CASTエソラ〜異世界で出会ったのは大きなペンギンでした〜

nano ひにゃ

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第一章

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「お前、いつもあんな事するのか?」

 森を抜けると、何もなくてただ広大な草原が広がっていた。特別な者しか入れないと言ってたから森の周りには何か進入防止の装置でもあるのかと思ったのに、柵すらなかった。

 ただぷっつりと木の生息が途絶えるだけ。

「まず始めに教えとくぞ。あんな事はしない方が良い」
「あんな事って、抱きつくことですか? ペ…オードリーさん以外にはしないですから心配いりませんよ」
「なっ……、お前」
「なんですか?」
「まさか俺にほっ・・ほっ、惚れたとか言うのか!?」
「え? まさか」
「そ、そうだよな」
「僕にはちゃんと好きな女の子がいますから」
「うお、マジか?!」

 草原の中にも道はなく、それでも斜め前を歩く彼の足取りは躊躇うことなく進んでいく。
 そう言えば、ペンギンでも歩く速さはそんなに僕と変わらない。動物園で観たヤツみたいに左右にぶれたりもしない。足音はちょっとカワイイ・・・じゃなくて変わってるけど、どっしりとしっかり歩いている姿は男らしさに満ちていた。

「どんなヤツだ??」
「とっても大人しい子ですよ。ほとんど話してるところ見た事ないくらい」
「付き合ってンのか?」
「ううん。ただ好きなだけ」
「付き合いたくないのか? 相手が男嫌いとかか?」
「さぁ、そこまで話した事ないし」
「じゃあ何で好きになったんだ?」

 草原には小さな花たちが咲いていて、緑の絨毯を鮮やかに彩っている。
 そこに大きな雲の影が映る。思わず見上げた真っ青な空に巨大な入道雲がみえた。その雲が高く伸びているせいで空の高さもどこか無限にあるように見えてくる。

 この世界は一体なんなんだろう。
 空から視線を戻すと、崖がそびえ立っているのが見え始めていた。

「うーん、カワイイから」
「……酷いやつだな。顔さえ良ければ他はなんでもいいのか?」
「別に“顔が”カワイイとは言ってないですよ。まあ、顔もかわいいんですけど」
「ふーん、じゃあ何がかわいいんだ?」
「…あの、僕の好きな子の話をしに来たわけでは無いんですが」
「なんだ、照れてるのか?」

 その崖は、優に十メートルは超える険しいものだった。その岩肌に沿って歩き進めていく。

 暫くすると、これまた巨大な大木が崖にめり込むように生えていた。森に生えてた物とは比べものにならないくらい大きくて、樹齢何百年も経っている事が見て取れるほどだった。
 何てったって首が痛くなるほど見上げないといけない崖を簡単に超えてるんだから、千年以上経っているのかもしれない。岩にめり込むほどの生命力って、自然って偉大。

 その大木を通り過ぎる時、その根元に扉が付いているのが見えた。
 気になったけど、特に訪ねることなく歩き続けると、また大木が現れた。樹の種類が違うようでちょっとすらっとした風貌。でもサイズはさっき見たのとほとんど変わらずとても大きかった。そしてこれも崖にめり込むように立っていて、扉が付いていた。

 どういうこと? と考えながら歩いてるとまた同じような大木が現れて、その樹の扉の前でオードリーは立ち止まった。

 そして、そこが彼の家だった。
 木の根本の扉を開けると、天井も高くて広い。印象はスウェーデンの住居って感じ。ま、実際見た事なんてないし、アニメでみた妖精の家がイメージなんだけど。
もしかしたら氷の城でそれだったら寒そうかなとか考えてたんだけど。ペンギンだけにね。

 実際にはしっかり木製の家具が置いてあって、煉瓦の暖炉なんかもあっちゃって。その前にはゆらゆら揺れるロッキングチェアまであった。
 ここまでだと、どうもスウェーデンってよりはアルプスの山小屋に近いけど。それ以外にも、ドライフラワーがたくさん下がっていたり、ランプの形がホオズキの実の形をしていたり、大きな本棚に料理の本やアルバムのような物とか様々な本が並べられている。

 案内されて座ったのは土壁からせり出ている備え付けのベンチだった。

 ただ…ベンチにはフッカフカのクッションが敷いてあるのがオードリーの毛並みとそっくりでなんか怖い。もしや仲間の毛皮を剥いで作ったものだったりしたらどうしよう。
そっと撫でてみると……やっぱり同じ気がする……。

 すると奥から大きなペンギンが現れた。

 あぁーー、仲間がいるんだぁー、やっぱりこの毛皮は……。
出てきたペンギンはエプロンをしてスカーフを首の回りに巻いている。なぜかエプロンにはクマのアップリケ付き。
その方は僕とオードリーの間にあるテーブルまで来ると、持っていたトレーからティーカップを2つそっと置いてくれた。

「珍しいお友達だな。どうぞゆっくりしていって」

 そう言って、やさしく微笑む(ように見えた)とゆっくりと奥へ戻って行った。あのペンギンはどうやらオードリーの身内のようだ。結構ダンディな声をしてたから、男かな。
なんだかさっきまで威勢が良かったオードリーだが、何やらイスを揺らしている仕草が不機嫌そう。それが分かるくらいには彼の表情は読めるようになってきてる。

 そのついでに実は、ベンチのクッションの他に気になっていることがもう一つある。
 壁や暖炉の上にたくさんの写真が飾られているんだけど、それは家族写真のようで、数匹のペンギンが並んでいるのや水辺ではしゃいでる子ペンギンが写っているのとか様々なシーン、年代のものがある。

 その写真の古さと子どもの成長はリンクしているようで、古い写真にはねずみ色の毛むくじゃらのが、それが新しくなるにつれて徐々に毛が抜けていって、立派な皇帝ペンギンになっていってる。

 そしてさっきのダンディペンギンも一緒に写っているようだけど、その姿はちっっっとも変わっていない。
その子ペンギン、実はオードリーに見えたりしちゃったりなんかして…。

「オードリーさんっていくつなんですか?」

 思わず聞いちゃった。また怒るかなぁー。

「じゅうしち」

 僕、絶句。

「なんだよ?」

 正直なことを言えば、目茶苦茶びっくりした。
 ペンギンの年なんて見た目じゃ分からないけど、それでも話し方とか雰囲気でもっと上かと思ってた。

「どこをどう見ても十七だろ?」
「……いやぁ」
「いくつだと思ってたんだよ?」

 オードリーはちょっとムクれてみせた。もしかしたら、年相応に見られることは少ないのかもしれない。
 そうだとすると、率直な感想を述べてしまうのはよろしくないように思う。が、ここは敢えて素直に思った年齢を告げてみた。

「よんじゅう?! お前、俺のことバカにしてんのかッッッ!!」

 やっぱり怒ったか。
 姿は違えど中身はとても人間らしい。分からないことだらけだけど、あっちの常識が通じるなら少しは上手くやっていけるかもしれない。いつまでこの世界に居ることになるか分からないから、少しでも世渡り上手にならなくては。

 でも、最初に出会ったのが彼で本当に良かったな。

「バカにはしてないですよ。言われてみれば若い感じするし」

 出された飲み物を手に取りながら、さらりと笑顔で返す。
 彼はとても誠実で、ほんの微かな時間でも真っ直ぐな心を持っているって分かってしまう。あれだけ警戒していたにもかかわらず、どこぞの誰とも分からない僕を簡単に家に上げてしまうんだから、現代日本より平和な世界なのかもな。

 今だって、笑顔な僕がシャクに障ったようで「どこをどう見たら…」とか「お前の目は節穴だらけだ」とかガミガミと怒っているが、ちっとも恐怖心を抱かない自分がここにいる。

 それは出会った瞬間からずっとそうだった。平和ついでに、とてつもなく自然体な世界なのかも。
 元の世界に居たときでさえ感じたことのない他人に対する信頼という言葉までもつれている様に感じる。オードリーにはどうしてか素の自分で対応してしまうのがその証拠で、ここ何年も味わったことのない感情だった。






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