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第一章
第二幕 アワサレ1
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「あっついな…」
そこは新緑の木々に覆われた、不思議の国どころかマイナスイオン満タンの清々しい場所。ただし気温も新緑に相応しく温暖。本来なら心地良いくらいだけど、真冬の装備をしている僕にとっては暑苦しい以外に言い様がない。
真冬の夕方が瞬き一回で小春日和の太陽がサンサンと輝く穏やかな午後に劇的な変化を遂げている。
「ついに成功しちゃったかぁー」
いつもなら心の声で留めておけるものも今や口からつい溢れる。つまりそれくらいには動揺してるって事だ。
ふと、自分の手足を確認する。
今回の実験の成功は変化することだったはずだから、もし成功しているならば僕はネコになってなくてはならない。
しかし僕の手も足も通常の人と同じく、肉球も付いてなければ毛むくじゃらでもなく全く人の形のまま。
もしや! と頭の上に手をやってみたが耳も元の位置のまま、ついでに腰のあたりも触ってみたがシッポも生えてなかった。
結論、儀式は失敗。
通常通り実験は失敗だ。
でも失敗はしたものの、僕は違うところへ飛ばされるといういわゆるテレポーテーションってヤツを体験してしまったわけだ。
時間帯から見て、日本ではないところへ来ていることは間違いない。でも時差がどれくらいあるかで国や地域が分かるほど僕は勉強できない。
ちなみに英語もろくにしゃべれない。
その上財布もケータイも持ってない。
すなわち第一村人を発見したところで帰れる見込みも薄いというわけか……。
「困ったなぁー、秋の次は春になれなんて思ったのがいけなかったかな…」
思わず屈み込んで、膝なんか抱えてみたりする。泣きたいような気分ではなく、ちょい面倒なことになったなとガックリ来ているという方が近い。でもさすがに困ったな。
とりあえず冷静に次にとるべき行動を考えよう。
膝を抱えたまま目を伏せて考えてみる。
「………」
じっと耳を澄ませると、風が涼やかに木々を揺らす音が聴こえてくる。
「………………………暑い!」
何はともあれ薄着になること!
マフラーをとってコートもセーターも脱いで、ロンT一枚になる。
「あぁーなんとか適温――」
サフッ。
「……?」
サフッ、サフッ。
さっきまで聞こえてなかった妙な音がする。
サフッ、サフッ、サフッ。
音はこっちに近づいて来ているようだ。
サフッ、サフッ、サフッ、サフッ、サフッ。
音が確かに近づいてきているのは分かるけど、何の音だか検討が付かない。
サフッ、サフッ、サフッ、サフッ、サフッ……。
かすかに地面が揺れ出す。ここの地面はあまり地盤が頑丈でないようだ。
「足音?」
振動の具合と、音のリズミカルさに何となくそう思えた。
「…熊だったりして」
音と共に近づいてくる威圧感でそいつがかなり大きなものだと予想できた。予想はできるが、熊の対処法なんか知ってるはずもない!
サフッ、サフッ、サフッ。
いや、前テレビで見たことがあるぞ。確か鈴を鳴らすと良いって……、いやいや鈴なんてないし。
サフッ、サフッ、サフッ、サフッ。
えぇーと、下手に立ち向かうと攻撃されるとか何とか、ジッとしとくのが正解なのか?
やっぱり死んだふりなのか!
サフ。
音が止んだ。
振動も止まる。
気配はある。
僕のいるところからじゃはっきりとした姿は確認できない。
なんとか黒い大きな影が少し先の木々の間にあることだけが分かるがそのシルエット的には立ち上がっている熊そのものだ。ただ…。
がおぉ~!! って感じじゃない。
こっちの様子は伺っているようだけど、動物的ではない。影の動きは人間の仕草のようで、気配も獣のとは違うどっか落ち着いたものを感じる。
僕は意を決して声を掛けてみることにした。
「あのぉ…えっと、エックスキューズ・ミー?」
サフッ、サフッ。
声に答えてくれたのか、木の間を抜けて影が目の前に現れてくれた。
よかった、やっぱり熊じゃなかったよ。
でも人間でもないんじゃん!!
「……ペンギン……さん?」
それは体長二メートルはあるだろうペンギンだった。皇帝ペンギンってヤツかな、首の回りに黄色の模様が入っている。ただ腰のあたりに黒と赤のチェック模様の布を捲いているから、野生のペンギンではないな。
「おい!」
げっ、しゃべった…。
「お前どうしてここにいる?」
しゃべり出したペンギンはかなり険しい表情…をしている様な? いやペンギンはいつもこんな顔なのか?
表情は読めないが、どうやら機嫌は悪そうだ。ジッと黙っているともっと怒られそうなので、取り敢えず話をしてみようか。少なくとも、ここがどこなのか分かるかもしれない。
「どうしてここにいる!」
さらに詰め寄られて、リアルなペンギンは顔が恐いってことがわかった。
「えぇーっと、どうしてかぁ…。気がついたらここにいたから、たまたま偶然という感じですね」
「偶然こんなところに転がってるのか?」
「転がってるって…はい、まぁそうですけど――」
大柄なペンギンさんは流暢な日本語を話し僕に詰め寄ってくる。
「バカ言え! ここに入れるのは限られたヤツだけなんだ。偶然なんかで入れる場所じゃねぇ!」
「つまり、ペンギンじゃない僕はここに居ちゃいけないわけですか?」
「お、お前・・!!」
お! なんだ? 怒らせちゃったかな?
ペンギンさんから、さっきよりまして怒りのオーラを感じる。
「バッカ野郎!! ペンギン、ペンギンうるさい! 俺にはちゃんと名前があるんだッッ」
怒りのポイントはそこですか…。
「あぁ、申し遅れました、僕は佐野碧と申します。」
僕はペコリと頭を下げた。
「あっ、おっ俺はオードリーという」
ペンギンさんはそう言って僕と同じようにペコリと頭を下げてみせた。
その仕草。2メートルあろうとも動物園でみた彼らと愛らしさは変わりない。そして手というべきか羽根というべきか、それで頭をぽりぽりと掻いている。
「あのなぁ、なんか知らんけどあんまり長くここには居ない方がいいぞ」
あいさつしたのが良かったのか、さっきみたいに怒鳴ったりせず話してくれる気になったようだ。
「どうして?」
「お前本当に何も知らずにここにいるのか?」
「はい、全く何も知りません」
そういうとオードリーは腕を組んで何か考え出した。その姿もまた可愛い。
首なんか傾げちゃってるから、もうなんて言うか…カワイイ。
そんな姿を見せられると、僕の中である欲望がむくむくと湧いてくる。
「あのぉ、ひとつ聞いてもいいですか?」
何だ? と顔を上げてくれた。
「あの、オードリーさんは男ですよね?」
「は? どこをどうみても男だろお!」
いやリアルペンギンさんの性別なんて区別できないですから。いくらペンギンでも女の人だったらさすがにできないし。
「じゃあちょっと――」
むぎゅっ。
ペンギンさんの体はフワフワのモコモコ。
とても素敵な毛並みの持ち主だ。
「なっっ何やってんだ!? 抱きついてくるなぁ!!」
ますますカワイイことに手をバタバタさせて慌てているようだ。
そんなだから触りたくなっちゃうんだよねぇ。
「はーなーれーろ~!!」
ジタバタしてたけど、素晴らしい感触に暫くそのまま楽しんでいた。
「そっ、そん、そんな事やってる場合じゃねーだろ!! お前、本当はどうやってここに来たんだ?!」
十分にフワモコを堪能してから、さすがに離れながら問いに答えた。
「それは僕が知りたいですね。本当にどうしてここに来ちゃったのかなぁ。あ、ついでにここがどんな場所で、さらに思い切って聞くと地球という星かって事から教えて欲しいところですね」
地球にだって未確認ってだけで二メートルのペンギンはいるかもしれないが、日本語を話せるヤツがいるなんてニュースでも聞いたことがない。犬が「ゴワンッ!!」って吠えただけでもテレビに出るんだから、こんなに達者なしゃべりなら日本国民全員がテンション上げ上げで、大注目間違いなしだろう。
でも、今のところそんな報道がされている記憶はない。
すると考えられる事は、別の惑星に来ちゃったか、2メートルのしゃべるペンギンが腰に布を捲いて歩き回っていても不思議じゃない未来の世界に来ちゃってるくらい……ってあるかそんなこと。
もう少しリアリティのある考えを……。
思考を進めないと元の世界には帰れない。どんなに信じられない状況でも、現実だから逃避するわけにはいなかい。
どんなに逃げたって何も変えられない。
それはこれまでの佐野碧としての人生上よく理解している事だ。
「おい!」
彼がいる事をすっかり忘れるところだった。
そこは新緑の木々に覆われた、不思議の国どころかマイナスイオン満タンの清々しい場所。ただし気温も新緑に相応しく温暖。本来なら心地良いくらいだけど、真冬の装備をしている僕にとっては暑苦しい以外に言い様がない。
真冬の夕方が瞬き一回で小春日和の太陽がサンサンと輝く穏やかな午後に劇的な変化を遂げている。
「ついに成功しちゃったかぁー」
いつもなら心の声で留めておけるものも今や口からつい溢れる。つまりそれくらいには動揺してるって事だ。
ふと、自分の手足を確認する。
今回の実験の成功は変化することだったはずだから、もし成功しているならば僕はネコになってなくてはならない。
しかし僕の手も足も通常の人と同じく、肉球も付いてなければ毛むくじゃらでもなく全く人の形のまま。
もしや! と頭の上に手をやってみたが耳も元の位置のまま、ついでに腰のあたりも触ってみたがシッポも生えてなかった。
結論、儀式は失敗。
通常通り実験は失敗だ。
でも失敗はしたものの、僕は違うところへ飛ばされるといういわゆるテレポーテーションってヤツを体験してしまったわけだ。
時間帯から見て、日本ではないところへ来ていることは間違いない。でも時差がどれくらいあるかで国や地域が分かるほど僕は勉強できない。
ちなみに英語もろくにしゃべれない。
その上財布もケータイも持ってない。
すなわち第一村人を発見したところで帰れる見込みも薄いというわけか……。
「困ったなぁー、秋の次は春になれなんて思ったのがいけなかったかな…」
思わず屈み込んで、膝なんか抱えてみたりする。泣きたいような気分ではなく、ちょい面倒なことになったなとガックリ来ているという方が近い。でもさすがに困ったな。
とりあえず冷静に次にとるべき行動を考えよう。
膝を抱えたまま目を伏せて考えてみる。
「………」
じっと耳を澄ませると、風が涼やかに木々を揺らす音が聴こえてくる。
「………………………暑い!」
何はともあれ薄着になること!
マフラーをとってコートもセーターも脱いで、ロンT一枚になる。
「あぁーなんとか適温――」
サフッ。
「……?」
サフッ、サフッ。
さっきまで聞こえてなかった妙な音がする。
サフッ、サフッ、サフッ。
音はこっちに近づいて来ているようだ。
サフッ、サフッ、サフッ、サフッ、サフッ。
音が確かに近づいてきているのは分かるけど、何の音だか検討が付かない。
サフッ、サフッ、サフッ、サフッ、サフッ……。
かすかに地面が揺れ出す。ここの地面はあまり地盤が頑丈でないようだ。
「足音?」
振動の具合と、音のリズミカルさに何となくそう思えた。
「…熊だったりして」
音と共に近づいてくる威圧感でそいつがかなり大きなものだと予想できた。予想はできるが、熊の対処法なんか知ってるはずもない!
サフッ、サフッ、サフッ。
いや、前テレビで見たことがあるぞ。確か鈴を鳴らすと良いって……、いやいや鈴なんてないし。
サフッ、サフッ、サフッ、サフッ。
えぇーと、下手に立ち向かうと攻撃されるとか何とか、ジッとしとくのが正解なのか?
やっぱり死んだふりなのか!
サフ。
音が止んだ。
振動も止まる。
気配はある。
僕のいるところからじゃはっきりとした姿は確認できない。
なんとか黒い大きな影が少し先の木々の間にあることだけが分かるがそのシルエット的には立ち上がっている熊そのものだ。ただ…。
がおぉ~!! って感じじゃない。
こっちの様子は伺っているようだけど、動物的ではない。影の動きは人間の仕草のようで、気配も獣のとは違うどっか落ち着いたものを感じる。
僕は意を決して声を掛けてみることにした。
「あのぉ…えっと、エックスキューズ・ミー?」
サフッ、サフッ。
声に答えてくれたのか、木の間を抜けて影が目の前に現れてくれた。
よかった、やっぱり熊じゃなかったよ。
でも人間でもないんじゃん!!
「……ペンギン……さん?」
それは体長二メートルはあるだろうペンギンだった。皇帝ペンギンってヤツかな、首の回りに黄色の模様が入っている。ただ腰のあたりに黒と赤のチェック模様の布を捲いているから、野生のペンギンではないな。
「おい!」
げっ、しゃべった…。
「お前どうしてここにいる?」
しゃべり出したペンギンはかなり険しい表情…をしている様な? いやペンギンはいつもこんな顔なのか?
表情は読めないが、どうやら機嫌は悪そうだ。ジッと黙っているともっと怒られそうなので、取り敢えず話をしてみようか。少なくとも、ここがどこなのか分かるかもしれない。
「どうしてここにいる!」
さらに詰め寄られて、リアルなペンギンは顔が恐いってことがわかった。
「えぇーっと、どうしてかぁ…。気がついたらここにいたから、たまたま偶然という感じですね」
「偶然こんなところに転がってるのか?」
「転がってるって…はい、まぁそうですけど――」
大柄なペンギンさんは流暢な日本語を話し僕に詰め寄ってくる。
「バカ言え! ここに入れるのは限られたヤツだけなんだ。偶然なんかで入れる場所じゃねぇ!」
「つまり、ペンギンじゃない僕はここに居ちゃいけないわけですか?」
「お、お前・・!!」
お! なんだ? 怒らせちゃったかな?
ペンギンさんから、さっきよりまして怒りのオーラを感じる。
「バッカ野郎!! ペンギン、ペンギンうるさい! 俺にはちゃんと名前があるんだッッ」
怒りのポイントはそこですか…。
「あぁ、申し遅れました、僕は佐野碧と申します。」
僕はペコリと頭を下げた。
「あっ、おっ俺はオードリーという」
ペンギンさんはそう言って僕と同じようにペコリと頭を下げてみせた。
その仕草。2メートルあろうとも動物園でみた彼らと愛らしさは変わりない。そして手というべきか羽根というべきか、それで頭をぽりぽりと掻いている。
「あのなぁ、なんか知らんけどあんまり長くここには居ない方がいいぞ」
あいさつしたのが良かったのか、さっきみたいに怒鳴ったりせず話してくれる気になったようだ。
「どうして?」
「お前本当に何も知らずにここにいるのか?」
「はい、全く何も知りません」
そういうとオードリーは腕を組んで何か考え出した。その姿もまた可愛い。
首なんか傾げちゃってるから、もうなんて言うか…カワイイ。
そんな姿を見せられると、僕の中である欲望がむくむくと湧いてくる。
「あのぉ、ひとつ聞いてもいいですか?」
何だ? と顔を上げてくれた。
「あの、オードリーさんは男ですよね?」
「は? どこをどうみても男だろお!」
いやリアルペンギンさんの性別なんて区別できないですから。いくらペンギンでも女の人だったらさすがにできないし。
「じゃあちょっと――」
むぎゅっ。
ペンギンさんの体はフワフワのモコモコ。
とても素敵な毛並みの持ち主だ。
「なっっ何やってんだ!? 抱きついてくるなぁ!!」
ますますカワイイことに手をバタバタさせて慌てているようだ。
そんなだから触りたくなっちゃうんだよねぇ。
「はーなーれーろ~!!」
ジタバタしてたけど、素晴らしい感触に暫くそのまま楽しんでいた。
「そっ、そん、そんな事やってる場合じゃねーだろ!! お前、本当はどうやってここに来たんだ?!」
十分にフワモコを堪能してから、さすがに離れながら問いに答えた。
「それは僕が知りたいですね。本当にどうしてここに来ちゃったのかなぁ。あ、ついでにここがどんな場所で、さらに思い切って聞くと地球という星かって事から教えて欲しいところですね」
地球にだって未確認ってだけで二メートルのペンギンはいるかもしれないが、日本語を話せるヤツがいるなんてニュースでも聞いたことがない。犬が「ゴワンッ!!」って吠えただけでもテレビに出るんだから、こんなに達者なしゃべりなら日本国民全員がテンション上げ上げで、大注目間違いなしだろう。
でも、今のところそんな報道がされている記憶はない。
すると考えられる事は、別の惑星に来ちゃったか、2メートルのしゃべるペンギンが腰に布を捲いて歩き回っていても不思議じゃない未来の世界に来ちゃってるくらい……ってあるかそんなこと。
もう少しリアリティのある考えを……。
思考を進めないと元の世界には帰れない。どんなに信じられない状況でも、現実だから逃避するわけにはいなかい。
どんなに逃げたって何も変えられない。
それはこれまでの佐野碧としての人生上よく理解している事だ。
「おい!」
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