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漫画みたいな事って起こるんだな

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心臓を思い切り握り潰されたのかと思った。
痛い。
凄く心臓が痛い。

そう思ったら、今度はあんなに五月蝿かった王子の声が聞こえなくなった。
相変わらず何か騒いでいるのに無音。

なのに自分の心臓の音はこんなに大きく聞こえる。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

アリスが横で声を掛けてくれているのに、それに答える事も出来ない。


目の前に居るその人に私は目を逸らす事が出来ないからだ。
彼も私をずっと見ている。
私と同じ様なのか王子が横に居るのに聞こえていないみたいだ。
それでも私を見据えたまま、大きく目を見開いて。


なんだ、なんだこれ。
漫画であったよな、こんな感じの。

二人の世界になるみたいな?

私と彼はお互いを見つめ続けたまま、動かない。


声も出ない。
いや、声が出せない。
体も動かない。
どうしよう、どうしよう。

言いたいのに、言いたい事はいっぱいあるのに、何で、何で、何で!!!
声が出ない、口は開くのに。
ずっと、会いたかった、待っていたのに!!

足、動け!
早く、早く、早く!!
私はあのバ神にチートを授かったんだろ!?
なんでだよ!
頑張れよ私、ミリアム!結愛!!
謝るんだろ?
土下座するって決めてたじゃん!?

私のアホ、ばか、まぬけ!
こんな大事な場面で動けないってどういう事だよ!

脳内は忙しないのに、私の体は依然動かない。



彼は私をまだ見続けて、くしゃりと笑った。

・・・・私の好きなあの笑顔で。
痛む心臓が跳ね上がる。







「・・・・結愛・・・・・だよね?」

彼の方が先に私の名前を呼んだ。
ああああ。
もう駄目だ。

視界さえも歪んであんなに焦がれた彼をちゃんと見る事が出来ない。

まだ声を発する事の出来ない私を見て、彼は首を傾げている。

「え、と。久しぶりでいいのかな?」

後頭部を掻きながら、えへへと笑う。

私は、

私は膝から崩れ落ちた。

「えっ!?」

「ミ、ミリアム!?」

彼とアリスの声が重なる。
私は地面に突っ伏してもう動けない。

二人が両肩に触れる。

「ミリアム!ちょっと大丈夫なの!?」

「結愛、あ、ミリアムさん?どうしたの?お腹壊した?」

アリスの心配の声の後、彼の凄く的外れな心配に漸く何かの糸が解れた。
それと同時に一気に涙が溢れ出した。
こんな声を上げて泣いたのって前世でもした事無い。

わあああああああああああああ!!!

周りがざわついているのも分かっている。
いつも無表情の自分が大声で泣いてるからな。

でも、そんな事知らない。
涙も声も抑えられないんだ。

アリスが傍で慌てているのも感じた。
慌てているけど私の肩から手を離す事は無く、その温かさも更に私の涙を誘う。



大きい手が私の頭を撫でている。
間違いなく私の、彼の手。
柔らかく、優しく撫でる手にもう私は感極まって、



「なんっ!なんで!!!」









「なんで!そんなイケメンになってんだよおおおおおおおおおおおお!!!!」














はい。
台無しです。


私と言う人間はこんなポンコツなんです。
これは治りそうにないですね。


あははは。
はは・・・・・。

私を撫でる手がピタリと止まる。
アリスが触れていた肩の温もりも消える。


それでも私は止まらなかった。


「し、しかも、何でそんな髪の毛白いんだよ!!!あれか!いっそ白髪なら私が文句言わないからか!」

べしっ。



叩かれた。

「ミリアムさん。」

穏やかな声。
でも私には分かる。
呆れているのだ。

「他に言う事が、ありますよね?」

敬語まで使われた。
これはヤバい。
私はそそっと、姿勢を正す。

決めていたあのポーズをとる。


「・・・・・約束を・・・・契約を、破ってすみませんでした。」

「宜しい。」

ぺふぺふぺふ。
何かずっと頭を叩かれている。

「もう、会って早々の言葉があんなって・・・。
ほんと、結愛らしいっちゃあ、らしいけどさ。」

ぺふぺふぺふぺふ。
リズミカルに叩かれている。

「何か、色々込み上げて来たのが一気に引っ込んだよ。」

「・・・二回。」

私を叩いていた手が止まる。
頭上でクスリと笑う息がかかる。

「それまだ有効なんだ?」

涙を拭い、顔を上げてニヤリと笑ってみせる。

「当たり前でしょ。私の性格なんだから、適用されてるよ。」

「ふっ、はははは。変わらないねぇ。何か安心した。」

今度は声を上げて笑う。
一回息を吐いて笑う癖、変わってないな。
実感が湧いてくる。
彼だ。
目の前に本当にずっと会いたかった人が居る。

「・・・会いたかった、会いたかったよ、蓮!」

「うん。」

ああ、駄目だ。また目頭が熱くなってきた。
貴方がそんなに眉を歪めて笑うから、悲しそうに笑うから。
そんな顔、見た事無かったから。
貴方を残し死んだ後、貴方がどれだけ心を痛めたか分かってしまったから。
それでも私は身勝手だから、自分の気持ちをぶつける事しか出来ないんだ。

「さみし、かった・・・。あん、な、あんな!別れ方したくなかった!!」

「そうだね。」

穏やかな声で相槌を打たれる。
ああ、くそっ!!
もっと、落ち着いた再会をする筈だったんだ!
あんな変な謝罪の仕方じゃなくて、綺麗な土下座を見せるつもりだったのに。

「結愛。」

優しい声で私の名を呼ぶ。
彼はそっと両手を広げる。
私は迷うことなく彼に飛び込んだ。

私達は只無言でお互いを強く抱き締め合った。








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