻りたいと云っていたからだろう、憑依転生で無理矢理身体を奪って迄戻りたいとは思っていないがな」



「元は人間だったのか、道理で魔王っぽくないと思ったよ」



ある程度納得した俺は魔王の姿のままベッドに入り、布団を被る。



牢屋の冷たい床で寝ていた頃を思えば、贅沢この上ない。



本当は魔王じゃなくって人間だって事は、エミリに明日伝えよう。



やっと手に入れた自由を謳歌するんだ。



ベッドで寝たのは久しぶりだったからか、俺は直ぐに眠りについた。





「グレン樣・・・・・・、グレン樣」



何度も呼ぶ声で目を覚ますと、目の前に居るコボルトの女性と視線が合う。



どうやらもう一人の配下と云っていたネズらしい。



疲れていたので、魔王に擬態したまま眠っていたからバレずに済んで助かった。



寝室でも油断は出来ないな、そんな事を考えているとネズが話しだす。



「城壁がボロボロだったから心配しましたわ」



「ああ、問題無い」



「無事そうで何よりです、本当に食べちゃいたい位ですわ」



今サラリと俺を食べたいと言ってなかったか?

気のせいか。きっと聞き間違いだな。



「本当美味しそうですわ」



そう言ってネズは、滴るヨダレを腕で拭き取っている。



言ってるな。確実に。

配下なのに。

魔王の見た目が骨だらけだからか、犬顔のコボルトという種族的な問題かもしれない。

どちらにせよ油断出来ない相手が一人増えたじゃねーか。



取り敢えず偽物だと気付かれないだけ、良しと思うしかない。



そんな事を考えていると、寝室のドアをノックする音が響く。



「魔王樣城内の掃除が終わりました、次は何をすれば良いでしょうか?」



とんだ社畜じゃねーか。

寝ずに掃除をしていたのか、緑色の皮膚でも解る位にゴブリンの顔が痩けている。



「ゴブリンよ、夜は寝て休憩をするようにしろ」



「はい、命懸けでやらせて頂きます」



命を懸けるな。

ブラック会社じゃねーんだよ。



そんな事を考えていると外で轟音が何度も響く。

敵が攻めて来たのかと、窓から音の出続ける方向を覗くとガオンが大木を殴っていた。



「ガオン何をしているんだ?」



「修業です、身体も温まってきたので闘いましょう」



俺の質問に答えながら、ガオンはサンドバッグのように大木を叩き続けている。



「又今度だな・・・・・・」



そう言って誤魔化し。

振り返ると、いつの間にかウスロスが寝室に入って来ていて。



「何やら騒がしいので、心配になり来てしまいました」



明らかにニヤついた顔をしているウスロスは、心配なんて微塵もしていないだろう。



今日一日で取り敢えず解った事が有る。



最弱で社畜のゴブリン。

何かと俺と闘いたがる戦闘狂の獣人。

俺にかぶりつこうとヨダレを垂らすコボルト。

其れら全ての困った状況を楽しんでそうな魔人。



録な配下が居ね-じゃねーか。。



「まぁ、そう文句を云うな。我の真似も上手くなったではないか」



そう言って意識内の元魔王が、笑う声が頭に響く。



笑ってんじゃねー。

お前の呪いも一緒だよ。



ふと思う。

元魔王相手にでも突っ込めるようになった俺は、本当の意味で魔王に一歩近付いたのかもしれない。

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