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毎回同じようにあまり弾まない会話をして、食事を終わらせた。
「二人で話したいんだけど」
単調直入に言えば、アズル様は笑って僕を別の部屋に案内した。
応接室というには少し広く、私室というにはやや豪華な印象の部屋だった。
「ここ何のための部屋?」
「家族で団らんするための部屋だ」
「あーなるほど」
分かるわけがない。
団らんするためだけにある部屋って結局なんのための部屋だ。家族みんなで好きに使えるよってことか?
大きな屋敷は僕には分からないことが多いが、わざわざ聞くのも面倒だ。
アズル様がソファーに座るのを見届けて、その向かいのソファーに座る。
メイドが酒をどうかと勧めてくるが、丁重に断ってお茶を貰う。
テーブルにそれらが用意されてから、アズル様が人払いをしてくれた。
「今回の婚約の意図はなんですか?」
「その話し方でいくのか?」
質問に質問で返されるのははぐらかしたい理由のためか。
そう思い僕が表情を少し曇らせたからか、アズル様は笑う。
「邪推するな、それくらいには仕事ではないということだろ」
そうだと分かってくれているなら日頃からこの話し方でいかせてほしいものだ。
「お前が無理してタメ口をきくのも可愛いが、それが上辺だけだというのも分かっている」
「だったら尚更婚約などする意味はないですね」
口角だけあげて、アズル様はグラスを回して酒を一口。
グラスをテーブルに置くと、じっと視線が合った。
「婚約だけのつもりじゃないがな、これから正式に段取りして結婚するつもりだ」
「……誰と」
分かっているが、万が一何かのカモフラージュではなかろうかと聞かずにはいられなかった。
その些末な希望はきちんと打ち砕かれた。
「お前以外にいないだろ」
軽口のように言われてため息が出る。
「だからどうして僕なんですか? 貴方なら他にいくらでも相手がいるでしょう」
アズル様は立ち上がり僕の前に来て、僕を囲うようにソファーの背に手をついた。
「俺がお前の虜だからな、諦めろ」
「と、とりこ?」
間近で見つめられ動揺する。
さっきまでの冗談のように行ってくれればこっちもいなせるものを、こんなときだけいつもと違うオーラのある本性を少し覗かせるなんて。
「なんだ、わざわざ訳を知りたいか? そうだな、無理に形だけの嫁になられても困るからな。理由は簡単に言うならお前が俺に惚れないからだ」
「は?」
うっかり素が出て失礼な物言いになってしまうが、それにニヤリと笑うんだからタチが悪い。
「もちろん惚れられたら捨てるとかそんな話ではなく、俺に惚れたお前をどこまでも甘やかしてやりたいからだ」
「甘やかすって」
「好きなんだ」
ああ、これは逃げられない。
アズル様はそのまま近づいてきて、キスをする。
そしてそれが徐々に深くなっていくのを受け入れながら、行き着いた結論がそれだった。
僕に隙があることがバレている。
本当に相手が悪かったんだろう。
我武者羅に逃げれば逃してくれたかもしれないし、僕が本気で傷付くと分かればやめてくれるかもしれない。
アズル様は流石にしないだろうが、抵抗を抑え込んで無理矢理できるくらいには力の差がある。そう、それをしないだろうという信頼もあった。
これが嫌いとかどうしても無理な相手なら僕だってもっといろんな方法でもっともっと以前の段階で完全に拒絶する方法を取った。
いっそ憎らしい相手だったら良かったのに。
全力で逃げられたのに。
僕は受け入れたとも諦めたとも言えない複雑な感情ではあったが、抵抗はしないことにした。
遅かれ早かれだなと思ったから。
好きになったわけでない。好きになるわけでもない。
ただ悲しいかな貴族のサガがこんな末端な僕にもあるがために、ある種の情を持ち合わせてしまっていた。尊敬できる相手とは結婚なんて余裕なのだ。むしろそんな相手であることは喜ばしいことなのだ。
とんだクズ野郎との結婚話だってないことはないんだから。いや、その場合だと僕は全力逃亡なんだった。どっちが良かったのか。
兎に角逃げられないと僕が完全に悟ったことが大事だ。
そうなったなら僕の人生の行く道を方向修正するだけだ。
そもそも僕は仕事に情熱がある方ではない。
安定した収入と、適度な休みがあればいい。
給料以上に働く気はないし、不条理は受け流すし、サボるチャンスも見逃さない。
許容範囲なら身分なんかのシガラミも受け入れる。
最初の努力でその後に楽になる算段がつくなら、多少は頑張りもする。
そしてとてつもなく面倒くさいなら逃げる。
今回の件はすべてを放り投げて逃げるべきものか。
それを見極めるためにやってきたのだが、それは受け入れる余地があったということだ。
アズル様は真実を言わないことはあるが、嘘はつかない。
ミスリードを誘うような言動は貴族には付きものだから、そういうことは当然なのだが、さっきの言葉はストレート過ぎる。
新天地でゼロから始めるのは、この人が嘘つきだったと分かってからでもいいのではないか。
それまでは誰かに好かれる人生を送ってみるのも貴重な体験だ。二度目などないかもしれないのだから、味わってみるのもまた一興だ。
ただ本当に相手が悪かったと体で実感することになる。
ソファーで後ろに手をついて座る僕の足の間にはアズル様がいる。
着崩れた服の間から引きずり出された僕のモノが手や口で緩急織り交ぜて刺激さてれている。
「んっ、……あっ、ヤバい、です」
「悪いが、理性が切れるまで何度でもイくことになると覚悟してくれ」
「っ理性って、あぅっ、あぁー」
「お前が誰にも見せていない姿がみたい」
そんなもんいくらでもあるわ!
こんな状況以外にもと、言う余裕はもうすでにない。
経験豊富とは言えない、むしろほとんどないと言える僕が冷静でいられるわけがない。
それでも始めのうちは行為を追えていた。
アズル様の手が僕のベストのボタンに掛かり、タイを外され、引き出されたシャツの裾から手が入ってきて皮膚を撫でられる。
抵抗はしないと決めはしたが、刺激に耐性のない僕は顔を背けたり目をつぶったりと反射的にしてしまう。
そうしているとシャツのボタンも全て外され、次はズボンのベルトに手が掛かる。
唇で僕の胸を触りながら、器用にベルトを抜き去り前がくつろげられる。
そして現在だ。
もうその事で情報処理能力は無効化されて、まともな思考はできない。
堪えるなんてことはそもそも無理な話で、アズル様がわざと焦らしたりして追い詰められるままに反応して高め上げられていく。
そして気がつけば下半身の衣類は足から抜き取られ、僕が着るものはシャツ一枚になっている。
アズル様はそもそもタイもしてなかったし、首元も緩められていたから、服装に乱れはない。
それに気がついたが、そこに感情が乗る前に僕はさらに高められ、たぶんわざとじわじわと絶頂を迎えさせられた。
「アッ! あ……っ……ん……ぁ」
いつの間にかソファーの端を両手共握り、体が微かに震えるほどの絶頂を僕が知っていたはずもない。
余韻と言うにはあまりにも強い波が体を襲っているのに、アズル様は僕を抱き上げ歩き出す。
「あっ、ぁ……ど、どこ」
「風呂だ、今日は長くなる」
運ばれている間に体の熱がようやく冷めてきたというのに、当たり前だがそのまま解放されるわけもなかった。
しっかりと準備された風呂場で、僕もしっかりアズル様の手によって準備を整えられた。
その時点でもう十分喘いで、刺激されて、長い夜なのに、アズル様はそこからが始まりだ。
二人ともバスローブ姿ですでにぐったりしている僕をベッドに下ろすと、すぐさまバスローブを脱ぎ僕の片足を自分の肩に乗せる。
風呂場で散々慣らされたそこがアズル様の目の前に晒されるが、恥ずかしがる感情などもうない。
様々な差を実感するばかりだ。
体格の、体力の、経験値の、まだなにか有りそうな気がする。
思考だけでも逃避したくて、そんな事を考えながら意識を逸らしていたらアズル様に気づかれた。
「名前で呼べ」
集中しないようにしているから、アズル様に気を向けるにはうってつけの要求だ。
「……はぁ、ァ、呼んでます」
「様はいらない」
「そんな……ひゃっ、んッッ!!」
「ほらいつまでも終わらないぞ」
体内を動く指が容赦なく責めてきて、その快感に逃げそうになるのを押さえ込まれて許されず、僕は自分で設けていたアズル様との壁を一つだけ壊すことにした。
「アズル、もう終わらせて……」
「いい子だ、覚悟しろよ」
散々弄(もてあそ)ばれたために、彼を受け入れるのに痛みはなかった。
流石の圧迫感はあるが、それ以上に自分でも分かるほど熱を持ちうねるそこが怒張に貫かれると声なき悲鳴が出た。
そしてゆっくりと律動は始まり、理性が切れても許してもらえなかった……。
自分が何を言っているのか理解できないまま口は勝手に動き、体はそれ以上にいうことを聞かず辛いのに何度もビクビクと反応する。
もう射精ではなく、体の芯で絶頂を迎えているせいで連続なんてくらいじゃないほどイキっぱなしな状態にまでなっても、男は容赦してくれない。
「ぁあア! っも、やっ、ひゃぅあぁぁあ、あ、あ、やだぁ」
「……まだイけるだろ」
「むりぃ、やぁあ、おく、奥やだー、あっあっ、はぁうあ、もう、おく、むりぃい」
「体からでいい、俺を絶え間なく欲しろ」
「あぁぁ、なに、ゃ、わかんない、ああっ、アアッ、はあっやあアァ」
ぐりっと最奥を丁寧に突かれては、ゆっくりと引き抜かれ、完全に抜ききる前に止まる。そこで暫く待機されると、何も拓かれるモノがなくなった奥へ続く道が痺れるようにきゅうきゅうとうねり、それさえも気持ちがいいと感じるまでになっているのに、そこをまたアズルのモノが侵入してくると、息は止まり体は痙攣するほど快感を伝える。そして最後まで貫かれたらその刺激で男を締め上げ、体内の質量をまざまざと実感する。
それが気持ちよくて、苦しい。
息が上がるような激しい動きではない。それでも絶え間なく喘ぐことで呼吸は乱れ、意識したことのない筋肉が緊張と弛緩を繰り返すせいで体の制御はすっかりできなくなっている。
「も、っっあああ……ゅるして、くださ……ひぃ、はあっあァァ」
「こら、懇願じゃなくおねだりにしろ」
そこまで対等な立場に拘らなくてもいいのに。
そう理解できるまで相当時間が掛かった。寧ろこの状況で理解できたことを誉めてほしいくらいだ。
「おねがい、ぼく、ぁはあ、あっ、……ぼく、もう、壊れちゃうよぉ」
「壊してやりたいくらいなんだがな」
「ゃああ、やだぁ、気持ちいいの、もう、いらなぃ」
「仕方ない、今日は終わってやる」
「ぎゃ」
そのまま僕の記憶は途切れた。
「二人で話したいんだけど」
単調直入に言えば、アズル様は笑って僕を別の部屋に案内した。
応接室というには少し広く、私室というにはやや豪華な印象の部屋だった。
「ここ何のための部屋?」
「家族で団らんするための部屋だ」
「あーなるほど」
分かるわけがない。
団らんするためだけにある部屋って結局なんのための部屋だ。家族みんなで好きに使えるよってことか?
大きな屋敷は僕には分からないことが多いが、わざわざ聞くのも面倒だ。
アズル様がソファーに座るのを見届けて、その向かいのソファーに座る。
メイドが酒をどうかと勧めてくるが、丁重に断ってお茶を貰う。
テーブルにそれらが用意されてから、アズル様が人払いをしてくれた。
「今回の婚約の意図はなんですか?」
「その話し方でいくのか?」
質問に質問で返されるのははぐらかしたい理由のためか。
そう思い僕が表情を少し曇らせたからか、アズル様は笑う。
「邪推するな、それくらいには仕事ではないということだろ」
そうだと分かってくれているなら日頃からこの話し方でいかせてほしいものだ。
「お前が無理してタメ口をきくのも可愛いが、それが上辺だけだというのも分かっている」
「だったら尚更婚約などする意味はないですね」
口角だけあげて、アズル様はグラスを回して酒を一口。
グラスをテーブルに置くと、じっと視線が合った。
「婚約だけのつもりじゃないがな、これから正式に段取りして結婚するつもりだ」
「……誰と」
分かっているが、万が一何かのカモフラージュではなかろうかと聞かずにはいられなかった。
その些末な希望はきちんと打ち砕かれた。
「お前以外にいないだろ」
軽口のように言われてため息が出る。
「だからどうして僕なんですか? 貴方なら他にいくらでも相手がいるでしょう」
アズル様は立ち上がり僕の前に来て、僕を囲うようにソファーの背に手をついた。
「俺がお前の虜だからな、諦めろ」
「と、とりこ?」
間近で見つめられ動揺する。
さっきまでの冗談のように行ってくれればこっちもいなせるものを、こんなときだけいつもと違うオーラのある本性を少し覗かせるなんて。
「なんだ、わざわざ訳を知りたいか? そうだな、無理に形だけの嫁になられても困るからな。理由は簡単に言うならお前が俺に惚れないからだ」
「は?」
うっかり素が出て失礼な物言いになってしまうが、それにニヤリと笑うんだからタチが悪い。
「もちろん惚れられたら捨てるとかそんな話ではなく、俺に惚れたお前をどこまでも甘やかしてやりたいからだ」
「甘やかすって」
「好きなんだ」
ああ、これは逃げられない。
アズル様はそのまま近づいてきて、キスをする。
そしてそれが徐々に深くなっていくのを受け入れながら、行き着いた結論がそれだった。
僕に隙があることがバレている。
本当に相手が悪かったんだろう。
我武者羅に逃げれば逃してくれたかもしれないし、僕が本気で傷付くと分かればやめてくれるかもしれない。
アズル様は流石にしないだろうが、抵抗を抑え込んで無理矢理できるくらいには力の差がある。そう、それをしないだろうという信頼もあった。
これが嫌いとかどうしても無理な相手なら僕だってもっといろんな方法でもっともっと以前の段階で完全に拒絶する方法を取った。
いっそ憎らしい相手だったら良かったのに。
全力で逃げられたのに。
僕は受け入れたとも諦めたとも言えない複雑な感情ではあったが、抵抗はしないことにした。
遅かれ早かれだなと思ったから。
好きになったわけでない。好きになるわけでもない。
ただ悲しいかな貴族のサガがこんな末端な僕にもあるがために、ある種の情を持ち合わせてしまっていた。尊敬できる相手とは結婚なんて余裕なのだ。むしろそんな相手であることは喜ばしいことなのだ。
とんだクズ野郎との結婚話だってないことはないんだから。いや、その場合だと僕は全力逃亡なんだった。どっちが良かったのか。
兎に角逃げられないと僕が完全に悟ったことが大事だ。
そうなったなら僕の人生の行く道を方向修正するだけだ。
そもそも僕は仕事に情熱がある方ではない。
安定した収入と、適度な休みがあればいい。
給料以上に働く気はないし、不条理は受け流すし、サボるチャンスも見逃さない。
許容範囲なら身分なんかのシガラミも受け入れる。
最初の努力でその後に楽になる算段がつくなら、多少は頑張りもする。
そしてとてつもなく面倒くさいなら逃げる。
今回の件はすべてを放り投げて逃げるべきものか。
それを見極めるためにやってきたのだが、それは受け入れる余地があったということだ。
アズル様は真実を言わないことはあるが、嘘はつかない。
ミスリードを誘うような言動は貴族には付きものだから、そういうことは当然なのだが、さっきの言葉はストレート過ぎる。
新天地でゼロから始めるのは、この人が嘘つきだったと分かってからでもいいのではないか。
それまでは誰かに好かれる人生を送ってみるのも貴重な体験だ。二度目などないかもしれないのだから、味わってみるのもまた一興だ。
ただ本当に相手が悪かったと体で実感することになる。
ソファーで後ろに手をついて座る僕の足の間にはアズル様がいる。
着崩れた服の間から引きずり出された僕のモノが手や口で緩急織り交ぜて刺激さてれている。
「んっ、……あっ、ヤバい、です」
「悪いが、理性が切れるまで何度でもイくことになると覚悟してくれ」
「っ理性って、あぅっ、あぁー」
「お前が誰にも見せていない姿がみたい」
そんなもんいくらでもあるわ!
こんな状況以外にもと、言う余裕はもうすでにない。
経験豊富とは言えない、むしろほとんどないと言える僕が冷静でいられるわけがない。
それでも始めのうちは行為を追えていた。
アズル様の手が僕のベストのボタンに掛かり、タイを外され、引き出されたシャツの裾から手が入ってきて皮膚を撫でられる。
抵抗はしないと決めはしたが、刺激に耐性のない僕は顔を背けたり目をつぶったりと反射的にしてしまう。
そうしているとシャツのボタンも全て外され、次はズボンのベルトに手が掛かる。
唇で僕の胸を触りながら、器用にベルトを抜き去り前がくつろげられる。
そして現在だ。
もうその事で情報処理能力は無効化されて、まともな思考はできない。
堪えるなんてことはそもそも無理な話で、アズル様がわざと焦らしたりして追い詰められるままに反応して高め上げられていく。
そして気がつけば下半身の衣類は足から抜き取られ、僕が着るものはシャツ一枚になっている。
アズル様はそもそもタイもしてなかったし、首元も緩められていたから、服装に乱れはない。
それに気がついたが、そこに感情が乗る前に僕はさらに高められ、たぶんわざとじわじわと絶頂を迎えさせられた。
「アッ! あ……っ……ん……ぁ」
いつの間にかソファーの端を両手共握り、体が微かに震えるほどの絶頂を僕が知っていたはずもない。
余韻と言うにはあまりにも強い波が体を襲っているのに、アズル様は僕を抱き上げ歩き出す。
「あっ、ぁ……ど、どこ」
「風呂だ、今日は長くなる」
運ばれている間に体の熱がようやく冷めてきたというのに、当たり前だがそのまま解放されるわけもなかった。
しっかりと準備された風呂場で、僕もしっかりアズル様の手によって準備を整えられた。
その時点でもう十分喘いで、刺激されて、長い夜なのに、アズル様はそこからが始まりだ。
二人ともバスローブ姿ですでにぐったりしている僕をベッドに下ろすと、すぐさまバスローブを脱ぎ僕の片足を自分の肩に乗せる。
風呂場で散々慣らされたそこがアズル様の目の前に晒されるが、恥ずかしがる感情などもうない。
様々な差を実感するばかりだ。
体格の、体力の、経験値の、まだなにか有りそうな気がする。
思考だけでも逃避したくて、そんな事を考えながら意識を逸らしていたらアズル様に気づかれた。
「名前で呼べ」
集中しないようにしているから、アズル様に気を向けるにはうってつけの要求だ。
「……はぁ、ァ、呼んでます」
「様はいらない」
「そんな……ひゃっ、んッッ!!」
「ほらいつまでも終わらないぞ」
体内を動く指が容赦なく責めてきて、その快感に逃げそうになるのを押さえ込まれて許されず、僕は自分で設けていたアズル様との壁を一つだけ壊すことにした。
「アズル、もう終わらせて……」
「いい子だ、覚悟しろよ」
散々弄(もてあそ)ばれたために、彼を受け入れるのに痛みはなかった。
流石の圧迫感はあるが、それ以上に自分でも分かるほど熱を持ちうねるそこが怒張に貫かれると声なき悲鳴が出た。
そしてゆっくりと律動は始まり、理性が切れても許してもらえなかった……。
自分が何を言っているのか理解できないまま口は勝手に動き、体はそれ以上にいうことを聞かず辛いのに何度もビクビクと反応する。
もう射精ではなく、体の芯で絶頂を迎えているせいで連続なんてくらいじゃないほどイキっぱなしな状態にまでなっても、男は容赦してくれない。
「ぁあア! っも、やっ、ひゃぅあぁぁあ、あ、あ、やだぁ」
「……まだイけるだろ」
「むりぃ、やぁあ、おく、奥やだー、あっあっ、はぁうあ、もう、おく、むりぃい」
「体からでいい、俺を絶え間なく欲しろ」
「あぁぁ、なに、ゃ、わかんない、ああっ、アアッ、はあっやあアァ」
ぐりっと最奥を丁寧に突かれては、ゆっくりと引き抜かれ、完全に抜ききる前に止まる。そこで暫く待機されると、何も拓かれるモノがなくなった奥へ続く道が痺れるようにきゅうきゅうとうねり、それさえも気持ちがいいと感じるまでになっているのに、そこをまたアズルのモノが侵入してくると、息は止まり体は痙攣するほど快感を伝える。そして最後まで貫かれたらその刺激で男を締め上げ、体内の質量をまざまざと実感する。
それが気持ちよくて、苦しい。
息が上がるような激しい動きではない。それでも絶え間なく喘ぐことで呼吸は乱れ、意識したことのない筋肉が緊張と弛緩を繰り返すせいで体の制御はすっかりできなくなっている。
「も、っっあああ……ゅるして、くださ……ひぃ、はあっあァァ」
「こら、懇願じゃなくおねだりにしろ」
そこまで対等な立場に拘らなくてもいいのに。
そう理解できるまで相当時間が掛かった。寧ろこの状況で理解できたことを誉めてほしいくらいだ。
「おねがい、ぼく、ぁはあ、あっ、……ぼく、もう、壊れちゃうよぉ」
「壊してやりたいくらいなんだがな」
「ゃああ、やだぁ、気持ちいいの、もう、いらなぃ」
「仕方ない、今日は終わってやる」
「ぎゃ」
そのまま僕の記憶は途切れた。
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