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未だ拭えない疑問を抱えながら、手伝いというのも烏滸がましいほどではあるが、政常さんに倣って動き始めた。

料理の苦手な私なので味見くらいしかできないし、オシャレな盛りつけを真似もできないのでそれも任せるしかなくて、カトラリーを並べるのもイベント事の時は特に箸だけとかフォークだけじゃなくて、レストランのようにするからそれも手出しすると二度手間にさせてしまう。

じゃあ何をするのか。

カウンターに座って眺めている。
頼まれればダイニングテーブルに色々運んだりもするけど、基本的にはただ眺めているだけだ。

たまに差し出されるスプーンや余った食材の切れ端なんかに口を開けたりして餌付けされたり、話し相手になったり、取り敢えず近くにいる。

洗い物ぐらいしたらと思うが、手際がいい人には邪魔な場合もあるのだ。手伝って欲しい時は政常さんがちゃんと言ってくれるので、この場合は指示待ちが正しい。

普段は政常さんの料理中自分のことをしたり、別の家事をすることもあるが、どうやら役立たずで座っているだけでも政常さんは嬉しそうだから、特別な時や時間に余裕がある時はそうすることにしている。

迷いなく作業する様は意外と飽きずに見ていられた。

しっかりがっつり、これぞ記念日というほどの料理と雰囲気作りがされたいつもの部屋で、乾杯をして食事をした。
間接照明が点けられただけの部屋の中でも淡いなりに十分明るい。
カトラリーがコース料金の様にセットされたダイニングテーブルにはいつも以上に豪華な花が飾られて、料理は人の結婚式でしか見たことのない盛り付けで、スープ、サラダ、前菜と魚料理に肉料理は大皿にちょこんと乗ったお洒落さ満載でテーブルに並べられ、いちいち給仕すると落ち着かないからと必要ない謝罪を受けて、ただただ恐縮するばかりだった。バケットと私が好きだからと少量のパスタも用意してあって、最後は買ってきた小さなホールケーキにろうそくを立てて2人で吹き消して、少しだけ切り分けて、残りはまた明日と仕舞ってくれた。

一体私をどうしたいのだろうか、これをわざわざ家で用意する手間は何のためなのだろうか。

「光莉にリラックスした状態で食事してもらいたいからだよ」
「また私の思考を読みましたね」
 
ケーキにフォークを刺す私が困った顔をしても、政常さんは考えを読んだことは無視することにしたようで、にこにこと笑っている。

「緊張して味が分からないと光莉が反省したりするからね」
「慣れるほど通うわけにはいかないですから」
「通いたいなら行けるけど、たまにだから楽しめるわけで、光莉は毎日こんな料理好きじゃないでしょ」

食べ終え下げられたディナーのお皿たちで、テーブルにはケーキとドリンクくらいしかないが、こんなと言われてしまっては可哀そうすぎる。けれども否定はできない。

「根っからの庶民なのですよ」
「ごはんと味噌汁が一番好きなんだもんな」

さっさとケーキを食べ終えた政常さんは長い脚をテーブルの下で組んで、片肘を付いて頬杖をついたまま色気の溢れた微笑みで私を見つめてくる。

「好きですよ、ダメですか?」
「ううん、そういうところも好きだよ」

あっさり言ってくれる。
けれども結婚した初日からそれを受け流すのも違う気がして、恥ずかしながら想いは伝えることにする。

「……私も好きですよ、そういうところ」
「両想いになれて本当に僥倖だよ」
「そんな奇跡みたいに言わないで下さいよ」

僥倖なんて日常で使う人は身近にいないから馴染みがなさ過ぎるけど、確か偶然手に入った幸福とかそんな意味だった気がする。
笑う私に、政常さんは慈しみ溢れるような表情をしている。

「光莉に出会えたことだけでも奇跡なのに、結婚まで出来たんだよ。この幸せは努力以上のものがないと説明できない」

大げさすぎる発言に戸惑わずにはいられない。

「政常さんはどんな業を背負ってるって言うんですか、簡単だとは言いませんけど、よくある幸せですよ」
「光莉がそう言ってくれて嬉しいよ、きっと俺がこの体でなくても光莉は俺と結婚してくれたと思うよ」
「凄い仮定の話ですね、正直政常さんの容姿は完全に私の好みですからね。というか大勢の人にとってそうですから、私が例に漏れなかっただけです」

タラレバの話をするなら私が絶世の美女だったなら、それでも政常さんは結婚するだろうか。
いや、ないな。余計ズボラさが際立って、残念感が増すだけだ。
逆に容姿だけでも落とせる今の政常さんが、そうでなくなっても優しくて仕事ができて等々、きっと人を惹き付けるだろう。
美的な黄金比なんかでは測れない魅力が滲み出ること間違いなしだ。私でなくともみんな惚れる。

「光莉に気に入られる部分が一つでも多くて良かった」
「多すぎますけども」

本当に。

「さて、俺は片付けしとくからゆっくりお風呂入っておいで」
「本当に甘やかしますね」
「甘やかすなら一緒に入りたいところだよ。何から何までやってあげるから」
「……お風呂入ってきます」

解禁されたからか、今までにないことを言うので戸惑うなという方が無理な話だ。
ただ嫌なわけでもない、返答には困るけど何かを求められているわけでも押し付けられてるわけでもないのだから、そういう一面もあるんだなと思うだけ。

片付けをさせないためのジョークだと思う反面、本当に一緒に入りそうな気もさせてくるので、今日は片付けを一手に引き受けてくれるそのご厚意に甘えてお任せし、お風呂に行く。

そして、それなりに念入りに手入れをしてからお風呂を出た。

一応、新品の勝負下着というのを着てみた。
別に派手でもなく、やらしさもないんだけど、店員さんいわく、盛れるらしい。
日常使いでもいけるデザインだなと思って買ったけど、ちゃんと今日が初出しだ。

とは言っても他の下着も見せたことはない。
寝室は一緒だけど、ほぼクローゼットと化している自室だが用意してくれてて、そこで下着だけ干しているから。
いつも着替えもそこでする。

だから政常さんが私の下着の種類を把握してることはないんだけど、折角だし、ちょっとくらいは演出しておこうかと思って。

寝室も間接照明だけ点けられていたけど、リビングと違って光量が抑えられていて薄暗い。いつも通りのパジャマ姿で、なんとなくベッドの上に正座で待っていたら入れ違いにお風呂に行った政常さんがパンツ姿で登場した。
初めて見る姿だ。

「おお」

初めての姿に思わず感嘆の声が出てしまった。
引き締まった身体は、美しい。
淡い照明で陰影が強調され肉体美をさらに浮き上がらせている。

「ごめん、驚かせて。俺の気がせってるんだろうね。どうせ脱ぐと思ったら、着なくていいかって」
「私も脱いでおいたほうが良かったでしょうか?」

政常さんは首を横に振りながら、ベッドに膝で乗り私の耳元に唇を寄せる。

「パジャマがいい。俺が脱がせたいから」

流石にドキドキせずにはいられないけど、受け入れるつもりしかないんだから動かず、でもつい目はぎゅっと瞑ってしまった。

「経験値の差は明らかなので、お手柔らかに」
「任せて」

そのまま耳を喰(は)まれる。

「っん」
「イイところは、俺が見つけるから、気持ち良かったら教えて」
「……ッ承知しました」

抱きしめられて、耳から首筋へと唇は移動する。
手が鎖骨を撫でパジャマのボタンを一つ外す。
唇も鎖骨へ移動し、舌だけでその形をなぞられる。
まだ快感というほどの刺激ではなくても、鼓動は少し上がった。

ボタンを一番下まで外され、そのままズボンのゴムに手がかかり察して少し腰を浮かすと足から抜かれる。
足元から戻る手が太ももを撫で、腰から脇腹へと上がり今度は袖が抜かれる。

「何だか、とってもスムーズですね」
「焦りの現れ」
「んんっ」

キスをされ、抱きしめられてそのままベッドに優しく倒される。

「ん……っぁ……っん……はぁ……」

キスはどんどんと深くなっていく。



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