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第二章
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「ここ何?」
「さぁな。オレもこんな場所があるなんて知らんかったな」
オードリー達は、シンの言う通りに城の裏側に来ていた。
通常は立ち入れないはずのそこは、どういう訳か何事もなく侵入でき、地図通りの断崖絶壁になっていた。
しかし、城と崖の間に妙な土地が広がっており、水深わずか十センチほどの池が佇んでいる。
「この池、地図にはないね」
「それがなんだ、これっぽっちの池、無視したっていいだろ。第一ここからは何も感じない」
オードリーの言うように他の四人も同じ感想だった。
ただ広い水溜まり。
若干、草は生えているが生き物がいる気配は全くしない。
とてつもなく澄んだ水が溜まっているだけのそこに何かあると思える者は誰もいなかった。
「シン、本当にここなのか? そのなんちゃらって儀式をする場所は」
「間違いない。間違うはずない、こんな場所だってことは知らなかったけど、地図にはここだって書いてあるんだ」
「じゃあその儀式ってのをやってみたらいいじゃない! 違わないなら何か起こるはずだよ」
「そうだな、時間もないんだ。早くアオイを助けに行かんと、あいつの事だから無事だとは思うが……」
「そうだな! さっさと終わらせよう」
本音を言ってしまえば五人の心の中は疑念ばかりだった。時間と共に不安ばかりが大きくなって、何を信じればいいのか、真実はどこにあるのか、確信できることなど一つとして出てこなかった。
それでも五人を動かしていたのは、たった数週間程度の付き合いの少年の存在で、「またな」という最後の言葉だった。
しかし、策が尽きればそれでさえ瞬時に価値はなくなる。
つまり何も起こらなかったのだ。
「なんで……」
「やり方が間違ってるとかじゃないの、ねぇ!」
「そんなはず……ちゃんと言われた通り、書いてある通りにやったよ」
「じゃあなんで何も起こらない?」
「そんなの………」
シンの声は微かに震え、つぶやくように「………わかんないよ」とだけ言った。
そこからは空気は張り詰めていくばかり。そしてそれは空気だけじゃなく、それぞれの心。
疑いは他人に向けられるだけじゃなく、自分自身をも包んでいく。
誰かが一言発するだけで総崩れになることはそれぞれが分かっている。だから誰も何も言わない。沈黙ばかりが続いてた。
「そのままどうするのぉ?」
!!!!!
五人は瞬時に戦闘体制。
「何?! どこから聞こえてきたの?」
「わからん!」
「ぷぷぷ、見つかるわけないよぉ~」
声は聞こえど姿はみえず。キョロキョロあたりを見渡すが隠れる場所さえないのに探すほどもない。
「崖の下…?」
「ブッブー、そんな遠くから聞こえてないよねぇ」
「チッ、気配さえしねぇよ」
「ウフフぅ~」
「どこにいんだよッ!」
ただ勘に任せて剣を振り回したり、カミナリを落としたりしていたが、当たってはいないようだった。
しかし声の主はただ笑っているだけで攻撃を加えてきたりはしなかった。
「なんなんだよ、何がいるんだよ…」
やがて疲れたオードリーが、それでも剣を振り回しながら呟いた。
その呟きに笑ってばかりいた声がこれまた楽しそうに返事を寄越す。
「何のたメェー? もちろん碧君のたメェーだよぉ」
「アオイを知ってるの?! ちょっとどういうことよ」
どんなに問い詰めようと一向に姿を見せない。
無駄に暴れていると城の方から別の声がした。
「お前!! 口喧嘩に勝てないからって先に行ってんじゃねーよ」
「碧君…ヒドイ…」
「「「アオイ!!」」」
「さぁな。オレもこんな場所があるなんて知らんかったな」
オードリー達は、シンの言う通りに城の裏側に来ていた。
通常は立ち入れないはずのそこは、どういう訳か何事もなく侵入でき、地図通りの断崖絶壁になっていた。
しかし、城と崖の間に妙な土地が広がっており、水深わずか十センチほどの池が佇んでいる。
「この池、地図にはないね」
「それがなんだ、これっぽっちの池、無視したっていいだろ。第一ここからは何も感じない」
オードリーの言うように他の四人も同じ感想だった。
ただ広い水溜まり。
若干、草は生えているが生き物がいる気配は全くしない。
とてつもなく澄んだ水が溜まっているだけのそこに何かあると思える者は誰もいなかった。
「シン、本当にここなのか? そのなんちゃらって儀式をする場所は」
「間違いない。間違うはずない、こんな場所だってことは知らなかったけど、地図にはここだって書いてあるんだ」
「じゃあその儀式ってのをやってみたらいいじゃない! 違わないなら何か起こるはずだよ」
「そうだな、時間もないんだ。早くアオイを助けに行かんと、あいつの事だから無事だとは思うが……」
「そうだな! さっさと終わらせよう」
本音を言ってしまえば五人の心の中は疑念ばかりだった。時間と共に不安ばかりが大きくなって、何を信じればいいのか、真実はどこにあるのか、確信できることなど一つとして出てこなかった。
それでも五人を動かしていたのは、たった数週間程度の付き合いの少年の存在で、「またな」という最後の言葉だった。
しかし、策が尽きればそれでさえ瞬時に価値はなくなる。
つまり何も起こらなかったのだ。
「なんで……」
「やり方が間違ってるとかじゃないの、ねぇ!」
「そんなはず……ちゃんと言われた通り、書いてある通りにやったよ」
「じゃあなんで何も起こらない?」
「そんなの………」
シンの声は微かに震え、つぶやくように「………わかんないよ」とだけ言った。
そこからは空気は張り詰めていくばかり。そしてそれは空気だけじゃなく、それぞれの心。
疑いは他人に向けられるだけじゃなく、自分自身をも包んでいく。
誰かが一言発するだけで総崩れになることはそれぞれが分かっている。だから誰も何も言わない。沈黙ばかりが続いてた。
「そのままどうするのぉ?」
!!!!!
五人は瞬時に戦闘体制。
「何?! どこから聞こえてきたの?」
「わからん!」
「ぷぷぷ、見つかるわけないよぉ~」
声は聞こえど姿はみえず。キョロキョロあたりを見渡すが隠れる場所さえないのに探すほどもない。
「崖の下…?」
「ブッブー、そんな遠くから聞こえてないよねぇ」
「チッ、気配さえしねぇよ」
「ウフフぅ~」
「どこにいんだよッ!」
ただ勘に任せて剣を振り回したり、カミナリを落としたりしていたが、当たってはいないようだった。
しかし声の主はただ笑っているだけで攻撃を加えてきたりはしなかった。
「なんなんだよ、何がいるんだよ…」
やがて疲れたオードリーが、それでも剣を振り回しながら呟いた。
その呟きに笑ってばかりいた声がこれまた楽しそうに返事を寄越す。
「何のたメェー? もちろん碧君のたメェーだよぉ」
「アオイを知ってるの?! ちょっとどういうことよ」
どんなに問い詰めようと一向に姿を見せない。
無駄に暴れていると城の方から別の声がした。
「お前!! 口喧嘩に勝てないからって先に行ってんじゃねーよ」
「碧君…ヒドイ…」
「「「アオイ!!」」」
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