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第一部
閑話 ・ 夢見る子供たち⑤
しおりを挟む宰相は、緊急事態室の静寂の中で、重圧を感じながら報告書を整理していた。部屋の壁には古びた地図と王国の戦略計画が掲げられ、机の上には積み上げられた書類が広がっている。薄暗いランプの光が、宰相の顔に不安と疲労の影を落としていた。
竜の異変という予測不可能な状況が王国全体に危機をもたらしつつあることを、彼は肌で感じ取っていた。最初の報告は、竜騎士たちからのもので、白い竜が突如として飛び出し、その後に青竜の群れが王都に向かっているという内容だった。契約竜さえもこの事態に何も答えようとせず、沈黙を守り続けていた。
窓からは午後の光が射し込み、部屋に微かな温もりをもたらしていたが、その光は依然として冷静さを保ち、外の緊迫感とは対照的だった。宰相は、状況の深刻さを再認識しつつ、王国の未来を左右する決断を迫られていることを痛感していた。
辺境地の空陸軍本部に緊張が走り、白い竜の進行方向が王都に向かっていると判明した瞬間、伝達魔法が発動された。宰相は報告を手に取り、状況の深刻さを再認識した。
「もし竜騎士たちがしっかりと動ければ、状況は変わるかもしれないが‥‥」
だが、現実は厳しい。複数の基地を経由する連絡のため、情報が王城に届くまでには時間がかかり、既に王弟ヴィクトルも庭園からの伝達を受けて事態を把握していた。
「これは王国全体に影響を及ぼす重大な問題だ。」
宰相は深いため息をつき、報告をまとめる手が自然と早くなった。部屋の壁に掛けられた古い地図が、その重要性をさらに強調するように見えた。
──────────
「──明朝、アーサー・リブラリオン伯爵閣下を王がお召しになられました。」
その報告が宰相の耳に届いた時、彼は冷たい汗が額に滲むのを感じた。王がアーサー卿を召喚するということは、事態がさらに重大な局面を迎えていることを意味していた。
宰相は、アーサー卿が呼ばれる時こそ、表の歴史ではなく、王国の裏の歴史が大きく動く瞬間だということを理解していた。リブラリオン家の者が関与する時、それは単なる外交的な問題の枠を超え、王国の命運に関わる重大な決断が下されることを暗示している。しかし、宰相はその詳細を知らない。ただ、背後で何か大きな力が動き出すのを感じ取っていた。
宰相は目を閉じ、深い呼吸をしてから、心の中で準備を整えた。部屋の外では、王城の庭園が静かに広がり、星々が静かに瞬いていた。
緊急事態室を出た宰相は、自室へ向かう廊下を歩きながら、ノアの最近の動きが気になっていた。夜の冷たい空気が廊下に漂い、彼の心の中の疑念を一層深めていた。
ノアが夜の時間帯にフィオナの寝室の前で立ち止まる姿が目撃されていた。その際、何かを考え込むように立ち尽くしていたという報告があった。これが単なる偶然か、それとも意図的なものかはまだ判断できなかったが、宰相の心に微かな不安が広がり始めた。王弟ヴィクトルも冷静さを保ちつつも、息子ノアを守りたいという父親としての強い思いを感じさせ、その心配が宰相の心にも影を落としていた。
「儘ならないものだな──。」
宰相はその言葉を胸にしまい込みながら、ノアの行動がフィオナの命運に関わる可能性があるという事実を受け入れ始めていた。
窓越しに見える王城の庭園では、薬師官や文官たちが忙しく動いており、フィオナの治療と王族への緊急対応に追われていた。宰相はその喧騒を遠く感じながらも、深く考え込んでいた。
「何かが起きている。」
その何かが何であるかはまだ見えないが、宰相はさらにノアの周辺を監視することを決意した。ノアの不可解な行動が、何らかの陰謀と結びついているのではないかという疑念が、宰相の心をかすめた。
再び机に向かい、宰相は深く考え込んだ。フィオナが目覚めるまで、そしてそれ以降も、彼の抱える課題は山積みであった。時間は限られていたが、彼はその中で最大限の策を講じる覚悟だった。いかにしてこの危機を乗り越えるか、その思考は途切れることなく続いていく──。
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