CASTエソラ〜異世界で出会ったのは大きなペンギンでした〜

nano ひにゃ

文字の大きさ
上 下
4 / 26
第一章

第二幕 アワサレ1

しおりを挟む
「あっついな…」

 そこは新緑の木々に覆われた、不思議の国どころかマイナスイオン満タンの清々しい場所。ただし気温も新緑に相応しく温暖。本来なら心地良いくらいだけど、真冬の装備をしている僕にとっては暑苦しい以外に言い様がない。

 真冬の夕方が瞬き一回で小春日和の太陽がサンサンと輝く穏やかな午後に劇的な変化を遂げている。

「ついに成功しちゃったかぁー」

 いつもなら心の声で留めておけるものも今や口からつい溢れる。つまりそれくらいには動揺してるって事だ。

 ふと、自分の手足を確認する。
 今回の実験の成功は変化することだったはずだから、もし成功しているならば僕はネコになってなくてはならない。
しかし僕の手も足も通常の人と同じく、肉球も付いてなければ毛むくじゃらでもなく全く人の形のまま。

 もしや! と頭の上に手をやってみたが耳も元の位置のまま、ついでに腰のあたりも触ってみたがシッポも生えてなかった。

 結論、儀式は失敗。 

 通常通り実験は失敗だ。
 でも失敗はしたものの、僕は違うところへ飛ばされるといういわゆるテレポーテーションってヤツを体験してしまったわけだ。

 時間帯から見て、日本ではないところへ来ていることは間違いない。でも時差がどれくらいあるかで国や地域が分かるほど僕は勉強できない。

 ちなみに英語もろくにしゃべれない。
 その上財布もケータイも持ってない。

 すなわち第一村人を発見したところで帰れる見込みも薄いというわけか……。

「困ったなぁー、秋の次は春になれなんて思ったのがいけなかったかな…」

 思わず屈み込んで、膝なんか抱えてみたりする。泣きたいような気分ではなく、ちょい面倒なことになったなとガックリ来ているという方が近い。でもさすがに困ったな。
とりあえず冷静に次にとるべき行動を考えよう。

 膝を抱えたまま目を伏せて考えてみる。

「………」

 じっと耳を澄ませると、風が涼やかに木々を揺らす音が聴こえてくる。

「………………………暑い!」

 何はともあれ薄着になること!
 マフラーをとってコートもセーターも脱いで、ロンT一枚になる。

「あぁーなんとか適温――」

 サフッ。

「……?」

 サフッ、サフッ。

 さっきまで聞こえてなかった妙な音がする。

 サフッ、サフッ、サフッ。

 音はこっちに近づいて来ているようだ。

 サフッ、サフッ、サフッ、サフッ、サフッ。

 音が確かに近づいてきているのは分かるけど、何の音だか検討が付かない。

 サフッ、サフッ、サフッ、サフッ、サフッ……。

 かすかに地面が揺れ出す。ここの地面はあまり地盤が頑丈でないようだ。

「足音?」

 振動の具合と、音のリズミカルさに何となくそう思えた。

「…熊だったりして」

 音と共に近づいてくる威圧感でそいつがかなり大きなものだと予想できた。予想はできるが、熊の対処法なんか知ってるはずもない!
 
 サフッ、サフッ、サフッ。

 いや、前テレビで見たことがあるぞ。確か鈴を鳴らすと良いって……、いやいや鈴なんてないし。

 サフッ、サフッ、サフッ、サフッ。

 えぇーと、下手に立ち向かうと攻撃されるとか何とか、ジッとしとくのが正解なのか?
 やっぱり死んだふりなのか!

 サフ。

 音が止んだ。
 振動も止まる。
 気配はある。

 僕のいるところからじゃはっきりとした姿は確認できない。
 なんとか黒い大きな影が少し先の木々の間にあることだけが分かるがそのシルエット的には立ち上がっている熊そのものだ。ただ…。

 がおぉ~!! って感じじゃない。
 こっちの様子は伺っているようだけど、動物的ではない。影の動きは人間の仕草のようで、気配も獣のとは違うどっか落ち着いたものを感じる。

 僕は意を決して声を掛けてみることにした。

「あのぉ…えっと、エックスキューズ・ミー?」

 サフッ、サフッ。

 声に答えてくれたのか、木の間を抜けて影が目の前に現れてくれた。
 よかった、やっぱり熊じゃなかったよ。

 でも人間でもないんじゃん!!
 
「……ペンギン……さん?」

 それは体長二メートルはあるだろうペンギンだった。皇帝ペンギンってヤツかな、首の回りに黄色の模様が入っている。ただ腰のあたりに黒と赤のチェック模様の布を捲いているから、野生のペンギンではないな。

「おい!」

 げっ、しゃべった…。

「お前どうしてここにいる?」

 しゃべり出したペンギンはかなり険しい表情…をしている様な? いやペンギンはいつもこんな顔なのか?
 表情は読めないが、どうやら機嫌は悪そうだ。ジッと黙っているともっと怒られそうなので、取り敢えず話をしてみようか。少なくとも、ここがどこなのか分かるかもしれない。

「どうしてここにいる!」

 さらに詰め寄られて、リアルなペンギンは顔が恐いってことがわかった。

「えぇーっと、どうしてかぁ…。気がついたらここにいたから、たまたま偶然という感じですね」
「偶然こんなところに転がってるのか?」
「転がってるって…はい、まぁそうですけど――」

 大柄なペンギンさんは流暢な日本語を話し僕に詰め寄ってくる。

「バカ言え! ここに入れるのは限られたヤツだけなんだ。偶然なんかで入れる場所じゃねぇ!」
「つまり、ペンギンじゃない僕はここに居ちゃいけないわけですか?」
「お、お前・・!!」

 お! なんだ? 怒らせちゃったかな?
 ペンギンさんから、さっきよりまして怒りのオーラを感じる。

「バッカ野郎!! ペンギン、ペンギンうるさい! 俺にはちゃんと名前があるんだッッ」

 怒りのポイントはそこですか…。

「あぁ、申し遅れました、僕は佐野碧と申します。」
 
 僕はペコリと頭を下げた。

「あっ、おっ俺はオードリーという」

 ペンギンさんはそう言って僕と同じようにペコリと頭を下げてみせた。
 その仕草。2メートルあろうとも動物園でみた彼らと愛らしさは変わりない。そして手というべきか羽根というべきか、それで頭をぽりぽりと掻いている。

「あのなぁ、なんか知らんけどあんまり長くここには居ない方がいいぞ」

 あいさつしたのが良かったのか、さっきみたいに怒鳴ったりせず話してくれる気になったようだ。

「どうして?」
「お前本当に何も知らずにここにいるのか?」
「はい、全く何も知りません」

 そういうとオードリーは腕を組んで何か考え出した。その姿もまた可愛い。
 首なんか傾げちゃってるから、もうなんて言うか…カワイイ。
 そんな姿を見せられると、僕の中である欲望がむくむくと湧いてくる。

「あのぉ、ひとつ聞いてもいいですか?」

 何だ? と顔を上げてくれた。

「あの、オードリーさんは男ですよね?」
「は? どこをどうみても男だろお!」

 いやリアルペンギンさんの性別なんて区別できないですから。いくらペンギンでも女の人だったらさすがにできないし。

「じゃあちょっと――」

 むぎゅっ。

 ペンギンさんの体はフワフワのモコモコ。
 とても素敵な毛並みの持ち主だ。

「なっっ何やってんだ!? 抱きついてくるなぁ!!」

 ますますカワイイことに手をバタバタさせて慌てているようだ。
 そんなだから触りたくなっちゃうんだよねぇ。

「はーなーれーろ~!!」

 ジタバタしてたけど、素晴らしい感触に暫くそのまま楽しんでいた。

「そっ、そん、そんな事やってる場合じゃねーだろ!! お前、本当はどうやってここに来たんだ?!」

 十分にフワモコを堪能してから、さすがに離れながら問いに答えた。

「それは僕が知りたいですね。本当にどうしてここに来ちゃったのかなぁ。あ、ついでにここがどんな場所で、さらに思い切って聞くと地球という星かって事から教えて欲しいところですね」

 地球にだって未確認ってだけで二メートルのペンギンはいるかもしれないが、日本語を話せるヤツがいるなんてニュースでも聞いたことがない。犬が「ゴワンッ!!」って吠えただけでもテレビに出るんだから、こんなに達者なしゃべりなら日本国民全員がテンション上げ上げで、大注目間違いなしだろう。

 でも、今のところそんな報道がされている記憶はない。
 すると考えられる事は、別の惑星に来ちゃったか、2メートルのしゃべるペンギンが腰に布を捲いて歩き回っていても不思議じゃない未来の世界に来ちゃってるくらい……ってあるかそんなこと。

 もう少しリアリティのある考えを……。
 思考を進めないと元の世界には帰れない。どんなに信じられない状況でも、現実だから逃避するわけにはいなかい。
どんなに逃げたって何も変えられない。
それはこれまでの佐野碧としての人生上よく理解している事だ。

「おい!」

彼がいる事をすっかり忘れるところだった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...