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これは現実?
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コーデリア様が退室なされて、シンとする部屋。
重苦しい沈黙が立ち込めます。
私は、視線の行き場が定める事が出来ず、ふら、ふらと部屋にある調度品へと旅をします。
思えば、このお部屋に立ち入るのは初めてでした。
品の良い調度品の数々に殿下の審美眼が鋭くなければ、ここまでの品は揃わないでしょう。
このソファも滑らかな手触り。
座り心地も極上。
「アイリーン。」
ああ、いけないわ。
少し意識を飛ばしてしまいました。
殿下へ視線を戻します。
殿下は先程と同じ、強い眼差し。
「俺は、貴女を・・・・。」
殿下は言葉を切って、下を向かれました。
ソファに置いた手を握り絞める。
何を言われても、私は受け入れるのみです。
また静かな時が流れます。
けれど私は待ちます。
殿下が私にお話されるのをジッと。
「俺は、貴女を。
・・・貴女が、貴女の事を、」
俯かれながら、紡がれる言葉。
そして殿下は顔を上げて、今度はまた違う瞳。
その瞳に私は息が止まったのでしょう。
上手く呼吸が出来ません。
「貴女を好ましく思っている。」
そんな・・・。
ああ、まさか、嘘よ。
殿下が私を?
「わ、わたく、しを・・・。」
言葉さえも最早。
殿下が私を見つめる瞳は熱く、濃い恋情の灯る瞳。
私を、殿下が?
震えが止まりません。
それだけは無いと思っていた、絶対に無いと。
お会いした時、いつも厳しい表情で私をご覧になっていた。
お話する事も無かった。
確実に嫌われていると思っていたのに・・・。
「貴女が俺に対して何の感情も抱いていないのは分かっている。」
我が耳を疑いました。
殿下の仰っている言葉が理解が出来ませんでした。
「だが、貴女に初めて会った時に、貴女のその可憐さに心を奪われた。」
「は、初めてお会いした時・・・ですか?」
殿下と初めてお会いした時は、確か私のお家で婚約者として顔合わせをした時であると記憶しています。
ですが、その時の殿下の目は険しい物であったと思うのです。
「公爵に連れられて王宮を訪れていた貴女を、」
「ええっ!?」
ああ、やってしまいました。
殿下のお話を遮ってしまいました。
殿下は不思議そうなお顔でご覧になります。
「申し訳ございません。
私の記憶では殿下と初めてお会いしたのが、我が公爵家での顔合わせであったと・・・。」
私の言葉に殿下が気まずそうな表情をされました。
「・・・・言い方が違うな・・・。俺が貴女を一方的に見初めたんだ。」
「そ、そんな・・・。初めて知りました。」
殿下は右手を額に当て、俯かれます。
「だろうな。貴女はその時、兄上と話していたから俺の存在に気付いていなかった。」
王太子殿下とお会いした時・・・。
そう言えば、幼少の頃、お父様と離れたくないと我儘を言って、一緒にお仕事に付いて行った事がありました。
その時、畏れ多くも王太子殿下が私のお相手をして下さったのです。
王太子殿下とは一歳しか変わらないのに、とても落ち着いておられて、我儘を言っていた自分を恥ずかしく思いました。
「貴女が兄上を慕っているのは知っている。
元より、兄上と結ぶ筈だった婚姻を、俺が無理矢理自分の物にしたんだ。」
頭が真っ白になりました。
私がお慕いしているのは、今目の前にいらっしゃる殿下であり、王太子殿下ではありません。
何故殿下はその様に仰るのでしょうか。
「あの、時、貴女は本当に嬉しそうに、兄上と話していた。
まるでそこだけ別の時を刻んでいるかのように煌めいて見えた。
兄上とアイリーンが一枚の絵の様に。
それでも俺は、貴女を兄上に渡したくなかった。」
殿下は切なそうに瞳を細めて、私を見つめます。
また初めてお見せになるお顔です。
「顔合わせの時の貴女の表情が忘れられない。
何故、兄上ではなく、お前なのか、そういう表情だった。
胸が切り裂かれる気持ちだった。
必死にこちらへ向かせようとした。
だが、貴女が私を想ってはくれなかった。」
「それからの茶会でも、貴女と言葉を交わせず、貴女の顔はどんどん曇って行くばかりで。
貴女の想い人が俺ではないと思っていても、貴女を手放す事は出来なかった。」
私の中で処理が追い付かず、殿下が次々と言葉を紡がれていきます。
ですが、私はその言葉をお止めしなければいけません。
だって、殿下も私と同じ様に誤解をなさっているのですから。
「俺は「殿下。」
殿下は途中で遮った私を、大きく目を見開きながらご覧になります。
私は、自分の持てる精一杯の笑顔で殿下を見つめます。
「殿下のお言葉を遮って申し訳ございません。
ですが、これだけはお伝えしたいのです。」
「何、を・・・?」
少し赤らめた顔で私の言葉をお待ちになる殿下。
私は口を開きます。
「私がお慕いしているのは。」
重苦しい沈黙が立ち込めます。
私は、視線の行き場が定める事が出来ず、ふら、ふらと部屋にある調度品へと旅をします。
思えば、このお部屋に立ち入るのは初めてでした。
品の良い調度品の数々に殿下の審美眼が鋭くなければ、ここまでの品は揃わないでしょう。
このソファも滑らかな手触り。
座り心地も極上。
「アイリーン。」
ああ、いけないわ。
少し意識を飛ばしてしまいました。
殿下へ視線を戻します。
殿下は先程と同じ、強い眼差し。
「俺は、貴女を・・・・。」
殿下は言葉を切って、下を向かれました。
ソファに置いた手を握り絞める。
何を言われても、私は受け入れるのみです。
また静かな時が流れます。
けれど私は待ちます。
殿下が私にお話されるのをジッと。
「俺は、貴女を。
・・・貴女が、貴女の事を、」
俯かれながら、紡がれる言葉。
そして殿下は顔を上げて、今度はまた違う瞳。
その瞳に私は息が止まったのでしょう。
上手く呼吸が出来ません。
「貴女を好ましく思っている。」
そんな・・・。
ああ、まさか、嘘よ。
殿下が私を?
「わ、わたく、しを・・・。」
言葉さえも最早。
殿下が私を見つめる瞳は熱く、濃い恋情の灯る瞳。
私を、殿下が?
震えが止まりません。
それだけは無いと思っていた、絶対に無いと。
お会いした時、いつも厳しい表情で私をご覧になっていた。
お話する事も無かった。
確実に嫌われていると思っていたのに・・・。
「貴女が俺に対して何の感情も抱いていないのは分かっている。」
我が耳を疑いました。
殿下の仰っている言葉が理解が出来ませんでした。
「だが、貴女に初めて会った時に、貴女のその可憐さに心を奪われた。」
「は、初めてお会いした時・・・ですか?」
殿下と初めてお会いした時は、確か私のお家で婚約者として顔合わせをした時であると記憶しています。
ですが、その時の殿下の目は険しい物であったと思うのです。
「公爵に連れられて王宮を訪れていた貴女を、」
「ええっ!?」
ああ、やってしまいました。
殿下のお話を遮ってしまいました。
殿下は不思議そうなお顔でご覧になります。
「申し訳ございません。
私の記憶では殿下と初めてお会いしたのが、我が公爵家での顔合わせであったと・・・。」
私の言葉に殿下が気まずそうな表情をされました。
「・・・・言い方が違うな・・・。俺が貴女を一方的に見初めたんだ。」
「そ、そんな・・・。初めて知りました。」
殿下は右手を額に当て、俯かれます。
「だろうな。貴女はその時、兄上と話していたから俺の存在に気付いていなかった。」
王太子殿下とお会いした時・・・。
そう言えば、幼少の頃、お父様と離れたくないと我儘を言って、一緒にお仕事に付いて行った事がありました。
その時、畏れ多くも王太子殿下が私のお相手をして下さったのです。
王太子殿下とは一歳しか変わらないのに、とても落ち着いておられて、我儘を言っていた自分を恥ずかしく思いました。
「貴女が兄上を慕っているのは知っている。
元より、兄上と結ぶ筈だった婚姻を、俺が無理矢理自分の物にしたんだ。」
頭が真っ白になりました。
私がお慕いしているのは、今目の前にいらっしゃる殿下であり、王太子殿下ではありません。
何故殿下はその様に仰るのでしょうか。
「あの、時、貴女は本当に嬉しそうに、兄上と話していた。
まるでそこだけ別の時を刻んでいるかのように煌めいて見えた。
兄上とアイリーンが一枚の絵の様に。
それでも俺は、貴女を兄上に渡したくなかった。」
殿下は切なそうに瞳を細めて、私を見つめます。
また初めてお見せになるお顔です。
「顔合わせの時の貴女の表情が忘れられない。
何故、兄上ではなく、お前なのか、そういう表情だった。
胸が切り裂かれる気持ちだった。
必死にこちらへ向かせようとした。
だが、貴女が私を想ってはくれなかった。」
「それからの茶会でも、貴女と言葉を交わせず、貴女の顔はどんどん曇って行くばかりで。
貴女の想い人が俺ではないと思っていても、貴女を手放す事は出来なかった。」
私の中で処理が追い付かず、殿下が次々と言葉を紡がれていきます。
ですが、私はその言葉をお止めしなければいけません。
だって、殿下も私と同じ様に誤解をなさっているのですから。
「俺は「殿下。」
殿下は途中で遮った私を、大きく目を見開きながらご覧になります。
私は、自分の持てる精一杯の笑顔で殿下を見つめます。
「殿下のお言葉を遮って申し訳ございません。
ですが、これだけはお伝えしたいのです。」
「何、を・・・?」
少し赤らめた顔で私の言葉をお待ちになる殿下。
私は口を開きます。
「私がお慕いしているのは。」
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