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前編 Side yasu
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「お前にも俺にも選ぶ権利があるように、あの人にも選ぶ権利があるからじゃない?」
俺のその言葉を相手は理解できなかったようだ。
「何それ?」
大学のカフェテラスで突然絡んできた男は憎憎しい顔をして棘のある言い方でそう聞き返してきた。でもそれを気にする俺ではない。
「別に、そのままの意味」
説明してやる気もなかったから目も合わせずに言ったら、理解できないまま誤解したようだ。
「つまり、君がたらし込んでるってわけ? どうやって付け入ったのさ」
まったく俺のどこにそんなもんがあるってんだ。俺が知りてーよ。
「なんだろうねー」
「たいした顔もしてないくせに。そうかよっぽど具合がいいんだろう、それぐらいしかなさそうだもんな!」
「あ、ばれた? そうなんだよ、こう見えて俺超テクニシャン」
出来うる限りのイヤらしい顔で笑ってやった。
「最低、そのうち捨てられるね」
そう吐き捨てて男は去っていった。
しばらくの沈黙の後。
「今の本心?」
俺の横で一部始終を見ていた友達の公司が真顔で訊いてきた。
「そんな才能あったら、今までの俺は何だったんだよ、もてないことをアレほど嘆いていた俺を知ってるお前にまでそんな風に思われるなんて」
「いや、何か今の慣れてる感じがして」
「慣れもするさ、あいつと付き合ってるのばれてから、一体何人にあんなこと言われてきてると思ってるんだ」
「そんなにいるの?」
俺は力強く頷いた。
「呆れるくらいに」
「大変だね」
「こんなのとあいつが付き合ってるんだ、しょうがないさ」
大学に入ってからの一番の友の公司はまだ少し黙って何か考えているようだった。
「………でもなんかさ」
しばらくして少し悲しそうな顔で公司は呟いた。
「ん?」
「あんな風なのは良くない気がする」
公司はどこか傷ついている声で言った。
「長谷部さんは本当に夜須のことが好きなんだよ、それなのに…」
長谷部というのが俺が付き合っていた男の名前だ。長谷部の褒められない性格を知っていてもなお擁護するようなことをいうのも、それが公司の優しさからくるものだと分かって、つい笑ってしまった。
「なに笑ってるの! 僕は本気で――」
「分かってる、お前が本気だから俺も本気で答えるよ」
変わらず笑顔の俺に疑心の目を向けている公司が抗議の口を開く前に話すことにした。
「付き合いだした頃は、あんな完璧な彼氏を手に入れたんだからあーいうのも甘んじで受け入れるのも仕方ないって思ったよ、でもさやっぱり傷つくじゃん?」
突然語りだした俺に少しびっくりしたようだったが、公司は黙って頷いた。
「俺未だに自分に自信ないし、不安ないなんて言えないし。でも…………」
本人がいないと分かっていても口にするのはかなり恥ずかしいが、公司になら言ってもいいと思えた。
「俺、あいつの事だけは信じられるんだ。だからさ、前半の言葉は本気」
「え?」
「あいつにも選ぶ権利があって、それでも俺を選んでくれた。何がいいのか分かんないけど、あいつが俺がいいって言ってくれてるんだから、それ以上何を疑うんだって」
公司は驚いた顔している。
「だから言われっぱなしにしとくのは、あいつに失礼だって思うようになったわけ。でもだからって真正面から言い合ったって、火に油を注ぐようなもんだって分かってるから、ああやって悔しがらせるのが一番楽なんだよ」
「そうなんだ…」
「納得できた?」
「一応」
「でもさ、色気ゼロの俺じゃ効果薄いんだよな、公司がやると相手が赤い顔して股間押さえるくらいできるだろ」
みるみる顔が赤くなる公司がやっぱり面白かった。
「夜須、なに言ってるの! そんなのあるわけないじゃん」
そこへ現れたのは二人の男だった。
「僕の公司にそんなこと言うのやめてもらおうか」
公司の男ともう一人は俺の…。
「夜須、今夜はお仕置きだ」
「えっ、なんで?」
「他の男に色目使っただろ」
俺は固まってしまった。俺と付き合っている事を内外から不思議がられている男・長谷部のお仕置きなんて単語ではなく、どこからか俺たちの話を聞いていた事実が分かってしまったからだ。
「……アレもしかして……聞いてた?」
「あれとはなんだ?」
こいつ……分かってて聞いてやがる。その証拠にニヤッて感じで笑ってる。
恥ずかしい! いるって分かってたら公司に誤解させたままでも絶対に言わなかったのに。
俺は恥ずかしすぎて、もう長谷部の顔なんか見れなかった。
俺のその言葉を相手は理解できなかったようだ。
「何それ?」
大学のカフェテラスで突然絡んできた男は憎憎しい顔をして棘のある言い方でそう聞き返してきた。でもそれを気にする俺ではない。
「別に、そのままの意味」
説明してやる気もなかったから目も合わせずに言ったら、理解できないまま誤解したようだ。
「つまり、君がたらし込んでるってわけ? どうやって付け入ったのさ」
まったく俺のどこにそんなもんがあるってんだ。俺が知りてーよ。
「なんだろうねー」
「たいした顔もしてないくせに。そうかよっぽど具合がいいんだろう、それぐらいしかなさそうだもんな!」
「あ、ばれた? そうなんだよ、こう見えて俺超テクニシャン」
出来うる限りのイヤらしい顔で笑ってやった。
「最低、そのうち捨てられるね」
そう吐き捨てて男は去っていった。
しばらくの沈黙の後。
「今の本心?」
俺の横で一部始終を見ていた友達の公司が真顔で訊いてきた。
「そんな才能あったら、今までの俺は何だったんだよ、もてないことをアレほど嘆いていた俺を知ってるお前にまでそんな風に思われるなんて」
「いや、何か今の慣れてる感じがして」
「慣れもするさ、あいつと付き合ってるのばれてから、一体何人にあんなこと言われてきてると思ってるんだ」
「そんなにいるの?」
俺は力強く頷いた。
「呆れるくらいに」
「大変だね」
「こんなのとあいつが付き合ってるんだ、しょうがないさ」
大学に入ってからの一番の友の公司はまだ少し黙って何か考えているようだった。
「………でもなんかさ」
しばらくして少し悲しそうな顔で公司は呟いた。
「ん?」
「あんな風なのは良くない気がする」
公司はどこか傷ついている声で言った。
「長谷部さんは本当に夜須のことが好きなんだよ、それなのに…」
長谷部というのが俺が付き合っていた男の名前だ。長谷部の褒められない性格を知っていてもなお擁護するようなことをいうのも、それが公司の優しさからくるものだと分かって、つい笑ってしまった。
「なに笑ってるの! 僕は本気で――」
「分かってる、お前が本気だから俺も本気で答えるよ」
変わらず笑顔の俺に疑心の目を向けている公司が抗議の口を開く前に話すことにした。
「付き合いだした頃は、あんな完璧な彼氏を手に入れたんだからあーいうのも甘んじで受け入れるのも仕方ないって思ったよ、でもさやっぱり傷つくじゃん?」
突然語りだした俺に少しびっくりしたようだったが、公司は黙って頷いた。
「俺未だに自分に自信ないし、不安ないなんて言えないし。でも…………」
本人がいないと分かっていても口にするのはかなり恥ずかしいが、公司になら言ってもいいと思えた。
「俺、あいつの事だけは信じられるんだ。だからさ、前半の言葉は本気」
「え?」
「あいつにも選ぶ権利があって、それでも俺を選んでくれた。何がいいのか分かんないけど、あいつが俺がいいって言ってくれてるんだから、それ以上何を疑うんだって」
公司は驚いた顔している。
「だから言われっぱなしにしとくのは、あいつに失礼だって思うようになったわけ。でもだからって真正面から言い合ったって、火に油を注ぐようなもんだって分かってるから、ああやって悔しがらせるのが一番楽なんだよ」
「そうなんだ…」
「納得できた?」
「一応」
「でもさ、色気ゼロの俺じゃ効果薄いんだよな、公司がやると相手が赤い顔して股間押さえるくらいできるだろ」
みるみる顔が赤くなる公司がやっぱり面白かった。
「夜須、なに言ってるの! そんなのあるわけないじゃん」
そこへ現れたのは二人の男だった。
「僕の公司にそんなこと言うのやめてもらおうか」
公司の男ともう一人は俺の…。
「夜須、今夜はお仕置きだ」
「えっ、なんで?」
「他の男に色目使っただろ」
俺は固まってしまった。俺と付き合っている事を内外から不思議がられている男・長谷部のお仕置きなんて単語ではなく、どこからか俺たちの話を聞いていた事実が分かってしまったからだ。
「……アレもしかして……聞いてた?」
「あれとはなんだ?」
こいつ……分かってて聞いてやがる。その証拠にニヤッて感じで笑ってる。
恥ずかしい! いるって分かってたら公司に誤解させたままでも絶対に言わなかったのに。
俺は恥ずかしすぎて、もう長谷部の顔なんか見れなかった。
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