105 / 126
漫画みたいな事って起こるんだな
しおりを挟む
心臓を思い切り握り潰されたのかと思った。
痛い。
凄く心臓が痛い。
そう思ったら、今度はあんなに五月蝿かった王子の声が聞こえなくなった。
相変わらず何か騒いでいるのに無音。
なのに自分の心臓の音はこんなに大きく聞こえる。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
アリスが横で声を掛けてくれているのに、それに答える事も出来ない。
目の前に居るその人に私は目を逸らす事が出来ないからだ。
彼も私をずっと見ている。
私と同じ様なのか王子が横に居るのに聞こえていないみたいだ。
それでも私を見据えたまま、大きく目を見開いて。
なんだ、なんだこれ。
漫画であったよな、こんな感じの。
二人の世界になるみたいな?
私と彼はお互いを見つめ続けたまま、動かない。
声も出ない。
いや、声が出せない。
体も動かない。
どうしよう、どうしよう。
言いたいのに、言いたい事はいっぱいあるのに、何で、何で、何で!!!
声が出ない、口は開くのに。
ずっと、会いたかった、待っていたのに!!
足、動け!
早く、早く、早く!!
私はあのバ神にチートを授かったんだろ!?
なんでだよ!
頑張れよ私、ミリアム!結愛!!
謝るんだろ?
土下座するって決めてたじゃん!?
私のアホ、ばか、まぬけ!
こんな大事な場面で動けないってどういう事だよ!
脳内は忙しないのに、私の体は依然動かない。
彼は私をまだ見続けて、くしゃりと笑った。
・・・・私の好きなあの笑顔で。
痛む心臓が跳ね上がる。
「・・・・結愛・・・・・だよね?」
彼の方が先に私の名前を呼んだ。
ああああ。
もう駄目だ。
視界さえも歪んであんなに焦がれた彼をちゃんと見る事が出来ない。
まだ声を発する事の出来ない私を見て、彼は首を傾げている。
「え、と。久しぶりでいいのかな?」
後頭部を掻きながら、えへへと笑う。
私は、
私は膝から崩れ落ちた。
「えっ!?」
「ミ、ミリアム!?」
彼とアリスの声が重なる。
私は地面に突っ伏してもう動けない。
二人が両肩に触れる。
「ミリアム!ちょっと大丈夫なの!?」
「結愛、あ、ミリアムさん?どうしたの?お腹壊した?」
アリスの心配の声の後、彼の凄く的外れな心配に漸く何かの糸が解れた。
それと同時に一気に涙が溢れ出した。
こんな声を上げて泣いたのって前世でもした事無い。
わあああああああああああああ!!!
周りがざわついているのも分かっている。
いつも無表情の自分が大声で泣いてるからな。
でも、そんな事知らない。
涙も声も抑えられないんだ。
アリスが傍で慌てているのも感じた。
慌てているけど私の肩から手を離す事は無く、その温かさも更に私の涙を誘う。
大きい手が私の頭を撫でている。
間違いなく私の、彼の手。
柔らかく、優しく撫でる手にもう私は感極まって、
「なんっ!なんで!!!」
「なんで!そんなイケメンになってんだよおおおおおおおおおおおお!!!!」
はい。
台無しです。
私と言う人間はこんなポンコツなんです。
これは治りそうにないですね。
あははは。
はは・・・・・。
私を撫でる手がピタリと止まる。
アリスが触れていた肩の温もりも消える。
それでも私は止まらなかった。
「し、しかも、何でそんな髪の毛白いんだよ!!!あれか!いっそ白髪なら私が文句言わないからか!」
べしっ。
叩かれた。
「ミリアムさん。」
穏やかな声。
でも私には分かる。
呆れているのだ。
「他に言う事が、ありますよね?」
敬語まで使われた。
これはヤバい。
私はそそっと、姿勢を正す。
決めていたあのポーズをとる。
「・・・・・約束を・・・・契約を、破ってすみませんでした。」
「宜しい。」
ぺふぺふぺふ。
何かずっと頭を叩かれている。
「もう、会って早々の言葉があんなって・・・。
ほんと、結愛らしいっちゃあ、らしいけどさ。」
ぺふぺふぺふぺふ。
リズミカルに叩かれている。
「何か、色々込み上げて来たのが一気に引っ込んだよ。」
「・・・二回。」
私を叩いていた手が止まる。
頭上でクスリと笑う息がかかる。
「それまだ有効なんだ?」
涙を拭い、顔を上げてニヤリと笑ってみせる。
「当たり前でしょ。私の性格なんだから、適用されてるよ。」
「ふっ、はははは。変わらないねぇ。何か安心した。」
今度は声を上げて笑う。
一回息を吐いて笑う癖、変わってないな。
実感が湧いてくる。
彼だ。
目の前に本当にずっと会いたかった人が居る。
「・・・会いたかった、会いたかったよ、蓮!」
「うん。」
ああ、駄目だ。また目頭が熱くなってきた。
貴方がそんなに眉を歪めて笑うから、悲しそうに笑うから。
そんな顔、見た事無かったから。
貴方を残し死んだ後、貴方がどれだけ心を痛めたか分かってしまったから。
それでも私は身勝手だから、自分の気持ちをぶつける事しか出来ないんだ。
「さみし、かった・・・。あん、な、あんな!別れ方したくなかった!!」
「そうだね。」
穏やかな声で相槌を打たれる。
ああ、くそっ!!
もっと、落ち着いた再会をする筈だったんだ!
あんな変な謝罪の仕方じゃなくて、綺麗な土下座を見せるつもりだったのに。
「結愛。」
優しい声で私の名を呼ぶ。
彼はそっと両手を広げる。
私は迷うことなく彼に飛び込んだ。
私達は只無言でお互いを強く抱き締め合った。
痛い。
凄く心臓が痛い。
そう思ったら、今度はあんなに五月蝿かった王子の声が聞こえなくなった。
相変わらず何か騒いでいるのに無音。
なのに自分の心臓の音はこんなに大きく聞こえる。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
アリスが横で声を掛けてくれているのに、それに答える事も出来ない。
目の前に居るその人に私は目を逸らす事が出来ないからだ。
彼も私をずっと見ている。
私と同じ様なのか王子が横に居るのに聞こえていないみたいだ。
それでも私を見据えたまま、大きく目を見開いて。
なんだ、なんだこれ。
漫画であったよな、こんな感じの。
二人の世界になるみたいな?
私と彼はお互いを見つめ続けたまま、動かない。
声も出ない。
いや、声が出せない。
体も動かない。
どうしよう、どうしよう。
言いたいのに、言いたい事はいっぱいあるのに、何で、何で、何で!!!
声が出ない、口は開くのに。
ずっと、会いたかった、待っていたのに!!
足、動け!
早く、早く、早く!!
私はあのバ神にチートを授かったんだろ!?
なんでだよ!
頑張れよ私、ミリアム!結愛!!
謝るんだろ?
土下座するって決めてたじゃん!?
私のアホ、ばか、まぬけ!
こんな大事な場面で動けないってどういう事だよ!
脳内は忙しないのに、私の体は依然動かない。
彼は私をまだ見続けて、くしゃりと笑った。
・・・・私の好きなあの笑顔で。
痛む心臓が跳ね上がる。
「・・・・結愛・・・・・だよね?」
彼の方が先に私の名前を呼んだ。
ああああ。
もう駄目だ。
視界さえも歪んであんなに焦がれた彼をちゃんと見る事が出来ない。
まだ声を発する事の出来ない私を見て、彼は首を傾げている。
「え、と。久しぶりでいいのかな?」
後頭部を掻きながら、えへへと笑う。
私は、
私は膝から崩れ落ちた。
「えっ!?」
「ミ、ミリアム!?」
彼とアリスの声が重なる。
私は地面に突っ伏してもう動けない。
二人が両肩に触れる。
「ミリアム!ちょっと大丈夫なの!?」
「結愛、あ、ミリアムさん?どうしたの?お腹壊した?」
アリスの心配の声の後、彼の凄く的外れな心配に漸く何かの糸が解れた。
それと同時に一気に涙が溢れ出した。
こんな声を上げて泣いたのって前世でもした事無い。
わあああああああああああああ!!!
周りがざわついているのも分かっている。
いつも無表情の自分が大声で泣いてるからな。
でも、そんな事知らない。
涙も声も抑えられないんだ。
アリスが傍で慌てているのも感じた。
慌てているけど私の肩から手を離す事は無く、その温かさも更に私の涙を誘う。
大きい手が私の頭を撫でている。
間違いなく私の、彼の手。
柔らかく、優しく撫でる手にもう私は感極まって、
「なんっ!なんで!!!」
「なんで!そんなイケメンになってんだよおおおおおおおおおおおお!!!!」
はい。
台無しです。
私と言う人間はこんなポンコツなんです。
これは治りそうにないですね。
あははは。
はは・・・・・。
私を撫でる手がピタリと止まる。
アリスが触れていた肩の温もりも消える。
それでも私は止まらなかった。
「し、しかも、何でそんな髪の毛白いんだよ!!!あれか!いっそ白髪なら私が文句言わないからか!」
べしっ。
叩かれた。
「ミリアムさん。」
穏やかな声。
でも私には分かる。
呆れているのだ。
「他に言う事が、ありますよね?」
敬語まで使われた。
これはヤバい。
私はそそっと、姿勢を正す。
決めていたあのポーズをとる。
「・・・・・約束を・・・・契約を、破ってすみませんでした。」
「宜しい。」
ぺふぺふぺふ。
何かずっと頭を叩かれている。
「もう、会って早々の言葉があんなって・・・。
ほんと、結愛らしいっちゃあ、らしいけどさ。」
ぺふぺふぺふぺふ。
リズミカルに叩かれている。
「何か、色々込み上げて来たのが一気に引っ込んだよ。」
「・・・二回。」
私を叩いていた手が止まる。
頭上でクスリと笑う息がかかる。
「それまだ有効なんだ?」
涙を拭い、顔を上げてニヤリと笑ってみせる。
「当たり前でしょ。私の性格なんだから、適用されてるよ。」
「ふっ、はははは。変わらないねぇ。何か安心した。」
今度は声を上げて笑う。
一回息を吐いて笑う癖、変わってないな。
実感が湧いてくる。
彼だ。
目の前に本当にずっと会いたかった人が居る。
「・・・会いたかった、会いたかったよ、蓮!」
「うん。」
ああ、駄目だ。また目頭が熱くなってきた。
貴方がそんなに眉を歪めて笑うから、悲しそうに笑うから。
そんな顔、見た事無かったから。
貴方を残し死んだ後、貴方がどれだけ心を痛めたか分かってしまったから。
それでも私は身勝手だから、自分の気持ちをぶつける事しか出来ないんだ。
「さみし、かった・・・。あん、な、あんな!別れ方したくなかった!!」
「そうだね。」
穏やかな声で相槌を打たれる。
ああ、くそっ!!
もっと、落ち着いた再会をする筈だったんだ!
あんな変な謝罪の仕方じゃなくて、綺麗な土下座を見せるつもりだったのに。
「結愛。」
優しい声で私の名を呼ぶ。
彼はそっと両手を広げる。
私は迷うことなく彼に飛び込んだ。
私達は只無言でお互いを強く抱き締め合った。
0
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる