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後日談 ちかにかい 前編
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「ぃひゃあぁぁぁぁー」
今までその場所には誰もいなかったのに、久しぶりに来てみたら、薄暗い先の先に、明かりがあってそこに人影がある。
その人は俺の悲鳴に振り向いて、こちらに近寄ってきた。
「お前、なぜ、ここに」
「あれ、ドラゴンの偉い人!」
「おま、いや、エトくんの中で私はそんな印象なのか」
モズさんは顔はちょっと怖いかもしれないけど、顔ほど怖い人でも厳つい人でもない。
神経質だって噂も聞くけど、繊細で何事も丁寧だからだと思うんだよね。髪の毛がいつも短髪で綺麗に整えられてるのも、渋めの表情によく似合ってる。
「エト!」
「あ、王様」
「レグル様!」
急に現れた王様より、ドラゴンの偉い人がすぐさま跪いていて、すごい反射神経のそっちの方がびっくりした。
すぐそばに立って俺を抱きしめる王様はかなり慌てている。
「大丈夫か」
「うん、ドラゴンの偉い人がいただけだった」
普段何もないところにぼんやり人影があったから怖かったけど、正体が分かればなんてことはない。ヤバイ何かなら逃げればいいし、さらに知ってる人なら大丈夫、大丈夫。
「何かされなかったか」
問題は俺がむしろ侵入者なところだよね。申し訳ない。
「邪魔しちゃった。ここにいるって知らなかったから」
「ん? 地下二階にいると言っただろ」
俺は一瞬何を言われているのか分かんなかった。
常にオレンジ色の灯りに照らされている階段を降りると広がる空間は他の階に比べると天井が低い。
部屋らしい部屋はなくて、壁も掘り出したままの岩肌。穴倉に近いかも。そこに城を支える太い柱が等間隔にずっと先まで並んでいる。
「地下、二階? ここ? ここ地下の地下で地下一階? 違う? 地下二階?」
えぇー、地下ってそうやって数えるの?
・・・・・・すごく納得できない。
今までそんなことについてちゃんと考えたことなかったし、あんまり地下がある建物なんか知らないし、誰かが説明してるの聞いたことなかったからなぁ、地下は深くなるほど階数が大きくなるのか。
「地下の地下だし。地下二階かー」
「大丈夫でしたか!」
いつのまにかセブさんまで来てた。
王様の一番近くにいる人ね、最近名前を覚えた! 前はいつかは出ていくつもりだったし、俺なんかがうっかり名前呼んだら申し訳ないって思って覚えなかったんだけど、流石にね。
覚えるのが苦手ってことじゃないからね、ね! (難しくて、セブさんってとこ以外は覚えてないけど……それはナイショ)
「エトが言うにはな」
王様は特にセブさんを見たりしなくて、セブさんもそれを気にした様子もなくてドラゴンの偉い人に話しかけ始めた。
王様は俺の体をペトペトと触って、怪我でもしてないか確かめてるのかな。
「エトはどうしてこんなところに来たんだ?」
「昼寝しに」
「昼寝? こんなところでか?」
俺の顔を覗き込むように王様は聞いてくる。
分かってないなーって、俺はニンマリしちゃう。
「ちょうどいいんだよ、ここ! なんか奥に深い部屋だし、階段のとこだけずっと明かりが点いてて真っ暗にならないし、ちょっとひんやりする空気で風無いし。何より誰も来ない」
「今までも来てたのか、てっきり洞窟に行ってるのかと」
王様はちょっと顔をしかめてる。
そういえば王様がお城にいる時は来たことなかったかな。
「王様が出張いってて暇な時とかはね。真っ暗になると目が冴えちゃうんだけど、でも昼の洞窟感がここにはある!」
外にある洞窟は夜は真っ暗だ。真っ暗になるとついつい活動したくなって、昼寝欲は下がっちゃうんだよね。
今は出張には一緒に連れられてくから、本当にここに来るのは久しぶりだったんだ。
そう考えると王様の服の中は最高のコンディションかも。王様の黒い羽織から透ける光は良い明るさで、眠気を誘う。綿に潜れば暗くもなるし、王様がどんな場所に居てもほんわり暖かくて、きっと王様がそうなるようにしてくれてるんだと思う。王様は用事があれば極寒の地や灼熱のところにも行くからね。
あとは安心感が断然違う!
これでも外敵には敏感に暮らしてたから、強い気配があるとなかなか寝付けないんだけど、王様のお腹を急に殴ってくる人も滅多にいないだろうからね。
「自分のあの洞窟に戻ろうとは思わなかったのか?」
「あそこは一回外にでなくちゃいけないからさ、それにちょっと昼寝にベッドだと寝すぎるし。朝からしっかり寝るときだけね」
やっぱりあの洞窟も最高だったなあ。お城が来る前は本当にこのあたりはほとんど何にも居なかったから。
大きな魔物が暮らせるほど吸収できる魔力があるものはなかったし、たくさんの生き物が暮らせるほどの実りも森には少なかった。俺みたいのには十分豊富にみえるんだけど、そういう弱くて食料もあまり要らないのだけが、ほのぼのと暮らせるくらいの所謂痩せた土地だったんだから。
なんとも良い場所だった。
今は見る影も無いけど! それはそれで面白くて好き。人がたくさんいて活気があって、色んなものにあふれてる。
それでお城の中も楽しい。いっぱいの人がいろんなことして働いていて、仕舞ってある物もたくさんで倉庫を覗くだけで面白い。俺はそれを探検して観察するのが好き。夜は活動する人も多くは無いから俺がうろうろしてても邪魔にならない。
調理場の人は、俺が起きてくる夕方からが一番忙しくて、それが一段落したら自分達の遅い夕食にするんだって。それから後片付けしたり、次の日の仕込みしたり。朝も早くからパンとか作ってるから、よく見に行く。
あとは見張りの人とかかな、夜中によく見るのは。
夕方から仕事が終わる人も多いから、それから夜中くらいはいろんな人がまだ活動時間。俺が一番人を見かける時間。
使われて無い場所もあちこちにあるし、たまに声も掛けてくれる人も居る。
未だにお城の中は俺の知らないことでいっぱいだ。
そう思いながら、俺はキョロキョロとあるものを探す。
「ここには毛布だけおいてあったんだけど」
ずっと前にメイドさんが不用品を捨てるところに遭遇して、たまたま貰った奴で、お気に入りだったんだけど。まぁ、仕方ないか。
でも一応セブさんが探しておいてくれるって。
それからも俺は地下二階に何回か行った。
適当なイスに座ってじっとしてたり、奥の方を覗きに行ったり。
「おま、……エトくんは」
「無理して呼ばなくていいよ」
なんだか面白いなあ。
行ってしばらくは気にしないように、見ないようにしてくれるのに、完全には無視できないみたい。
「ここに来ることにレグル様は何も言わないのか?」
「行くだけならいいって、昼寝は王様の服の中にしてって言われたよ」
俺はモズさんの座るテーブルのそばにある水槽を眺めながら答えた。
この水槽、生き物は水草だけ。それでも種類が違うのが絶妙に配置されていて、たゆたう姿がなんとも優雅に見える。
あと、モズさんが作業する音の他に、この水槽たちから水にコポコポ空気を送る独特の音がして、耳に気持ちいい。
「何しに来るんだ」
「んー、観察? 何か作ってるところってじっと見てられる。邪魔だったら、変身してこっそりぶら下がってるよ」
そこは別に構わないって、モズさんは首を振る。
「もの作りしてるところなど、城の中にいくらでもあるだろう」
「モズさんは、孤高の職人みたいでちょっと違う」
モズさんは道具作りから自分でやっていて、薬を混ぜたり、粉にしたり計ったり以外もやっている。
それに地下なのに奥に植物を育ててるんだ。いろんな形のがあって、光もモズさんが開発したので照らしてたり、水も流れてる。
それを眺めてるのも面白い。
王様にも何しに行くのか聞かれたからそう解説した。むしろ力説した!
王様にもオススメしている。忙しくなくなったらまた一緒に来る約束もしてる。
「お前は私に怒りはないのか?」
「全然ないよ」
「お前を追い出したのにか?」
「モズさんに追い出されたわけじゃないよ、俺が自分で決めたんだ」
「余計なことを言われなければ、そんな考えにならなかっただろう」
「どうかな、誰に何も言われなくても、いつかは城からは出て行こうと思ってたから」
「・・・・・・私は、追い出すつもりで言ったんだぞ」
「それは分かったよ」
俺は嬉しくてにっこり笑っちゃった。
「なぜ笑う」
「あ、ごめんなさい」
「別に怒ったわけじゃない。なぜかと聞いたんだ」
「俺のことを思って言ってくれたのはモズさんだけだったなと思って」
「お前のため?」
「他の人は本当に俺が王様に邪魔だとか、来てくれるお嫁さんたちの目障りだと思ってたけど、モズさんは俺が悲しんだり、辛い思いするから早く出て行けって言ってくれてるんだと思ったんだ」
王様にとって俺が邪魔なら、それは王様がちゃんと言ってくれると思ってる。
だからいろんな人にいなくなるよう言われて考えてはいたけど、実行の切っ掛けがなかったんだ。
「それは別に……そんな風には聞こえなかっただろ」
「言葉はネ、でもなんか違うなーって分かる。こんなに優しい人が王様の近くに居てくれるなら、俺はもういいかなって」
モズさんは手が止まってた。俯いて、テーブルを見つめてる。
「私はドラゴンではない」
「へ?」
唐突な話題に俺、大混乱。
確かに見た目は俺と違ってちゃんと人型だし、ドラゴンになってるところは見たことないけど。
「お前は私をドラゴンだと思ってるみたいだが、そうではないと言っている」
「そうなんだ」
誰かに紹介された時はドラゴンだって言ってた気がするんだけどな。
なんで急にそんな話になるんだろうか。
「元は大蛇(おろち)のような見た目ではあるが、ただ猛毒を体から発することができるだけだ」
十分じゃないの、それ。ただ猛毒って……凄い人の感覚は謎だな。
でもモズさんはそれだけじゃないって聞いたような。
「すごい暴雨風を起こせるって聞いたよ」
「できないことはないが、私の実力ではそれをすれば生死を彷徨う」
種族的には可能ってヤツだ!
あるんだよねー、そういうの。やろうと思えばできるけどって、個人差って何にでもあるよね。
「わぁ、それは使っちゃだめだね。でもそういう龍も居るって俺聞いたことあるよ」
「龍を知っているのか?」
モズさんが俺の方を向いたから俺は頷いて見せた。
俺の中ではドラゴンは翼があるのが多くて、二足歩行できるようなイメージがある。
龍はモズさんが言ったみたいな大きなヘビで、手足はそれぞれあったりなかったりだったと思う、あくまで俺的な分析。
「東の方の土地では、ドラゴンは龍って言うんでしょ? 空とんでるの何回か見たことあるし、龍でも色んな見た目の人がいるのも見たことあるよ。夜、光って飛んでる人もいた。話したこともあるし」
「それでも私は、醜い龍だ。家畜を襲うと人々から忌み嫌われていた時期もあったくらいだ」
「あるある! 俺もコウモリの時、血を吸うんだろうって箒で追い回されたことあるよ! そうか、モズさんもそんなことあったんだね、賢くても大変だったんだねー」
いやー、どんな人にもいろいろあるよね。俺でさえなんだかんだあるんだもん、そりゃあ、モズさんならもっといろいろあるよねー。
そう思って、うんうん、頷いていると、モズさんはちょっと呆れたように渋い顔をしていた。
「……お前が思っているような存在ではないと言いたいんだ」
「そう?」
「お前に私がドラゴンだと教えた奴は、からかい半分の侮辱的な意味合いで言っていたはずだ」
「え! そうだったのかー、ごめんなさい。俺今まで会ったドラゴンや龍の人は良い人とか面白い人だけだったし、王様も変な人には役職つけないから、ドラゴンだって言うのはスゴイって意味と同じだと思いこんでたんだ」
そうかー、だから誰から教えてもらったか覚えてないんだなー、俺。
もしかしたら、ちょっとヤな感じの人だったのかも。そういう人のことすぐ忘れちゃうから。
「いや、エト君からは侮蔑な意味合いは感じられなかった。だから余計に私は、自分がそうでないと言っているんだ」
「スゴくないって?」
「そういうことだ」
「いやー、ない、ない。あれだけ仕事こなしてて、それはないよー。それに今やってることが本職だったんでしょ? そうじゃないことあれだけできてて、スゴくないってことない、ない」
マジ、ないわー。
「そんな、ことは」
「ある! 間違いない!」
そう、ある! モズさんの業務をこなす量は半端なかったのは、夜型の俺だからよく見てる。
「そ、そうか」
「そう!」
モズさんは首を傾げながらも、机に向き直って作業を再開させていた。
今までその場所には誰もいなかったのに、久しぶりに来てみたら、薄暗い先の先に、明かりがあってそこに人影がある。
その人は俺の悲鳴に振り向いて、こちらに近寄ってきた。
「お前、なぜ、ここに」
「あれ、ドラゴンの偉い人!」
「おま、いや、エトくんの中で私はそんな印象なのか」
モズさんは顔はちょっと怖いかもしれないけど、顔ほど怖い人でも厳つい人でもない。
神経質だって噂も聞くけど、繊細で何事も丁寧だからだと思うんだよね。髪の毛がいつも短髪で綺麗に整えられてるのも、渋めの表情によく似合ってる。
「エト!」
「あ、王様」
「レグル様!」
急に現れた王様より、ドラゴンの偉い人がすぐさま跪いていて、すごい反射神経のそっちの方がびっくりした。
すぐそばに立って俺を抱きしめる王様はかなり慌てている。
「大丈夫か」
「うん、ドラゴンの偉い人がいただけだった」
普段何もないところにぼんやり人影があったから怖かったけど、正体が分かればなんてことはない。ヤバイ何かなら逃げればいいし、さらに知ってる人なら大丈夫、大丈夫。
「何かされなかったか」
問題は俺がむしろ侵入者なところだよね。申し訳ない。
「邪魔しちゃった。ここにいるって知らなかったから」
「ん? 地下二階にいると言っただろ」
俺は一瞬何を言われているのか分かんなかった。
常にオレンジ色の灯りに照らされている階段を降りると広がる空間は他の階に比べると天井が低い。
部屋らしい部屋はなくて、壁も掘り出したままの岩肌。穴倉に近いかも。そこに城を支える太い柱が等間隔にずっと先まで並んでいる。
「地下、二階? ここ? ここ地下の地下で地下一階? 違う? 地下二階?」
えぇー、地下ってそうやって数えるの?
・・・・・・すごく納得できない。
今までそんなことについてちゃんと考えたことなかったし、あんまり地下がある建物なんか知らないし、誰かが説明してるの聞いたことなかったからなぁ、地下は深くなるほど階数が大きくなるのか。
「地下の地下だし。地下二階かー」
「大丈夫でしたか!」
いつのまにかセブさんまで来てた。
王様の一番近くにいる人ね、最近名前を覚えた! 前はいつかは出ていくつもりだったし、俺なんかがうっかり名前呼んだら申し訳ないって思って覚えなかったんだけど、流石にね。
覚えるのが苦手ってことじゃないからね、ね! (難しくて、セブさんってとこ以外は覚えてないけど……それはナイショ)
「エトが言うにはな」
王様は特にセブさんを見たりしなくて、セブさんもそれを気にした様子もなくてドラゴンの偉い人に話しかけ始めた。
王様は俺の体をペトペトと触って、怪我でもしてないか確かめてるのかな。
「エトはどうしてこんなところに来たんだ?」
「昼寝しに」
「昼寝? こんなところでか?」
俺の顔を覗き込むように王様は聞いてくる。
分かってないなーって、俺はニンマリしちゃう。
「ちょうどいいんだよ、ここ! なんか奥に深い部屋だし、階段のとこだけずっと明かりが点いてて真っ暗にならないし、ちょっとひんやりする空気で風無いし。何より誰も来ない」
「今までも来てたのか、てっきり洞窟に行ってるのかと」
王様はちょっと顔をしかめてる。
そういえば王様がお城にいる時は来たことなかったかな。
「王様が出張いってて暇な時とかはね。真っ暗になると目が冴えちゃうんだけど、でも昼の洞窟感がここにはある!」
外にある洞窟は夜は真っ暗だ。真っ暗になるとついつい活動したくなって、昼寝欲は下がっちゃうんだよね。
今は出張には一緒に連れられてくから、本当にここに来るのは久しぶりだったんだ。
そう考えると王様の服の中は最高のコンディションかも。王様の黒い羽織から透ける光は良い明るさで、眠気を誘う。綿に潜れば暗くもなるし、王様がどんな場所に居てもほんわり暖かくて、きっと王様がそうなるようにしてくれてるんだと思う。王様は用事があれば極寒の地や灼熱のところにも行くからね。
あとは安心感が断然違う!
これでも外敵には敏感に暮らしてたから、強い気配があるとなかなか寝付けないんだけど、王様のお腹を急に殴ってくる人も滅多にいないだろうからね。
「自分のあの洞窟に戻ろうとは思わなかったのか?」
「あそこは一回外にでなくちゃいけないからさ、それにちょっと昼寝にベッドだと寝すぎるし。朝からしっかり寝るときだけね」
やっぱりあの洞窟も最高だったなあ。お城が来る前は本当にこのあたりはほとんど何にも居なかったから。
大きな魔物が暮らせるほど吸収できる魔力があるものはなかったし、たくさんの生き物が暮らせるほどの実りも森には少なかった。俺みたいのには十分豊富にみえるんだけど、そういう弱くて食料もあまり要らないのだけが、ほのぼのと暮らせるくらいの所謂痩せた土地だったんだから。
なんとも良い場所だった。
今は見る影も無いけど! それはそれで面白くて好き。人がたくさんいて活気があって、色んなものにあふれてる。
それでお城の中も楽しい。いっぱいの人がいろんなことして働いていて、仕舞ってある物もたくさんで倉庫を覗くだけで面白い。俺はそれを探検して観察するのが好き。夜は活動する人も多くは無いから俺がうろうろしてても邪魔にならない。
調理場の人は、俺が起きてくる夕方からが一番忙しくて、それが一段落したら自分達の遅い夕食にするんだって。それから後片付けしたり、次の日の仕込みしたり。朝も早くからパンとか作ってるから、よく見に行く。
あとは見張りの人とかかな、夜中によく見るのは。
夕方から仕事が終わる人も多いから、それから夜中くらいはいろんな人がまだ活動時間。俺が一番人を見かける時間。
使われて無い場所もあちこちにあるし、たまに声も掛けてくれる人も居る。
未だにお城の中は俺の知らないことでいっぱいだ。
そう思いながら、俺はキョロキョロとあるものを探す。
「ここには毛布だけおいてあったんだけど」
ずっと前にメイドさんが不用品を捨てるところに遭遇して、たまたま貰った奴で、お気に入りだったんだけど。まぁ、仕方ないか。
でも一応セブさんが探しておいてくれるって。
それからも俺は地下二階に何回か行った。
適当なイスに座ってじっとしてたり、奥の方を覗きに行ったり。
「おま、……エトくんは」
「無理して呼ばなくていいよ」
なんだか面白いなあ。
行ってしばらくは気にしないように、見ないようにしてくれるのに、完全には無視できないみたい。
「ここに来ることにレグル様は何も言わないのか?」
「行くだけならいいって、昼寝は王様の服の中にしてって言われたよ」
俺はモズさんの座るテーブルのそばにある水槽を眺めながら答えた。
この水槽、生き物は水草だけ。それでも種類が違うのが絶妙に配置されていて、たゆたう姿がなんとも優雅に見える。
あと、モズさんが作業する音の他に、この水槽たちから水にコポコポ空気を送る独特の音がして、耳に気持ちいい。
「何しに来るんだ」
「んー、観察? 何か作ってるところってじっと見てられる。邪魔だったら、変身してこっそりぶら下がってるよ」
そこは別に構わないって、モズさんは首を振る。
「もの作りしてるところなど、城の中にいくらでもあるだろう」
「モズさんは、孤高の職人みたいでちょっと違う」
モズさんは道具作りから自分でやっていて、薬を混ぜたり、粉にしたり計ったり以外もやっている。
それに地下なのに奥に植物を育ててるんだ。いろんな形のがあって、光もモズさんが開発したので照らしてたり、水も流れてる。
それを眺めてるのも面白い。
王様にも何しに行くのか聞かれたからそう解説した。むしろ力説した!
王様にもオススメしている。忙しくなくなったらまた一緒に来る約束もしてる。
「お前は私に怒りはないのか?」
「全然ないよ」
「お前を追い出したのにか?」
「モズさんに追い出されたわけじゃないよ、俺が自分で決めたんだ」
「余計なことを言われなければ、そんな考えにならなかっただろう」
「どうかな、誰に何も言われなくても、いつかは城からは出て行こうと思ってたから」
「・・・・・・私は、追い出すつもりで言ったんだぞ」
「それは分かったよ」
俺は嬉しくてにっこり笑っちゃった。
「なぜ笑う」
「あ、ごめんなさい」
「別に怒ったわけじゃない。なぜかと聞いたんだ」
「俺のことを思って言ってくれたのはモズさんだけだったなと思って」
「お前のため?」
「他の人は本当に俺が王様に邪魔だとか、来てくれるお嫁さんたちの目障りだと思ってたけど、モズさんは俺が悲しんだり、辛い思いするから早く出て行けって言ってくれてるんだと思ったんだ」
王様にとって俺が邪魔なら、それは王様がちゃんと言ってくれると思ってる。
だからいろんな人にいなくなるよう言われて考えてはいたけど、実行の切っ掛けがなかったんだ。
「それは別に……そんな風には聞こえなかっただろ」
「言葉はネ、でもなんか違うなーって分かる。こんなに優しい人が王様の近くに居てくれるなら、俺はもういいかなって」
モズさんは手が止まってた。俯いて、テーブルを見つめてる。
「私はドラゴンではない」
「へ?」
唐突な話題に俺、大混乱。
確かに見た目は俺と違ってちゃんと人型だし、ドラゴンになってるところは見たことないけど。
「お前は私をドラゴンだと思ってるみたいだが、そうではないと言っている」
「そうなんだ」
誰かに紹介された時はドラゴンだって言ってた気がするんだけどな。
なんで急にそんな話になるんだろうか。
「元は大蛇(おろち)のような見た目ではあるが、ただ猛毒を体から発することができるだけだ」
十分じゃないの、それ。ただ猛毒って……凄い人の感覚は謎だな。
でもモズさんはそれだけじゃないって聞いたような。
「すごい暴雨風を起こせるって聞いたよ」
「できないことはないが、私の実力ではそれをすれば生死を彷徨う」
種族的には可能ってヤツだ!
あるんだよねー、そういうの。やろうと思えばできるけどって、個人差って何にでもあるよね。
「わぁ、それは使っちゃだめだね。でもそういう龍も居るって俺聞いたことあるよ」
「龍を知っているのか?」
モズさんが俺の方を向いたから俺は頷いて見せた。
俺の中ではドラゴンは翼があるのが多くて、二足歩行できるようなイメージがある。
龍はモズさんが言ったみたいな大きなヘビで、手足はそれぞれあったりなかったりだったと思う、あくまで俺的な分析。
「東の方の土地では、ドラゴンは龍って言うんでしょ? 空とんでるの何回か見たことあるし、龍でも色んな見た目の人がいるのも見たことあるよ。夜、光って飛んでる人もいた。話したこともあるし」
「それでも私は、醜い龍だ。家畜を襲うと人々から忌み嫌われていた時期もあったくらいだ」
「あるある! 俺もコウモリの時、血を吸うんだろうって箒で追い回されたことあるよ! そうか、モズさんもそんなことあったんだね、賢くても大変だったんだねー」
いやー、どんな人にもいろいろあるよね。俺でさえなんだかんだあるんだもん、そりゃあ、モズさんならもっといろいろあるよねー。
そう思って、うんうん、頷いていると、モズさんはちょっと呆れたように渋い顔をしていた。
「……お前が思っているような存在ではないと言いたいんだ」
「そう?」
「お前に私がドラゴンだと教えた奴は、からかい半分の侮辱的な意味合いで言っていたはずだ」
「え! そうだったのかー、ごめんなさい。俺今まで会ったドラゴンや龍の人は良い人とか面白い人だけだったし、王様も変な人には役職つけないから、ドラゴンだって言うのはスゴイって意味と同じだと思いこんでたんだ」
そうかー、だから誰から教えてもらったか覚えてないんだなー、俺。
もしかしたら、ちょっとヤな感じの人だったのかも。そういう人のことすぐ忘れちゃうから。
「いや、エト君からは侮蔑な意味合いは感じられなかった。だから余計に私は、自分がそうでないと言っているんだ」
「スゴくないって?」
「そういうことだ」
「いやー、ない、ない。あれだけ仕事こなしてて、それはないよー。それに今やってることが本職だったんでしょ? そうじゃないことあれだけできてて、スゴくないってことない、ない」
マジ、ないわー。
「そんな、ことは」
「ある! 間違いない!」
そう、ある! モズさんの業務をこなす量は半端なかったのは、夜型の俺だからよく見てる。
「そ、そうか」
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モズさんは首を傾げながらも、机に向き直って作業を再開させていた。
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