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非現実

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「俄には信じがたい話だな。」

セイさんは腕を組み、目を閉じる。

「でしょうね。私もそんな事を言われたら、コイツ頭大丈夫か?患ってるのか?可哀想にって思いますもん。」

「いや、そこまでは思わねぇよ!」

あ、そう?
中々に早いツッコミを入れるセイさんに感心していると、セイさんは何かを思い出すかのように遠くを見つめる。

「言われてみればデイヴィッドもスライム見た時に何かガッカリしてたな・・・。
何だっけか・・・、ホイ、かなそんなスライムは居ないのかとか何とか・・・。」

「メタリックとか大きいサイズのやつとかも言ってました?」

「ああ、そうそれ!そんな事言ってたな。
あれ、アンタの前世のげえむ?って言うやつのモンスターの事だったんだな。」

夫よ・・・。やはり君もガッカリしたんだな。
私よりプレイしてたもんな。
私はどちらかと言うともう片方派だからな。
自主規制、自主規制。


セイさんは喉につっかえていた物が取れた様にスッキリした顔をしている。

「女っ気が無かったのはアンタが居たからなのか。
幾ら女が寄って来てものらりくらり躱してたもんな。
・・・て、あ。」

聞き捨てならない台詞を聞いた。
私はセイさんに詰め寄る。

「詳しく。」

セイさんはしまったという顔をしている。
もう聞いてしまったからね。
吐いてもらおうか。

「いや、あのな、デイヴィッドって、顔立ちがそこそこ整ってるんだよ。
加えて柔らかい物腰で、凄腕のハンターだろ?
女が放っておく訳ないじゃないか。」

「ほう・・・。それで?」

私の機嫌が下降しているのに怯えながらセイさんは話を続ける。

「女の方が頻繁に言い寄ってくるし、宿に帰ってデイヴィッドの悲鳴が聞こえたと思って駆けつけたら、デイヴィッドのベッドに全裸の女が潜り込んでた事もあった。」

それ何てエロゲ?
こめかみがヒクつくのが自分でも分かる。

「ひっ・・・。まぁ、それは俺が追い出したから何も無かったぞ。
本当に!何も無かったから!」

小さな悲鳴を上げながらセイさんが必死に弁明している。
セイさん、よくやった。褒めてやろう。

セイさんの頭をガシガシと撫でる。

「いてぇ!!首が!もげる!」

セイさんが喚く。
そんなに強い力じゃなかったのになぁ。

セイさんは私から数メートル離れる。
自分の首を摩りながら。

「俺、一回聞いた事あるんだよ。
色んな女とっかえひっかえ出来るのに全然そんな事をしないのが不思議でさ。
何で女と付き合わないんだって。」

「何て答えたんですか?」

セイさんは少しニヤリと口角を上げる。

「探している女が居る。
その人は凄くヤキモチ妬きだから、そんな事をしたら大変な事になる。
ってよ。
それに俺は彼女に会う為に此処に居るんだ。
とも言ってたよ。
俺はデイヴィッドにそんな女が居るなんて初耳だったから驚いたけど、
あれ、アンタの事だったんだな。
・・・・っておい!大丈夫か?」

セイさんが何故か慌てだす。

「え?何がですか?」

冷たい。頬が濡れている。
ああ、また無意識に涙が出てたのか。
駄目だな。
会いたくて堪らない。

会いたい。
会いたいよ。

いつ会えるのかな。
話したい事が沢山ある。
謝りたい事だって。

会いに行ったら駄目かな?
今の私なら戦えるし、邪魔にならないから手伝えるよ?

早く帰って来てよ。






私はハンカチで目尻を拭き取る。

「すみません。デイヴィッドさんの事を考えると自然に涙が流れるシステムになっているんです。
涙腺緩くて申し訳ない。」

「いいよ。ずっと会えない状態だったらそうなるさ。
アイツも少しアンタの話をしていた時、少し寂しそうな顔をしていたしな。」

セイさんの慰めが微妙なジャブを繰り出す。
今、そんな攻撃をしないでくれ!
泣いてまうやろ!!


「ふぎぎぎぎ!!」

唇を噛み締めて踏ん張る。

「どうしたんだ?」

「いえ、号泣しない様に耐えているんです。
今泣いたら、確実にセイさんのせいですからね。」

ぎょっとするセイさん。

「なんでだよ!!」

「セイさんが微妙な励ましをするからです。
弱っている時に優しい言葉を掛けられたら泣いてしまうじゃないですか。」

「ええ~。じゃあ、どうしたらいいんだよ。」


ふむ。
改めて考えると、どうしたらいいのか?
弱ってる人を見たら、そら慰めるわな。
う~ん。
腕を組み、首を傾げて考えていると、セイさんが吹き出して笑った。

「涙引っ込んでるじゃないかよ!」

「あ、本当ですね。良かったですね、セイさん。」

「いや、絶対に俺のせいではないからな!」

まぁ、そうだな。

「ああ、それにしても良かったですよ。
デイヴィッドさんが他の女の所へ行っていなくて。」

「嫉妬深いってのも本当なんだな。」

私はニコリと笑う。

「アレを千切らずに済みそうですよ。」

「?・・・・・!!!??」

セイさんは最初理解していなかったが、分かった瞬間。
ある所を押さえて青褪める。

「ア、アンタ・・・本当・・・怖えわ。」

「ええ?何でですか。知らない女の細胞が残っている体とか気持ちが悪いですもん。」

「細胞て・・・。」

変な潔癖のおかげで、ヤキモチというより汚いという気持ちが上回る。
なので、前世から再三彼には言っていた。

勿論、彼は誠実でそんな事をする気持ちが無かったから、余計な心配だったのだが。

「デイヴィッドが大変な事になるっていう気持ちが分かったよ。」

まだある部分を押さえたままのセイさんに笑いが込み上げてくる。

「冗談ですよ。本当にする訳ありませんって。」

「いや!アンタの目は本気の目だった!!
絶対にヤル目だ!!」


心外だなぁ。
私がそんな事する人間に見えるかなぁ?

努めて穏やかに微笑んだら、更にセイさんが震え出した。

なんて失礼な奴め!!


でも、おかげで胸の苦しみは和らいだ。
ありがとう、セイさん。






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