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第1回 プロローグ 魔術師アーレン 初陣の戦(いくさ)場より逃亡す (上)
しおりを挟むうら若き未熟者の英雄 魔術師アーレンの肖像
麓(ふもと)から山の中腹辺りを濃霧が覆っていた。山の名をパルム。標高720リクセン(2800メートル)の中級山岳である。頂(いただき)には魔術の技を磨く者たちが集(つど)う学び舎(や)が伺(うかが)える。学び舎(や)の威容は古代ルクルーズ(約2000年前の文明)建築を手本に円柱やアーチ及びドームなどの要素が多く取り入れられた幾何学様式。誇るべき目を見張る威容は、削りだしの玄武岩で積み上げた巨大なドーム。実(まこと)しやかに語られる噂。それは毎夜毎夜このドームで試行される、大型亜種多次元生物を生み出すための禁断の実験授業。言うに及ばずな定かではない件(くだり)である。
獣(けもの)の群れは多数を占めていた。パルム(魔法学校)へと続く山間の中腹の小路だった。
辺りは伺(うかが)えない程の霧深さ・・・
僕らは正しく不意を付かれた。
「カイン!!!真ん前のオークを捉(とら)えたァ!!!」
ウォルトのあらん限りの叫び声・・・
我が兄ウォルトこそはパルム(魔法学校)の生徒内で最強の術師である。
つまりは、上記のウォルトの言わんとした事は・・・
『我が友軍、前衛の戦士カイン殿!!!私のマハリュト(連関火炎)の術で、前敵のオークを焼き払ってやるぞ』
と言った意味合いであった。
戦(いくさ)の只中。すでに幾体かの死骸が、我らと敵との間に無惨な骸(むくろ)と成り果てている。その骸(むくろ)の中にも我が友軍がひとり。パルムの生徒にして、うら若き陽気なケンドルトン。最前衛を無防備に闊歩(かっぽ:陽気な彼らしく)していたが為、不意の襲撃を真っ先に受け、抗(あらが)う事無く無慈悲な最後を迎えたのだ。
僕は特別ケンドルトンと親しい仲ではなかった。何時(いつ)でも僕をからかい、周囲を巻き込み僕を笑い者にするケンドルトン。そんな彼が今・・・
顔面を棍棒(こんぼう)で強打され脳髄液をまき散らし見る影も無い。血みどろのタダの肉塊と化していた。ケンドルトンの成れの果ての様を伺(うかが)う僕。
その瞬間・・・僕は何を見、何をしたか・・・!?
『・・・ゥあああアアア!!』
僕は、両手のひらを口に当てがい泣き叫んでいた。その僅かの中、我が兄ウォルトが僕の髪を左手でグイっと掴(つか)み上げ(僕を正気に戻すため)
そして・・・
利き腕の手のひらを敵影に向け口中で何事かの呪術を唱えた。一瞬の煌(きら)めきの中、凄まじい閃光。魔術の流れる様がハッキリと見て取れた。
そして正しく霧の効果である。
・・・霧がうねる。
ウォルトの手のひらから敵影に向かい真っ直ぐに、そして、瞬時に霧が・・・渦まく姿に形を変えた刹那・・・敵前衛の群れに異変が生じた。凍てつく最中にも拘(かかわ)らず獣(けもの)の逃げ惑う群れへ向け、瞬時に手のひらを象(かたど)った炎が出現。その折りウォルトは、敵影に向けた手のひらを掲げ、悲鳴にも似た叫びを上げた。
直ぐさまソレは、突然大きな炎の広がりへと展開。
グオオオ・・・っと激しく唸(うな)る陣音!!!ゴブリンのおおよそ3~4体(数えられぬ程の)が豪火な炎の血煙の中で、まさに突っ伏していた。周囲をモウッと白煙が覆(おお)う。辺り漂う死臭。一瞬・・・そう、ほんのひと時。我が友軍も獣(けもの)の軍団すらも静止し辺りをシンッと静寂が包んだ。
さて、僕を含め僅かに7人のみの我が友軍である。しかも周知の通り僕は戦力外。
最前衛に・・・
人とは思えぬ巨人並の人間族の双子のカインとザック。両者共々、重剣ハルバードを小枝の如(ごと)く軽々と構えている。しかしカインの方は、僕の眼に映ったその姿は・・・彼の額に流れる幾筋もの汗。この寒冷の寒空には似つかわしくない情景。
つまりは・・・
不意の獣の襲撃に於いて彼は、その重剣ハルバードの威容を削(そ)がれ、そして『そがれ』ついでに利き腕の中指及び薬指をも失っていた。
カインの腕から滴(したた)る大量の血。それは、奇異な情景である。オークやゴブリン達が常日頃携帯する武器の受け具合とは赴(おもむ)きが異なる。削り出しの棍棒か、はたまた、崩れ錆(さび)くれのショートソードが関の山なはずが・・・
其(そ)の鋭い切っ先の正体は、恐らくシミターかカットラス及びフォルシオンの類(たぐ)い。
僅かの後々・・・我らの気鋭を削ぐ不気味なその正体は露呈する。
そして、
前衛補佐の中堅の位置に控えるプリースト(司祭)のノア・・・正しく、彼の存在こそが敵側の最大の脅威であった。
守りの前衛。双子の傭兵・・・カインとザックの肖像。
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