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第一章
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オードリーの存在をすっ飛ばして、思考モードに入ろうと黙っていたの事に痺れを切らしたらしく、さっきにも増して怒りのオーラを放っている。
「おい。チキュウがどうのっていうのは本気で言ったのか?」
僕はイエスの意味を込めて頷いてみせた。
「嘘言ってたらどうなっても知らねぇぞ」
「残念ながらすべて真実で、嘘偽りは全くないです。第一、嘘吐いたって僕には何のメリットもないですよ」
「そんなこと分からんだろう?」
「まぁ、そうかもしれませんね」
「そうかもしれません。ッじゃねぇ!! お前には状況ってものがわからないのか!?」
「わからない? 充分解かってますよ。解かりすぎるくらい解かってますよ」
「全然わかってねぇよ! お前がここにいるって事がどんだけ重大なことだと思ってるんだ」
「ああ、分かりませんね。何にもわかりません!」
僕はとても久し振りに声を荒げてしまった。
「もう全く分かりませんよ!“わからない”って事が今の僕の状況なんだ。だから僕はちゃんと分かってる……、わかってんだよ!」
そう言い放つと、むせた。
カッコわる。
久し振りの大声でのどを痛めたようでさらに咳き込んでしまった。
ますますカッコわる。
その姿があまりに哀れだったのかオードリーはフモフモの手で背中をさすってくれた。
「大丈夫か……」
「……はい」
ようやく返事ができるようになった頃にはいつもの落ち着きを取り戻す事ができた。自分で思っているよりも、実は不安なのかもしれない。それでも前に進むしかない。
「すみません、もう大丈夫です」
「そうか」
どういう訳か彼の表情が少し済まなさそうに見える。言い過ぎたとでも思ってるんだろうか。
「あの、勘違いだったらすみませんが、信じてもらえるなんて思ってなかったですから落ち込まないでください。仕方ないですよ、僕自身半信半疑だし、できれば夢だったらいいなって思ってるところで、突然出会ったペンギンさんに信じてもらえるなんてほとんど思ってないですから」
「ペンギンっていうな……」
「ああスミマセン。オードリーさん。そんな風にしょげないで下さい。そうだ、もういっそ無かったことにしてください」
オードリーの表情は虚を突かれたようなものに見えた。
「つまり、今ここで出会ったことは無かったことにしてください」
「それでどうするんだ?」
「もう少し自分で調べてみます。それから、助けてもらえそうな人を探して元の世界に帰ろうと思います」
そこで、僕は頭を下げて彼の前から立ち去ろうとした。
来てすぐに出会った人に助けてもらえれば正直とても助かる。でもそんなに甘くないのが本来の世間ってものだ。
言葉は通じるって事が分かっただけで良しとしようじゃないか。
次は取り敢えずもう少し人のいるところに出てみよう。もしかしたら人じゃないモノしかいないかもしれないけど……。
そう思いながらペンギンさんの横を通りすぎようとしたら、両肩を思いっきり掴まれクチバシが鼻につくほど顔を近づけられた。
「ぅわ!」
「アオイ」
ゆっくりとした重みのある声で名前を呼ばれた。
まさかあんな場面で言った名前を覚えているなんて驚いた。でも彼の目はとてもとても黒く透き通っていて、そして僕から少しも目を逸らさないでいる。だから息を吸うことも忘れてしまいそうになるくらい、僕もその目に魅入られてしまった。
「お前が嘘を言っているなら見逃すわけにはいかないんだ。ただ本当に困っているとするならば俺はお前の手助けをしてやろうと思う。だから俺はもう少しお前と話しをしなくてはならない。真実を見極めるには取り敢えず有効な手段だと思うからだ」
そう話している間もその瞳は微少にも動かず、それは僕の中にある何かを探り当てるかのように深く深いところを見つめられているようだった。
「それに、お前からは全く闘牙というモノを感じない。まあ、ここに入れてるんだからそういうものを消すくらい軽いモノなのかもしれないが、だったら尚更どこかに逃がすわけにはいかんしな。もし困っているならば、俺についてくるのは無駄じゃないと思うぜ」
そこで漸く顔を離してくれた。肩の方は変わらず掴まれままだけど、息が詰まる感じがなくなっただけでもいい。
「ぺ…オードリーさん」
動物を名前で呼ぶのはなれないな。ペットでも飼っておけばよかった。
「あの、名前覚えてくれてるなんて光栄です」
そう言った瞬間オードリーは目を丸くして「今そんな話してたか…?」と呟いたが、気にすることなく話を進める。
「どうやら僕はとてもいい人に出会えたようで嬉しい限りです。僕の方としては全く嘘は吐いていないので、いろいろと教えてもらわないといけなくて迷惑掛けることになると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
僕はまたペコリと頭を下げた。今回は肩を掴まれているので、首だけを下げる形になったが、オードリーもまた「いやいや、どうも」とまたペコッとしてくれた。
うーん、やっぱりカワイイなぁ。フワフワのモコモコで、そしてそして大事なのは大きいこと。
そーんなものに目がないんだよ、僕。思わず抱きしめてしまうほどに―――。
「はっ、はぁっ、はなれろーーーぉぉぉ」
もふもふを堪能したのだった。
「おい。チキュウがどうのっていうのは本気で言ったのか?」
僕はイエスの意味を込めて頷いてみせた。
「嘘言ってたらどうなっても知らねぇぞ」
「残念ながらすべて真実で、嘘偽りは全くないです。第一、嘘吐いたって僕には何のメリットもないですよ」
「そんなこと分からんだろう?」
「まぁ、そうかもしれませんね」
「そうかもしれません。ッじゃねぇ!! お前には状況ってものがわからないのか!?」
「わからない? 充分解かってますよ。解かりすぎるくらい解かってますよ」
「全然わかってねぇよ! お前がここにいるって事がどんだけ重大なことだと思ってるんだ」
「ああ、分かりませんね。何にもわかりません!」
僕はとても久し振りに声を荒げてしまった。
「もう全く分かりませんよ!“わからない”って事が今の僕の状況なんだ。だから僕はちゃんと分かってる……、わかってんだよ!」
そう言い放つと、むせた。
カッコわる。
久し振りの大声でのどを痛めたようでさらに咳き込んでしまった。
ますますカッコわる。
その姿があまりに哀れだったのかオードリーはフモフモの手で背中をさすってくれた。
「大丈夫か……」
「……はい」
ようやく返事ができるようになった頃にはいつもの落ち着きを取り戻す事ができた。自分で思っているよりも、実は不安なのかもしれない。それでも前に進むしかない。
「すみません、もう大丈夫です」
「そうか」
どういう訳か彼の表情が少し済まなさそうに見える。言い過ぎたとでも思ってるんだろうか。
「あの、勘違いだったらすみませんが、信じてもらえるなんて思ってなかったですから落ち込まないでください。仕方ないですよ、僕自身半信半疑だし、できれば夢だったらいいなって思ってるところで、突然出会ったペンギンさんに信じてもらえるなんてほとんど思ってないですから」
「ペンギンっていうな……」
「ああスミマセン。オードリーさん。そんな風にしょげないで下さい。そうだ、もういっそ無かったことにしてください」
オードリーの表情は虚を突かれたようなものに見えた。
「つまり、今ここで出会ったことは無かったことにしてください」
「それでどうするんだ?」
「もう少し自分で調べてみます。それから、助けてもらえそうな人を探して元の世界に帰ろうと思います」
そこで、僕は頭を下げて彼の前から立ち去ろうとした。
来てすぐに出会った人に助けてもらえれば正直とても助かる。でもそんなに甘くないのが本来の世間ってものだ。
言葉は通じるって事が分かっただけで良しとしようじゃないか。
次は取り敢えずもう少し人のいるところに出てみよう。もしかしたら人じゃないモノしかいないかもしれないけど……。
そう思いながらペンギンさんの横を通りすぎようとしたら、両肩を思いっきり掴まれクチバシが鼻につくほど顔を近づけられた。
「ぅわ!」
「アオイ」
ゆっくりとした重みのある声で名前を呼ばれた。
まさかあんな場面で言った名前を覚えているなんて驚いた。でも彼の目はとてもとても黒く透き通っていて、そして僕から少しも目を逸らさないでいる。だから息を吸うことも忘れてしまいそうになるくらい、僕もその目に魅入られてしまった。
「お前が嘘を言っているなら見逃すわけにはいかないんだ。ただ本当に困っているとするならば俺はお前の手助けをしてやろうと思う。だから俺はもう少しお前と話しをしなくてはならない。真実を見極めるには取り敢えず有効な手段だと思うからだ」
そう話している間もその瞳は微少にも動かず、それは僕の中にある何かを探り当てるかのように深く深いところを見つめられているようだった。
「それに、お前からは全く闘牙というモノを感じない。まあ、ここに入れてるんだからそういうものを消すくらい軽いモノなのかもしれないが、だったら尚更どこかに逃がすわけにはいかんしな。もし困っているならば、俺についてくるのは無駄じゃないと思うぜ」
そこで漸く顔を離してくれた。肩の方は変わらず掴まれままだけど、息が詰まる感じがなくなっただけでもいい。
「ぺ…オードリーさん」
動物を名前で呼ぶのはなれないな。ペットでも飼っておけばよかった。
「あの、名前覚えてくれてるなんて光栄です」
そう言った瞬間オードリーは目を丸くして「今そんな話してたか…?」と呟いたが、気にすることなく話を進める。
「どうやら僕はとてもいい人に出会えたようで嬉しい限りです。僕の方としては全く嘘は吐いていないので、いろいろと教えてもらわないといけなくて迷惑掛けることになると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
僕はまたペコリと頭を下げた。今回は肩を掴まれているので、首だけを下げる形になったが、オードリーもまた「いやいや、どうも」とまたペコッとしてくれた。
うーん、やっぱりカワイイなぁ。フワフワのモコモコで、そしてそして大事なのは大きいこと。
そーんなものに目がないんだよ、僕。思わず抱きしめてしまうほどに―――。
「はっ、はぁっ、はなれろーーーぉぉぉ」
もふもふを堪能したのだった。
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