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5章
愚行
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見覚えのある名前、
もう思い出したくもない名前。
「デボラ・・・。」
何故今更、母が。
そしてシルヴィアを攫う理由があるのか。
軽蔑の眼差しで書置きを眺めるダイオンがジュードに伝える。
「ジュード、済まない。
シルヴィアは俺達のせいで攫われたようだ。」
「ほう・・・。」
ジュードは腕組みをし、話の続きを促す。
「前に俺が、薬を盛られた事があっただろう?」
「ああ、あったな。お前にしつこく言い寄って来た女を何故か俺が追い払った時だな。」
「そう、その女からだよ、今回の書置きの差出人は。」
レイフォードが苦虫を嚙み潰したような顔でジュードに言う。
「・・・私の母親でもある女です。」
ジュードは目を閉じ暫く黙り込む。
レイフォードは俯く。
―あの女、デボラという女。
自分で俺を捨てて置いて、俺が侯爵家の息子に迎えられたのを聞きつけて、
直ぐに金の無心をしてきた。
今更何を、と突っぱねると、自分は母親だ。
母親を息子が助けないとは、親不孝者と喚き散らし、
暫く屋敷で待ち伏せをしていた。
勿論門前払いで、無理だと諦めたのかピタリと来なくなった。
まさか、今、シルヴィアを攫うなんて。
身代金だと?
何処まで愚かな女なのか。
誰の娘を攫ったか分かっているのか?
この書置きの場所に行けば、彼女か居る。
ジュードは瞳を開ける。
幾分か瞳の赤が薄まっている。
重々しく口を開く。
「大体の話は理解したが、
俺にとってみれば、シルヴィアに危害を加える人間は、全て殲滅対象に過ぎない。」
レイフォードは僅かに肩を震わせる。
その様子をジュードは見逃さず、レイフォードを見据えて更に続ける。
「例え、それがお前の母親であっても、シルヴィアに何かあったとしたなら、
容赦はしない。
・・・それでも、お前は付いて来るのか?」
レイフォードは、一度ジュードから目線を外し
俯き深く息を吐き、
もう一度、ジュードをしっかりと見つめる。
「はい、私の母上は、
リズベル様、ただ一人です。
そのデボラという女は、
私には何の関係もありません。
てすので、伯のお好きな様になさって頂いて結構です。」
はっきりと言い切るレイフォードを、
ダイオンは慈しむ目で見る。
「お前、それをリズベルの前で言えば、
泣いて喜ぶぞ。」
「言いませんよ。」
レイフォードは不敵に笑う。
その様子を見てジュードは高らかに笑う。
「はっはははは!
よく言った!
シルヴィアへの仕打ちは、許しはしないが、
気概は気に入った。
・・・・・行くぞ。」
「・・・はい。」
二人は今度こそ外へ出る。
速足で歩みながら、ジュードは言う。
「敵の殲滅は俺が引き受ける。
お前はシルヴィアを助け出せ。」
「分かりました。」
用意された馬に跨り、走らせる。
ジュードに付いて行くのに精一杯のレイフォード。
だが、遅れる訳にはいかない。
(シルヴィア、必ず助け出す。まだ、俺は何もお前に伝えていない!!)
「旦那様の・・・お母様・・・。」
シルヴィアはそう言うのがやっとだった。
何故レイフォードの母親が自分を攫うのだろうか。
面識のない自分を。
にやにやしながら笑うレイフォードの母親。
「そうよぉ。デボラって言うの。」
「私は・・・・・シルヴィアです。」
「シルヴィアちゃんね、んふふ。
要件が済んだら、直ぐに解放してあげるから、大人しくしていてねえ。」
シルヴィアの横に座る。
鼻歌を歌いながら、爪を磨き始めるデボラ。
シルヴィアは声を掛ける。
「あの、」
シルヴィアを見ようともせずに答えるデボラ。
「んー、なあにぃ?」
「何故、このような事を・・。」
「えー?何故って?」
爪をじっと見つめているデボラがすっとシルヴィアを見る。
「アイツ、私をもう母親と思わないって。
私が少しお金を工面してくれるだけで良いからって、屋敷に行ったらそう言ったのよ!
親不孝だと思わない?」
啞然とした。
シルヴィアは何をどう言えば良いか分からない。
この女性は何を言っているのだと思った。
尚も続ける。
「アルデバラン家の当主の子供として産んでやったのに、
そのおかげで、息子として何不自由の無い生活を送っているのに、
それを恩を仇で返すなんて!
本当に親不孝者だわ!」
シルヴィアは今まで怒った事が数える程しかない。
激怒なんて一度も無いだろう。
今、その感情が沸き起こってくる。
怒りの感情が自分の胸の中に炎の様に渦巻いているのに、
頭の芯はやけに冷えている。
「全く、親が困っていたら助けるのが子供の役目でしょ?
それを・・・「貴女は、
延々と話すデボラの言葉を遮るシルヴィア。
「貴女は、母親に殴られた事はありますか?」
もう思い出したくもない名前。
「デボラ・・・。」
何故今更、母が。
そしてシルヴィアを攫う理由があるのか。
軽蔑の眼差しで書置きを眺めるダイオンがジュードに伝える。
「ジュード、済まない。
シルヴィアは俺達のせいで攫われたようだ。」
「ほう・・・。」
ジュードは腕組みをし、話の続きを促す。
「前に俺が、薬を盛られた事があっただろう?」
「ああ、あったな。お前にしつこく言い寄って来た女を何故か俺が追い払った時だな。」
「そう、その女からだよ、今回の書置きの差出人は。」
レイフォードが苦虫を嚙み潰したような顔でジュードに言う。
「・・・私の母親でもある女です。」
ジュードは目を閉じ暫く黙り込む。
レイフォードは俯く。
―あの女、デボラという女。
自分で俺を捨てて置いて、俺が侯爵家の息子に迎えられたのを聞きつけて、
直ぐに金の無心をしてきた。
今更何を、と突っぱねると、自分は母親だ。
母親を息子が助けないとは、親不孝者と喚き散らし、
暫く屋敷で待ち伏せをしていた。
勿論門前払いで、無理だと諦めたのかピタリと来なくなった。
まさか、今、シルヴィアを攫うなんて。
身代金だと?
何処まで愚かな女なのか。
誰の娘を攫ったか分かっているのか?
この書置きの場所に行けば、彼女か居る。
ジュードは瞳を開ける。
幾分か瞳の赤が薄まっている。
重々しく口を開く。
「大体の話は理解したが、
俺にとってみれば、シルヴィアに危害を加える人間は、全て殲滅対象に過ぎない。」
レイフォードは僅かに肩を震わせる。
その様子をジュードは見逃さず、レイフォードを見据えて更に続ける。
「例え、それがお前の母親であっても、シルヴィアに何かあったとしたなら、
容赦はしない。
・・・それでも、お前は付いて来るのか?」
レイフォードは、一度ジュードから目線を外し
俯き深く息を吐き、
もう一度、ジュードをしっかりと見つめる。
「はい、私の母上は、
リズベル様、ただ一人です。
そのデボラという女は、
私には何の関係もありません。
てすので、伯のお好きな様になさって頂いて結構です。」
はっきりと言い切るレイフォードを、
ダイオンは慈しむ目で見る。
「お前、それをリズベルの前で言えば、
泣いて喜ぶぞ。」
「言いませんよ。」
レイフォードは不敵に笑う。
その様子を見てジュードは高らかに笑う。
「はっはははは!
よく言った!
シルヴィアへの仕打ちは、許しはしないが、
気概は気に入った。
・・・・・行くぞ。」
「・・・はい。」
二人は今度こそ外へ出る。
速足で歩みながら、ジュードは言う。
「敵の殲滅は俺が引き受ける。
お前はシルヴィアを助け出せ。」
「分かりました。」
用意された馬に跨り、走らせる。
ジュードに付いて行くのに精一杯のレイフォード。
だが、遅れる訳にはいかない。
(シルヴィア、必ず助け出す。まだ、俺は何もお前に伝えていない!!)
「旦那様の・・・お母様・・・。」
シルヴィアはそう言うのがやっとだった。
何故レイフォードの母親が自分を攫うのだろうか。
面識のない自分を。
にやにやしながら笑うレイフォードの母親。
「そうよぉ。デボラって言うの。」
「私は・・・・・シルヴィアです。」
「シルヴィアちゃんね、んふふ。
要件が済んだら、直ぐに解放してあげるから、大人しくしていてねえ。」
シルヴィアの横に座る。
鼻歌を歌いながら、爪を磨き始めるデボラ。
シルヴィアは声を掛ける。
「あの、」
シルヴィアを見ようともせずに答えるデボラ。
「んー、なあにぃ?」
「何故、このような事を・・。」
「えー?何故って?」
爪をじっと見つめているデボラがすっとシルヴィアを見る。
「アイツ、私をもう母親と思わないって。
私が少しお金を工面してくれるだけで良いからって、屋敷に行ったらそう言ったのよ!
親不孝だと思わない?」
啞然とした。
シルヴィアは何をどう言えば良いか分からない。
この女性は何を言っているのだと思った。
尚も続ける。
「アルデバラン家の当主の子供として産んでやったのに、
そのおかげで、息子として何不自由の無い生活を送っているのに、
それを恩を仇で返すなんて!
本当に親不孝者だわ!」
シルヴィアは今まで怒った事が数える程しかない。
激怒なんて一度も無いだろう。
今、その感情が沸き起こってくる。
怒りの感情が自分の胸の中に炎の様に渦巻いているのに、
頭の芯はやけに冷えている。
「全く、親が困っていたら助けるのが子供の役目でしょ?
それを・・・「貴女は、
延々と話すデボラの言葉を遮るシルヴィア。
「貴女は、母親に殴られた事はありますか?」
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