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第三章
21 やっと落ち着いたぁ
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ハディスの森はいつも通り穏やかだ。
二人の悪魔が去り、しばらくしてカジュが珍しく仕事に出かけ、そして、あっと言う間にその仕事を終わらせ、帰ってきた。
そして巷ではフォレストとリリーはマクリル・トトティルの召喚魔になったと噂が広まっていた。
これまで問題ばかりを起こしていた強力で凶悪な悪魔を二体も使役して、益々その力を見せつけにはその噂は一役買っている。
そして森ではカジュの手伝い兼同居人として二人は再び森に戻ってきた。
「カジュのものになったなら心配なんて必要ないわ」
戻ってきてからというもの以前姿を見せなかったのは記憶違いなのかとフォレストが思うほど精霊たちはやたらと話しかけてくるようになっていた。
その理由を尋ねると返ってきた答えがそれだった。
「この森はカジュが守ってるの」
そうフォレストに教えたのは森に住む精霊スキュート。スキュートは風を司る精霊の一人で噂好きの話好きだった。風の精霊には多いタイプだ。
手のひらより少し大きいくらいの身長で薄い羽が四枚背中にある。
リリーと供にカジュに頼まれた薬草を摘みに森の深いところまでやってきていたところに出会ったのだ。
「守ってる? あいつが何かしているということか」
スキュートの話は相手をすると長引くので大抵聞き流しているフォレストだったが、仕えている人間の行動はさすがに耳に止まった。
そのフォレストの反応に気をよくしたスキュートは腰をすえて話し出した。訳知り顔で優越感に浸りながら、口調どころか座る場所までフォレストが見上げる位置の岩場だ。
「そう、この森がいっぱい変な名前付いてるけど、一番有名なの迷いの森って言われてるのは知ってるわよね?」
「人間は必ず迷うって街の人が言ってた。魔物もほとんどいないって」
質問に答えたのはリリーだった。リリーもカジュのことは気になる。どんなことでも知っておきたいと思っていた。リリーはスキュートの足元に行き、岩場にしっかり腰掛けて全力で聞く体制だ。
その付近で律儀に野草を検分して採取しているフォレストは耳だけそちらに傾け、せっせと仕事をしていた。
「迷うけど必ず出ることはできるのよ」
「カジュが出してくれてるってこと?」
リリーは不思議と言葉の裏を読めることがあり、それは大抵大事な相手のためだった。これまではフォレストのことに関してだけだったその能力がカジュにもキチンと機能していることに本人は気づいていない。カジュもまた、以前の二人を知らないのでリリーのことを妙に敏いところがあるとだけ感じているだけ。つまりそのことを知っているのはフォレストだけだ。
そんなことをわざわざカジュに言うつもりも無いフォレストはただ、リリーが伸びやかに暮らせるように守る。カジュがそんなリリーを裏切らないようにするだけ。
「出しているって言うより、迷わせてること自体カジュがしてるのよ」
「どうして?」
いつも通り愛らしく尋ねるリリーとは対照的に本来なら可愛らしいはずのスキュートが邪悪な顔で囁く。
「邪魔なんですって、人間も魔物も嫌いってそう言ってこの森を閉じてしまったのよ」
リリーはキョトンとしている。
そこまでリリーと精霊との会話を黙って聞いていたフォレストが口を挟んだ。
「閉じてあるってことはお前たちも出られないのか?」
リリーを意味もなく怖がらせようとして失敗したスキュートは悔しそうにしながらもフォレストに答えた。
「森に住んでいるものは出入り自由よ。それに住まわせてもらって勝手までしてるからって、カジュにできることだったらお願い事聞いてくれるって約束してるの」
フォレストはその言葉には矛盾を感じなかった。カジュの性格からすれば、当たり前のことだとよく理解しているからだが、別の疑問が生じる。
「なぜ俺たちは入れたんだ?」
スキュートはあっさり答える。
「たぶん怪我をしていたからじゃないかしら」
それは完全にスキュートの勘だったが、あながち間違ってはいないと思っていた。
「怪我?」
「カジュはね嫌いなんて言っても魔物のことはそうでもないのよ」
「どうしてそう分かる?」
「ここにも住んでいる魔物がいるのよ」
「気配など感じないぞ」
フォレストは改めてさっと気配を探ったがやはり何も感じなかった。
「それくらいの力しかないのとか、冬眠に近い形でいる子たちばっかりだから。カジュが眠らせてるから分からないのも当然よ、でもあなたなら神経尖らせれば感じられるはずよ」
フォレストは気配を探るために集中した。いると分かっていて、そのことだけに気をやれば微かに感じるものがある。それも複数。しかし正確な数は分からないし、どんなモノがいるのはかなどはさっぱりだった。
それでもここには何かが眠っていることだけはフォレストには実感できた。
「…………確かに、そいつらとカジュとどういう関係があるんだ」
名目上は主人である人間が他の魔物とどんな契約をしているのか、フォレストにすれば知って置かなければならない重要なことだった。
「言ったでしょ、この森はカジュが守ってるって。それはその子達のためでもあるってことよ」
フォレストはさらに神経を尖らせ深く気配を探る。しかし、分からない。それを悟ったスキュートがあっさりと答えを告げた。
「瀕死のレッドドラゴンとホワイトドラゴンが眠っているのよ、カジュが助けたの」
「本当か? 俺にも感じ取れないものをなぜお前はそれを知っている?」
ドラゴンなどほとんど幻の生き物であるのに、それが二匹もこの地にいるなど考えられないほど穏やかな空気しかない。眠っているにしても、気配がなさすぎた。
森を荒廃させたと噂のドラゴンだろうことは想像できたが、森が再生していること以上に意味が分からなかった。
だからフォレストにはにわかには信じられず、カジュが眠らせているなら当然目につくような場所では絶対にないだろうと推測すれば、それをなぜスキュートが知っているのかが気に掛かる。
「カジュがここにドラゴンを封じるときにこの森に住むモノ全部に知らせたのよ、そして森を閉じるとも言ったの」
驚きだった。むしろ驚きばかりでフォレストは混乱しそうだ。
そもそも広大な森を一人の人間が閉じることなど不可能なはずだった。その土地全てを自分の魔力の支配下に置くようなもので、そこにあるもの全てを自分の物にしてしまうことに等しい。
だからこそ森に住むものが抵抗すればできようはずもない。例え一匹の力が弱くとも束になれば強大となる。これだけ広く自然で天然の生き物達が多くいる場所では尚の事。賛同を得ずに閉じられない。
だが事実今この森は人間には厳しく、それ以外の生き物にもある程度の規制を強いるほどに閉じてしまっている。
「全員が許したのか」
「まさか、でも反対のしようがなかったのよ。有無を言わさない感じで一瞬のできごとだったもの。でもそれからいろいろフォローしてくれて今ではみんな仲良しよ」
「どうしてこの場所なんだ」
「調度都合が良かったかららしいわよ。よく分からないけど、何だか充実してるんですって」
そんな程度で選ばれてしまったこの場所はある意味不幸としか言いようがなかったが、確かに充実していると言って過言ではない。
カジュに目を付けられたのが運の尽きだったのだろうとフォレストは納得できてしまった。
「それにしてもドラゴンを封じるとはな、あの噂のドラゴンだろう。だが噂と違わないか」
巷で囁かれている話では当時暴れたドラゴンたちは消滅させられてというものしかフォレストは聞いたことが無かった。
「噂なんて人間が安心したり、楽しんだりするために流したものよ。真実とは違うわ」
スキュートの言うことは身をもって実感している。それでもだからこそ、大勢の者が語る話に同じ内容しか出てこないということが、真実味を持たせることもある。それだけ、揺るぎ無いものだと思わせる効果があり、それだけ信用がある内容でなければない。
そう考え、そこでフォレストは納得してしまった。
大魔道師マクリルならば、その夢物語のような話に真実味を持たせることができると。それだけの実績が多くの人に伝えられていて、それだけ多く人を救っている。
つまりはすべてはマクリル・トトティルの能力の信用度がそのまま噂の信用性を高めてるわけだった。
そしてそのマクリルの本性をフォレストは知っている。
話の筋が見えてフォレストは無意識に笑っていた。
「それでも魔道士マクリルが退治したのだからな、殺さずに封じたか」
「封じたっていうかね、休ませてるだけよ。とってもすごかったんだって、この国の軍隊とか魔道士部隊とか一人で蹴散らして、暴れるドラゴン2匹も止めたって」
「人間どもの味方をしたの間違いじゃないのか?」
あの天邪鬼なお人よしのことだからと、フォレストは言ったが、その天邪鬼はフォレストの想像の上を行っていた。
「違うわよ、確かにカジュがドラゴンを止めなかったら、もっと酷いことになってたかもしれないけど、マクリルは確かに人間にも攻撃したの」
「ならばドラゴンどもの味方をしたんだな」
フォレストは確信を持って言ったが、スキュートは首を横に振った。
「いいえ、ドラゴンたちにも攻撃はしたわ。だから瀕死なんじゃない」
「どういうことだ?」
「マクリルは、それで本当の大魔道士になったのよ。つまり自分に逆らえばどうなるか実践して見せたってわけよ」
スキュートは肩をすくめて見せたが、フォレストはそんな行動に呆れたりはしなかった。
それが自分たちに向けられていてもおかしくなかったのだから、消滅させられないとしても眠らされていても不思議ではない。
どうして使役して供にすることを許したのか。
フォレストにはカジュの心理が読めなかった。
「軍隊もドラゴンでさえ叶わないというわけか、確かに最強だな」
「だからカジュはここで一人で暮らすことを認められたのよ」
思わず呟いたフォレストの言葉におしゃべりな精霊はそういってニコニコと笑っている。その姿はまるで自分がそうであるかのような誇らしげな態度だ。
リリーはフォレストが割って入ってから割りとすぐに話を聴くのをやめ、薬草摘みに戻っていた。リリーは話しが難しくなりそうだったから直接カジュに聞いて説明してもらうことにしていて、精霊の目的は関係ない。
そもそもここの精霊たちはカジュのことに関してマウントポジションにいると示したがっている節がある。戻ってきた二人に、いや、フォレストに対して新参者扱いしている様子だ。
カジュにより詳しいのは自分たちだと、それがすごいことだと態度で言っている。
それになんとなく気分を害したフォレストは、いつのまにか他の精霊達と戯れながら薬草を摘んでいたリリーを連れて、カジュの待つ家にさっさと帰って行った。
二人の悪魔が去り、しばらくしてカジュが珍しく仕事に出かけ、そして、あっと言う間にその仕事を終わらせ、帰ってきた。
そして巷ではフォレストとリリーはマクリル・トトティルの召喚魔になったと噂が広まっていた。
これまで問題ばかりを起こしていた強力で凶悪な悪魔を二体も使役して、益々その力を見せつけにはその噂は一役買っている。
そして森ではカジュの手伝い兼同居人として二人は再び森に戻ってきた。
「カジュのものになったなら心配なんて必要ないわ」
戻ってきてからというもの以前姿を見せなかったのは記憶違いなのかとフォレストが思うほど精霊たちはやたらと話しかけてくるようになっていた。
その理由を尋ねると返ってきた答えがそれだった。
「この森はカジュが守ってるの」
そうフォレストに教えたのは森に住む精霊スキュート。スキュートは風を司る精霊の一人で噂好きの話好きだった。風の精霊には多いタイプだ。
手のひらより少し大きいくらいの身長で薄い羽が四枚背中にある。
リリーと供にカジュに頼まれた薬草を摘みに森の深いところまでやってきていたところに出会ったのだ。
「守ってる? あいつが何かしているということか」
スキュートの話は相手をすると長引くので大抵聞き流しているフォレストだったが、仕えている人間の行動はさすがに耳に止まった。
そのフォレストの反応に気をよくしたスキュートは腰をすえて話し出した。訳知り顔で優越感に浸りながら、口調どころか座る場所までフォレストが見上げる位置の岩場だ。
「そう、この森がいっぱい変な名前付いてるけど、一番有名なの迷いの森って言われてるのは知ってるわよね?」
「人間は必ず迷うって街の人が言ってた。魔物もほとんどいないって」
質問に答えたのはリリーだった。リリーもカジュのことは気になる。どんなことでも知っておきたいと思っていた。リリーはスキュートの足元に行き、岩場にしっかり腰掛けて全力で聞く体制だ。
その付近で律儀に野草を検分して採取しているフォレストは耳だけそちらに傾け、せっせと仕事をしていた。
「迷うけど必ず出ることはできるのよ」
「カジュが出してくれてるってこと?」
リリーは不思議と言葉の裏を読めることがあり、それは大抵大事な相手のためだった。これまではフォレストのことに関してだけだったその能力がカジュにもキチンと機能していることに本人は気づいていない。カジュもまた、以前の二人を知らないのでリリーのことを妙に敏いところがあるとだけ感じているだけ。つまりそのことを知っているのはフォレストだけだ。
そんなことをわざわざカジュに言うつもりも無いフォレストはただ、リリーが伸びやかに暮らせるように守る。カジュがそんなリリーを裏切らないようにするだけ。
「出しているって言うより、迷わせてること自体カジュがしてるのよ」
「どうして?」
いつも通り愛らしく尋ねるリリーとは対照的に本来なら可愛らしいはずのスキュートが邪悪な顔で囁く。
「邪魔なんですって、人間も魔物も嫌いってそう言ってこの森を閉じてしまったのよ」
リリーはキョトンとしている。
そこまでリリーと精霊との会話を黙って聞いていたフォレストが口を挟んだ。
「閉じてあるってことはお前たちも出られないのか?」
リリーを意味もなく怖がらせようとして失敗したスキュートは悔しそうにしながらもフォレストに答えた。
「森に住んでいるものは出入り自由よ。それに住まわせてもらって勝手までしてるからって、カジュにできることだったらお願い事聞いてくれるって約束してるの」
フォレストはその言葉には矛盾を感じなかった。カジュの性格からすれば、当たり前のことだとよく理解しているからだが、別の疑問が生じる。
「なぜ俺たちは入れたんだ?」
スキュートはあっさり答える。
「たぶん怪我をしていたからじゃないかしら」
それは完全にスキュートの勘だったが、あながち間違ってはいないと思っていた。
「怪我?」
「カジュはね嫌いなんて言っても魔物のことはそうでもないのよ」
「どうしてそう分かる?」
「ここにも住んでいる魔物がいるのよ」
「気配など感じないぞ」
フォレストは改めてさっと気配を探ったがやはり何も感じなかった。
「それくらいの力しかないのとか、冬眠に近い形でいる子たちばっかりだから。カジュが眠らせてるから分からないのも当然よ、でもあなたなら神経尖らせれば感じられるはずよ」
フォレストは気配を探るために集中した。いると分かっていて、そのことだけに気をやれば微かに感じるものがある。それも複数。しかし正確な数は分からないし、どんなモノがいるのはかなどはさっぱりだった。
それでもここには何かが眠っていることだけはフォレストには実感できた。
「…………確かに、そいつらとカジュとどういう関係があるんだ」
名目上は主人である人間が他の魔物とどんな契約をしているのか、フォレストにすれば知って置かなければならない重要なことだった。
「言ったでしょ、この森はカジュが守ってるって。それはその子達のためでもあるってことよ」
フォレストはさらに神経を尖らせ深く気配を探る。しかし、分からない。それを悟ったスキュートがあっさりと答えを告げた。
「瀕死のレッドドラゴンとホワイトドラゴンが眠っているのよ、カジュが助けたの」
「本当か? 俺にも感じ取れないものをなぜお前はそれを知っている?」
ドラゴンなどほとんど幻の生き物であるのに、それが二匹もこの地にいるなど考えられないほど穏やかな空気しかない。眠っているにしても、気配がなさすぎた。
森を荒廃させたと噂のドラゴンだろうことは想像できたが、森が再生していること以上に意味が分からなかった。
だからフォレストにはにわかには信じられず、カジュが眠らせているなら当然目につくような場所では絶対にないだろうと推測すれば、それをなぜスキュートが知っているのかが気に掛かる。
「カジュがここにドラゴンを封じるときにこの森に住むモノ全部に知らせたのよ、そして森を閉じるとも言ったの」
驚きだった。むしろ驚きばかりでフォレストは混乱しそうだ。
そもそも広大な森を一人の人間が閉じることなど不可能なはずだった。その土地全てを自分の魔力の支配下に置くようなもので、そこにあるもの全てを自分の物にしてしまうことに等しい。
だからこそ森に住むものが抵抗すればできようはずもない。例え一匹の力が弱くとも束になれば強大となる。これだけ広く自然で天然の生き物達が多くいる場所では尚の事。賛同を得ずに閉じられない。
だが事実今この森は人間には厳しく、それ以外の生き物にもある程度の規制を強いるほどに閉じてしまっている。
「全員が許したのか」
「まさか、でも反対のしようがなかったのよ。有無を言わさない感じで一瞬のできごとだったもの。でもそれからいろいろフォローしてくれて今ではみんな仲良しよ」
「どうしてこの場所なんだ」
「調度都合が良かったかららしいわよ。よく分からないけど、何だか充実してるんですって」
そんな程度で選ばれてしまったこの場所はある意味不幸としか言いようがなかったが、確かに充実していると言って過言ではない。
カジュに目を付けられたのが運の尽きだったのだろうとフォレストは納得できてしまった。
「それにしてもドラゴンを封じるとはな、あの噂のドラゴンだろう。だが噂と違わないか」
巷で囁かれている話では当時暴れたドラゴンたちは消滅させられてというものしかフォレストは聞いたことが無かった。
「噂なんて人間が安心したり、楽しんだりするために流したものよ。真実とは違うわ」
スキュートの言うことは身をもって実感している。それでもだからこそ、大勢の者が語る話に同じ内容しか出てこないということが、真実味を持たせることもある。それだけ、揺るぎ無いものだと思わせる効果があり、それだけ信用がある内容でなければない。
そう考え、そこでフォレストは納得してしまった。
大魔道師マクリルならば、その夢物語のような話に真実味を持たせることができると。それだけの実績が多くの人に伝えられていて、それだけ多く人を救っている。
つまりはすべてはマクリル・トトティルの能力の信用度がそのまま噂の信用性を高めてるわけだった。
そしてそのマクリルの本性をフォレストは知っている。
話の筋が見えてフォレストは無意識に笑っていた。
「それでも魔道士マクリルが退治したのだからな、殺さずに封じたか」
「封じたっていうかね、休ませてるだけよ。とってもすごかったんだって、この国の軍隊とか魔道士部隊とか一人で蹴散らして、暴れるドラゴン2匹も止めたって」
「人間どもの味方をしたの間違いじゃないのか?」
あの天邪鬼なお人よしのことだからと、フォレストは言ったが、その天邪鬼はフォレストの想像の上を行っていた。
「違うわよ、確かにカジュがドラゴンを止めなかったら、もっと酷いことになってたかもしれないけど、マクリルは確かに人間にも攻撃したの」
「ならばドラゴンどもの味方をしたんだな」
フォレストは確信を持って言ったが、スキュートは首を横に振った。
「いいえ、ドラゴンたちにも攻撃はしたわ。だから瀕死なんじゃない」
「どういうことだ?」
「マクリルは、それで本当の大魔道士になったのよ。つまり自分に逆らえばどうなるか実践して見せたってわけよ」
スキュートは肩をすくめて見せたが、フォレストはそんな行動に呆れたりはしなかった。
それが自分たちに向けられていてもおかしくなかったのだから、消滅させられないとしても眠らされていても不思議ではない。
どうして使役して供にすることを許したのか。
フォレストにはカジュの心理が読めなかった。
「軍隊もドラゴンでさえ叶わないというわけか、確かに最強だな」
「だからカジュはここで一人で暮らすことを認められたのよ」
思わず呟いたフォレストの言葉におしゃべりな精霊はそういってニコニコと笑っている。その姿はまるで自分がそうであるかのような誇らしげな態度だ。
リリーはフォレストが割って入ってから割りとすぐに話を聴くのをやめ、薬草摘みに戻っていた。リリーは話しが難しくなりそうだったから直接カジュに聞いて説明してもらうことにしていて、精霊の目的は関係ない。
そもそもここの精霊たちはカジュのことに関してマウントポジションにいると示したがっている節がある。戻ってきた二人に、いや、フォレストに対して新参者扱いしている様子だ。
カジュにより詳しいのは自分たちだと、それがすごいことだと態度で言っている。
それになんとなく気分を害したフォレストは、いつのまにか他の精霊達と戯れながら薬草を摘んでいたリリーを連れて、カジュの待つ家にさっさと帰って行った。
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