上 下
24 / 143

<運命の別れ道>

しおりを挟む
この距離で今更逃げる事が出来る訳なんてなく、三人は覚悟を決めるしかなかった。



残り魔力の少ないリジョンは、支援魔法でルミニーとルドエルを強化。



再び身構え魔王グレンと向き合うが、魔力を開放していない状態でも魔王の威圧感は凄まじく。

斬り込む為に前に出るのも容易ではなかった。



「このまま睨み合ってても埒が明かないね」



そう言ってルミニーが飛び出そうとした時に、魔王が口を開く。



「そう怯えるな人間よ、我に攻撃の意思は無い。我を倒しに来たのだろうが、丁度良い。我は死にたいのだ。寧ろ殺してくれないか」



立ち上がった魔王は、さあ斬れとでも云わんばかりに両腕を広げ一歩前に出る。



「いったい何を企んでいるんだい?」



ルミニーは疑い深く身構えたまま訊ねる。



「何も企んでなぞいないぞ。其の言葉どうりの意味だ。但し我に魔法が効かぬのは、もう解っただろう。其の剣を使うが良い」



そう言って魔王が右手を差し出すと目の前に一本の剣が現れ、剣は宙に浮いたままルミニーの前に移動した。



「此れは・・・・・・、デーモンバスターだぞ」



隣に並ぶルドエルが、思わず驚きの声を上げる。

其れも仕方ない事だと云える。

何故ならデーモンバスターは武器屋で眺める事はあっても、自分達B級冒険者に買える様な低額な武器ではなく。

A級の冒険者でも、持っている者は限られている様な代物だからだ。



「随分準備が良いんだね・・・・・・」



ギャンブル癖のせいで、稼ぎの悪いルミニーの剣は決して高価な物ではない。

だが苦楽を共にした仲間と同様に信用しているし、手入れも欠かした事はない。



「まるでギャンブルだね」



魔王との実力差から考えれば有り得ないのかもしれないが、呪いの武器が存在するのはルミニーも知っているので罠の可能性もなくはない。

だが、ルミニーが手に取り選んだのはデーモンバスターだった。



「じゃあ遠慮なくいかせてもらうよ」



剣を手に取った勢いのまま駆け出し、ルミニーは魔王を袈裟斬り。

魔王は宣言通り抵抗もなく。



「其れで良い・・・・・・」と呟き、その場に倒れた。



リジョンとルドエルの二人は呆気に取られていたが、ルミニーは振り返り。



「この剣売ったら幾らになるかな・・・・・・」



なんて笑顔で、すでにギャンブル資金の算段を始めている。



「駄目に決まってるでしょ」

「駄目に決まってるだろ」



ルミニーが金を使い潰すのが目に見えている、呆れた二人の声が揃う。

三人は笑い合っていたが、状況は予断を許さない。

何故ならリジョンの索敵魔法に検知が有り。



「強力な個体が二体、急速に近付いて来ています」



リジョンが慌てて告げる。

もうリジョンの魔力が切れる頃なのは、経験上二人にも解っていた。

そして其れがチームの命運を握っている事も。



「ここらが潮時だね、撤退するよ」



捜索を諦めるのは苦渋の決断だが、ルミニーの判断は冷静で的確だった。



このまま闘っていれば強力な二体を倒したとしても、チームは間違いなく全滅していただろう。



三人は窓を開けベランダに出ると、リジョンの土魔法で柔らかくした地面に飛び下り駆けて行く。



予想通りに骸骨兵が動かなくなっていたので、脱出は難なく成功した。

だが近付いて来ていた者の中に、救出すべき二人が居たとは思いもしていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...