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<好都合な相手>

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翌日の朝。

早めに済ませた朝食は、目玉焼きだった。



ギルドで仕事の依頼を探しに来たが、他の冒険者達は変わらず冷たい視線を送る。



「気にするな、人の噂もなんとやらだ」



困った様子のエミリを慰め、依頼が貼り出された掲示板を眺める。



「良いのが無いな・・・・・・」



本当はエミリが回復魔法を使えるので、仕事がギルドじゃなく回復士でも良いのだが。

一般的だったからギルドに来ているのに、依頼が少ないのは予想外だった。



初期設定時に、城から離れた町の方がスローライフで良いかと思ったのは失敗だったかもしれない。



「他の町も検討した方が良いのかも知れないな、回復士で募集している所がないか探してみるか」



「うん、観てない所もあるしね」



こうして二人で町を探索してみたが、回復士での募集は見付けられなかった。



「時間の無駄だったな、もう一度ギルドにでも行ってみるか」



「でも、面白い御店沢山在ったよ、魔道具店とか」



そんな事を話しながら歩いていると、椅子と机だけ置いた簡易な出店をしている老婆に話し掛けられた。



「そこのカワイイお嬢ちゃん占いはどうだい?よく当たると評判だよ」



立ち止まる二人に笑い掛ける老婆は、黒ずくめの服装が如何にもな空気を醸し出している。



「トウちゃん、やってみたい」



お金を管理しているのが自分だからだが、娘にねだられるのは何だか懐かしい。



「仕方ないな・・・・・・」



照れ隠しにそう言うと、老婆に支払いを済ます。



「さて、何を占ってほしいんだい」



自信有り気に尋ねる老婆に、エミリは口をとがらせ悩んでいる。



「将来とかはどうだ」



「うん、ソレにする」



「はいはい、お嬢ちゃんの将来だね」



期待の眼差しを向けるエミリに、老婆は笑って答え。

机の上に置いていた水晶に両手をかざすと、水晶の内部が輝き始めた。



「此れは、お嬢ちゃんの運命の相手だね。中々の男前だよ」



水晶の内部は白い煙りがボヤけて見え、うっすらとしか運命の相手の顔は解らない。



「ねぇねぇ、どんな人?何処に行ったら逢えるの?」



前のめりになって聞くエミリに、老婆はオヤオヤと笑い。



「此の世界にとって特別な存在だね、魔王城近くの沼に行ったら会う事が出来るよ」と断言する。



「トウちゃん行ってみよう、だって運命の人だよ」



エミリは無邪気にねだるが、事はそう簡単ではない。



「どれくらい遠いか解らないし、行くにしても魔王城の近くなんだぞ」



「トウちゃんも要るし、近くだからきっと大丈夫だって」



育て方を間違えたのか病気の反動なのか、我が娘ながら楽観視が酷いな。



「さすがに二人で行くのは危なそうだから、ギルドに依頼してみるか」



飛びはねて喜んでいるエミリを見ると、やはり駄目だとは言えないし。

将来の旦那かも知れない相手が気になるのも事実である。



ギルドに移動して職員に確認すると目的の場所には一日位掛かり、依頼に対する報酬は金貨一枚が妥当らしい。

因みに金貨一枚は十万円位の価値に相当するが、この世界での価値であり現実には百分の一である。

来る前に用意しておいた金が多かったから、支払いは大した問題ではなく。

どちらかというと問題は、どんな冒険者なのかだ。



そんな話しをカウンターでしていると、職員が記載していた依頼書を女剣士が取り上げ。



「どれどれ~、金貨一枚良いじゃん~」と女剣士は遠慮無く読み上げていく。



「そんな事しても寝坊は取り消されませんよ」



仲間らしき、女魔導師が冷たくあしらい。



「まあまあ、二人供落ち着いて~」と仲裁に入った男剣士は、その女性二人に睨まれ黙ってしまう。



どうやら男一人、女二人の三人組らしい。



「ウチらが行ってあげようか、泊まりになるから中々受ける人見付からないと思うし」



口調は悪いが、悪気は無さそうに女剣士は微笑む。



思い返しても、昨日の審査騒動には居なかったし。

女性二人と気弱な男一人というパーティーなのも、自分達には好都合な相手だった。
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