CASTエソラ〜異世界で出会ったのは大きなペンギンでした〜

nano ひにゃ

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第一章

第四幕 クルトキ1

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 翌日、オードリーと一緒に昨日言われた場所に向かうと、そこはジャングルといって偽りがない原生林。この世界に降り立った時の植林されたような森とは大違いだった。

「アマゾンの奥地とか行ったらこんな風になってるんだろうな」
「お前のいたところにもこんな場所があるのか?」
「行ったことはないけどね」

 妙な生物でも出て来やしないかと鬱蒼とした木々を見つめながら少しその場所で待っていると、もちろんジャングルの中からではなく、自分たちが来た方角から見知った顔と全く初対面の面々が集まってきた。

 程無くして全員集まったらしくオードリーがそれぞれを紹介してくれた。

「ノサとリューは昨日会ってるからいいな。こっちがシン、でこっちがベマだ」

 びっくりしたのは、ベマと呼ばれたそのコの方だった。真っ白な肌に漆黒の長い髪。白い長いウサギの耳こそ付いているが、みなみちゃんと瓜二つなのだ。

「ベマ? みなみじゃなくて?」
「ちゃんと聞いてたか? ベマだ、ベマ」

 一体どういう事だろう。偶然にしては似すぎている。もしかしなくても、みなみちゃんはこの世界に関係していると考えて間違いない。でも、もともと僕をこっちにやったのはみなみちゃんなのだから、関わっていても当然といえば当然か。

「アオイくんのお知り合いに私に似た人でもいらしたんですね」

 オードリーから僕の紹介を受けると、ベマは優しい微笑を浮かべながらそう言った。
碧くん……かぁ……

「……みなみちゃんと同じ呼び方――」

 思わず声に出してめっちゃ後悔。

「おいっ、アオイ! もしかしてミナミってのが前に言ってたお前の想い人なのか?! ベマに似てるってことは、そうか、これだけの美貌の持ち主か。そりゃあ会話なんぞなくとも惚れるよな。わかるぞ、アオイ」

 オードリーって知れば知るほど子供っぽい。

「惚れているのは、オードリーの方じゃないの」
「アオ、イ。お、お前、別に俺は――」
「そーなの、オードリー? やっぱりベマの事が好きだったの?」

 ノサの表情は明るくない。少し涙ぐんでいるようにも見える。
 そういえば、ノサは泣き虫なのだと昨日オードリーが教えてくれたっけ。
「いや、ち、違うぞノサ! 俺はただ綺麗な奴だと思っているだけで、す、す、す、好きとかっ、そんなんじゃねーし。本当に違うからな! ベマなんか好きじゃねぇ!!」
「オードリー、言いすぎ」

 僕もさすがにツッコんでしまった。

「まったく…、お前は昔から分かりやすい男だな。そして相当なバカでもあるな」

 リューの辛らつな言葉にオードリーはいつもの如くキレそうになるが、ベマが柔らかに止めに入り、一行はジャングルの中に進めることとなった。

 どうもこいつらの人間関係ではベマが三人の暴走を止める役まわりみたいだ。みなみちゃんも僕以外の前ではそういうポジションだから性格もよく似ていると言ってもいい。

 そしてリューだ。こいつは幼馴染の性格にそっくりだ。ただ、そいつも僕以外の前ではかなり優しい男を演じてるはずで、リューのような性格は表には出していない。とすると、そっちは関係無いと見ていいのか。

 でもまだ情報が足らないな。
 昨日の話からすると、これから何か起こるはずだ。それを待ってから考えても遅くない。きっといろいろと分けて考えないと結論は導き出せないような気がする。まだそれをどう分けるか判断できるほど、手札のカードは揃っていない。

 少しずつ疑問を解消していこう。

 しばらく木々の間をすり抜けるように獣道を進んでいく。植物としては巨大なすぎる花や葉を持つせいで日の光もあまり届かないらしく薄暗い。この世界は規格外サイズのものが多々あって、もしかしたらオードリーもその流れでこんなに大きな体を持っているのかもしれない。
 そのおかげでこんなに愛着を持てるんだから、ちょっと感謝しちゃうな。

「なあ、初めてオードリーに会った森さ、普通の人は入れないって言ってたけど、ここもそういうとこなのか?」

 つい目の前のフカフカの背中を見つめていたら、ふと出会った時のことを思い出した。

「いや、特別規制はされていない。ここも訓練に使われるから卒業者以外が入るのは危険とされているが、入ることそのものに罰則があるわけじゃないからな」
「てことは、あそこは入ると罰があるってこと? それ、俺ヤバイんじゃないの? なんで捕まらないんだ?」
「さぁな。でも昨日のオヤジ達の感じからすると、監視するために俺の家に置いてガッコウに行かせてるのかもしれん。どう考えても普通じゃねーんだよ」

 それは反発心から来るものだけではなく、冷静な彼の判断なのだと思えた。
 すると、黙々と前を進んでいたリューが振り向くこともなく静かに話し始めた。

「普通じゃないという話なら、ボクもある。それもそれなりにスケールの大きな話だ」

 なんとなくオードリーと目配せをしてから、リューに話の先を促した。

「どうもこの国は滅びの危機に瀕しているらしい」

 驚いたのは僕らだけじゃなく後ろを歩いていたノサ達もだった。

「それなりどころか、相当デカイスケールだぞ!」
「あんたがそんな嘘吐かないって知ってるけど、誰かに騙されてるって事はあるんじゃないの? 一体どこの誰がそんな事言ってるのよ」
「うちの父親だよ」

 その一言で一同の顔色は変わった。ただ、シンも知らなかった様で無表情なままだ。
それにしてもリューの父親は一体何者なのか、素直にその疑問を口にするとまたもびっくりな答えが返ってきた。

「国の幹部をしてる。詳しい職務はボクも知らされてない。表向きは財務の官僚ということになっているが、前の父親もそういう奴だったから分かる。本職は何か違う事をしているはずだ」
「違うこと? 前のパパさんは何してたんだ?」
「ああ、簡単に言えば諜報部員だ」
「諜報部員って…スパイ!?」
「それも殺しでも何でもするな」
「マジ? でも何でリューはそんな事知ってるんだよ、一応隠してたんだろ?」
「シヤクショに勤めている奴が職務中に死ぬなんて考えられないだろう。不可思議だったから調べたまでだ」
「俺達も少し協力したんだ。だからリューの本当の父親がどんな仕事をしてたのか知っている」
 オードリーは険しい表情でそう言う。
「そう、そして今のお父さんもその同僚、つまりスパイって事も知ってるの」

 そう呟いたベマの瞳は寂しそうにリューを見つめていた。

「それは分かった。でもリューのパパさんが直接“世界は滅びる”って教えてくれたわけじゃないんだろ?」
「それが直接言われたんだ」

 これにはみんなが驚いた。

「嘘…なんで…?」
「僕たちが調べまわっていたのに気付いていたらしい。まあボクも気付かれてるのを承知していたからそれは驚きもしなかったが、それをネタに脅しを掛けていた。交換条件を呑まなければ、懲罰される。関わったボクら全員だ」
「再婚相手の子供だろうけど、そんなこと言うなんて酷い…」

 ノサの瞳からはゆっくり雫が落ちていた。
 反対にベマは表情こそ険しいが驚いている様子は全く見られなかった。聡い彼女はきっとリュー同様分かっていたのだろう。

「その交換条件って言うのは何だったの?」
「お前それを呑んだのか?」
 リューは返事をする代わりに視線を走らせた。
「……シン?」
「どういうことだ?」

 リューの視線の先にはシンがいる。
 はずだった。

 何が起こったのか、目に前には真っ白な雲と真っ黒な雲が渦巻いている。
 驚いて振り返ると、オードリー達も誰も何もない。
 ただモヤモヤと白と黒がゆっくり渦を作って、それが幾つも僕の周りを回っている。

 手を伸ばしてみる。

 触れない。

 渦巻いているのに何故だか全く混じり合わない雲。

 雲なのか…? 霧? 違う…空気に色が付いているんだ。

 どういうことだ?

 一歩踏み出す。

 進んでいるのかもわからない。足踏みをしているような感覚しか残らない。

 何だ…、何が起こった…。

 前触れが無さ過ぎる。ただ視線を動かしただけで、また違う世界に飛んできたのか?

 それじゃあ、何でもありすぎだろ! いくら俺でもテンパるぞ!!

「なんだよ、どういうことだよ! これは!!」
「どうした、アオイ?」
「え?!」

 振り向くとオードリーがいた。

「驚くのも無理ないがな、そんな大声出さなくても平気だぞ」
「そうそう、アオイにはホント訳わかんない話だとは思うけど、私たちも驚いてるのは変わりないし落ち着いて、ネ?」

 戻ってきた? 今のは何だったんだ?

 この世界に来て初めてどうしようもない恐怖に襲われた。

 ……怖い。
 …………コワイ。

 思わずオードリーに抱き付いた。

「おっ、おい! それやめろって言っただろう!!」

 自分でも子供みたいだって分かってるけど、そうせずには居られない。
 何が怖いのかよく分からない。でもそれが尚更僕を不安にさせる。

 さっき見た空間が怖いわけじゃない。突然独りになったことでもない。ただ恐怖だけが体の中に流れ込んできたような……。立っていられないような恐怖、目も開けていられない、大声を上げてしまいそうだ。

 でも、この感情には覚えがある…、本当に子供だった頃味わった恐怖だ。何に対する恐怖だったのか…、そこだけ思い出せない。

「おいっ、アオイ。…大丈夫か?」

 自分の体が微かに震えているのが分かる。でもオードリーの声があたたかい。ふわふわのオードリーの体が僕に安心をくれる。

「ごめん、大丈夫…もう平気だから」
「ホントか?」
「アオイ君? 大丈夫?」

 みなみちゃん……。

 じゃなかった、ベマ。
 もう悠長な事を言うのはやめだ。早く向こうに帰る手段を考えるんだ。情報が足りないなら、集めればいい。

「大丈夫…それより聞きたい事がある」
「何だ?」
「この国には今まで戦争とかなかったんだよな? それなのに何で戦う練習してんの? この闘術って授業だって、大体スパイだってどこの何をスパイしてるんだ」
「それは…」

 それぞれが目配せをし合ってる。最後にその視線の全てが留まったのはシンの元だった。でも、当の本人が俯いているせいで誰のものともそれが絡むことが無い。そしてその反応に諦めたようにため息をもらしたのはやっぱりオードリーだった。ため息を吐いた勢いで話し出そうとしたその時。

 音も無くそいつらは降ってきた。





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