花冷え

霞野

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蜂蜜の記憶

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蜂蜜色の日差しが、あなたの長い髪をキラキラと艶めかせています。その夢のようにまばゆいあなたの頭の輪郭を、ぼうっとした視線でなぞっていると、今がいつなのか、記憶と現在が交差して絡まって恐ろしくなってきます。あなたが振り向いて、私の瞳にちらつく恐怖を見つけて嬉しそうに微笑みます。
「可愛いね。大丈夫よ」
あなたは、身動きの取れない私を愛おしげに撫ぜてくれます。私は返事をしようとしますが、昨晩あなたに噛ませられた口枷のせいで惨めに唾液を垂らすことしかできません。あなたはその涎さえ、指先で優しく拭ってくれます。
「何が怖いの? 言ってごらん」
あなたは私の瞳を真っ直ぐと見下ろし、その恐怖の色の広がりを決して見逃さぬように、虫の死ぬところを、異様な集中力で観察する子供のような視線で、しかし口元で揺れる愉悦は隠そうとせずに尋ねます。
あなたがこわい
声にならない言葉を、私はかすかに漏らします。
でもくるいそうなほどすき
泣きそうに、あなたへ視線を向けたところで、あなたは飽きたように私から視線を逸らし、私の両胸と股に固定されたバイブレーションのスイッチを入れました。
 「んんっ!?」
脳内に突然火花が散って、私は芋虫のように蠢きます。私は全裸で、腕は折り曲げた状態で革のベルトのようなもので固定され、足も同様に折りたたまれ拘束され、閉じられぬように一本の鉄の棒で膝と膝の位置を固定されていました。そして、いぼのついた少し柔らかいローターが仕込まれている水着のようなパンツを履かされて、乳首をバイブレーションのついたクリップで優しくつままれている状態でした。それらが同時に、おそらくMAXで振動を始めたのです。
私は涎をだらだらと垂らしながら抵抗します。どうにか、この流れ込んでくる快楽から逃れようとじたばたと暴れてみます。いえ、刺激に弱い私の身体は、いやでも暴れてしまうのでした。
あなたは、チラと苦しげな私を眺め、鼻で笑ってから満足気に布団に潜り込みました。白い枕にあなたの綺麗な黒髪が流れ落ちます。その美しいコントラストを、快感にのみこまれそうになりながら必死で目に焼き付けます。
「あう、あうい」
さゆ、咲雪。
名前を呼んでいるつもりが言葉になりません。
名前も、呼ぶことができない。こんなに近くにいるのに。
咲雪、咲雪
あなたとの遠さを思い知ることで、電気のような快楽が流れ込んできます。
いつから、こうなってしまったのか。
後悔と、悦びが、同時に押し寄せて、私はもう少しで辿り着きそうなところを必死で堪えながら、記憶を辿ります。
春風のような甘い学生時代が脳内を縁取り、蜂蜜色の日差しに照らされた記憶の中の咲雪が笑顔をこぼして言います。
「お手」
私は黄金色の中庭で見た、あなたの差し出された白い手を思い出しながら、逝ってしまいました。


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