げに美しきその心

コロンパン

文字の大きさ
上 下
104 / 105
8章

ある意味無敵?

しおりを挟む
「お~い!!」

一仕事を終え、ご満悦のトムが店内へ引っ込もうとした背後から、自分を呼ぶ馴染みの声に振り返る。

「おお、テッド。どうしたい?そんな血相抱えて。」

両膝に手を当て、息を整えるテッドに呑気な声でトムは声を掛ける。

「ど、どうしたも、こうしたもお前無事だったのか!?」

トムは全く見当もつかず首を傾げる。

「無事?何が?」

「シルヴィア様が来ただろう!!」

シルヴィアと聞いてトムは興奮気味で答える。

「おお~!!そうだ、そうだ!シルヴィア様な!来たぞ!
いやあ、間近で見たらすげぇ別嬪さんだったよ!
俺ぁ、あんな美しい女の人は会った事無い位、綺麗だったなぁ~。」

トムは目を瞑り、腕を組みながら先程の出来事を反芻しながら頷く。
テッドはそうじゃないと、肩を落とし、溜息混じりに言う。

「いや、綺麗なのはそうなんだが・・・・。」

「あん?何だよ?」

全く要領を得ないテッドに眉を顰める。

「もう一人!居ただろう!!シルヴィア様と一緒に!!」

テッドにそう言われて、あっけらかんと答える。

「おお、レイフォード様だろ?居たな。それがどうした?」

テッドは信じられないという顔でトムを見る。

「ま、まさか俺だけなのか・・・?」

ブツブツと呟くテッドを訝し気にトムは見る。

「おい、どうしたよ。レイフォード様が一体なんだって?」

「お前、レイフォード様に睨まれなかったのか?」

恐る恐る尋ねるテッドにトムは首を傾げる。

「睨まれる?何で?俺、レイフォード様に何にも粗相はしてないぜ?」

「いや、本人にじゃなくて、シルヴィア様にだよ。」

更に眉間に皺が寄るトム。

「シルヴィア様にこそ粗相なんかするもんか!!
俺にしては心底丁寧に対応したっての!!」

心外とばかりに声を荒げるトムに引き気味になるテッドは、落ち着かせようと宥める。

「違うって。シルヴィア様と話していたら、レイフォード様が睨んでこなかったかと聞いてるんだよ。
お前も知ってるだろ、あの噂。」

テッドに言われて考え込む。
そして、思い出す。

「おお~。あれか!
レイフォード様がシルヴィア様にベタ惚れしとるっちゅう・・・。」

「それだよ。」

「夫婦仲良く居て良い事じゃないか、なぁ。
当初はどうなる事かと思ったが、ああして二人で歩いているのを見ると、安心するな。」

「そうじゃなくて・・・。」

テッドは脱力する。
呑気にも程があるトム。
普段ならば兎も角、自分が言わんとしたい事がこうも伝わらないとは歯痒さしかない。
テッドの背中を何回も強く叩くトム。

「何、しけた面してんだ!!
レイフォード様な、険しい顔してたから、てっきり腹でも壊したのかと思ってたんだよ。
そうか、ありゃあ、俺を睨んでたのか。
レイフォード様、俺に敵意を向けるとは思わなかったな~。」

カラカラと大声を上げて笑うトムに愕然とするテッド。

「いやぁ~、レイフォード様がそんな嫉妬深いとはなぁ~。
人間は変わるもんだ。」

「お前・・・、凄いな・・・。」

確実に殺されそうな勢いの眼光を流せるトムに只々感心するしか無いとテッドは思った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

契約婚しますか?

翔王(とわ)
恋愛
クリスタ侯爵家の長女ミリアーヌの幼なじみで婚約者でもある彼、サイファ伯爵家の次男エドランには愛してる人がいるらしく彼女と結ばれて暮らしたいらしい。 ならば婿に来るか子爵だけど貰うか考えて頂こうじゃないか。 どちらを選んでも援助等はしませんけどね。 こっちも好きにさせて頂きます。 初投稿ですので読みにくいかもしれませんが、お手柔らかにお願いします(>人<;)

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...