念願の悪役令嬢に!!

コロンパン

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人はそれを袖の下という

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授業が終わった。
よし、と私は気合いを入れる。
そして、持ってきた大きな紙袋を手に先ずはお隣の橘さんへ話し掛ける。

「あ、あの!橘さん?」

あ、声が裏返った。
恥ずかしい。
それに笑うことなく、橘さんは返事をしてくれた。
とても良い人だわ。

「は、は、はひ!何でしょうか!西園寺さん!」

私より裏返ったわ。
彼女も流してくれたから、私も流すわ。
私は紙袋に手を入れ、小さな巾着ラッピングをした物を取り出す。

「これ・・・良かったら、貰ってくれるかしら?」

私の手にある巾着を橘さんは凝視する。
え?拒否?これ、拒否なのかな?

「あ、無理にとは言わないの!
私が勝手に作ってきただけだから!!」

拒否される可能性も考えていたが、まさか出だしから躓くとは。
どうしよう。
慌てて紙袋に戻そうとすると、横からガシッと巾着を握られる。
その手の主は橘さんだ。
顔が赤く染まり、涙目でプルプルしている。

失礼とは思ったけど、産まれたての小鹿の様で、
私も何故か顔が熱くなった。

「いいのでふか?」

ふ?
私は首を傾げていると。

「私が西園寺さん(姫様)の贈り物を頂いていいのですか?」

何か副音声が聞こえたような気がするけど、スルーしておこう。
私は橘さんの問い掛けに笑顔で頷く。

「勿論、貰ってくれると嬉しいわ。」

橘さんは握ってい手を離す。
私は改めて橘さんに巾着を渡す。

「・・・ありがとう、ございます・・・。」

何故か恭しく受け取る。
そんなに畏まらなくてもいいのに。

「家宝にします。」

キリリと無駄にエエ顔で言う橘さんに私は慌てる。

「食べ物だから、そんな事したら腐っちゃう!!」

橘さんはまた固まる。
え。
まさか他人が作った食べ物駄目だった・・・?

「姫様の御創りになった食べ物を私に?」

あ、もう普通に姫様って言った。

「も、もし要らないなら・・・。」

「いただきます!!」

食い気味に叫ぶ橘さん。
ああ、良かった。

「あの、一応味見して美味しかったから、味は変ではないと思うのだけれど。」

「美味しいに決まってます!!!姫様が自ら御創りになった食べ物が美味しくない筈がありません!!」

「た、橘さん・・・。その姫様っていう呼び方・・・。」

凄く恥ずかしい。

「はっ!!申し訳ございません!!つい・・・、興奮してしまって。」

「あ、ああ、大丈夫だから。」

橘さん、普通に戻ってー!
私のあげた袋を大事そうに掲げる。
そんな大層な物じゃないから、
お菓子だから。

「食べるのが勿体無いです・・・。」

「食べてね?」

念押しする。

「味わって頂きます。」

神妙に頷く橘さん。
良かった。
受け取ってくれた。
橘さんは少しだけお話する事が出来た人だから、渡しやすかった。
良い人だって分かっていたしね。

何だか、贈り物で釣っているみたいだけど、
今まで友達が居なかったんだ。背に腹は代えられぬ。

私は!私は!
お友達と毎日楽しく過ごしたいんだい!!

だけど、欲張ってはいけないの。
一人ずつ、一人ずつ仲良くなっていくの。

「あーいら!!」

私を後ろから抱き締めるのは萌香だ。
萌香の抱き締める力って中々に強いのよね。
ぎゅうぎゅう抱き締めるおかげで、萌香の胸が背中に凄く当たるのよ。

私が男だったら、絶対に堕ちてしまうわ。

「も、萌・・・。」

「く、草薙様!」

私が萌香を呼ぶ前に、橘さんが萌香の名を呼ぶ。
心なしか眼光が鋭い。

「西園寺さんが、苦しがっているので、お止めになった方が、良いです・・・。」

 「え、ああ。ごめん。」

橘さんに言われて萌香が私から離れる。
橘さんは依然萌香を睨んだままだ。

あれ?

橘さんどうしたんだろう?

萌香を見る。
萌香も首を傾げている。

「ええと、橘さんだっけ?
ちょっと力加減間違えちゃって・・・。」

橘さんはハッとした顔をして、俯く。

「い、いえ。こちらこそ、大きな声を出してごめんなさい。」

「いいよ!いいよ!私こそ。
ところで愛良。橘さんに何か渡してたけど?」

萌香も気にしている風ではなく、直ぐに私に向き直る。

「あ、お菓子を。」

「え!嘘!いいなぁ!!」

萌香が私に詰め寄る。

「も、萌香にもあるよ?」

そう言うと萌香は私の右手を両手で握る。

「本当!?」

私は無言で頷く。
萌香はぱあああと花の様な笑顔を見せる。

「嬉しい!!」

そしてまた私を抱き締める。
今回は少し優しめに。
私から離れて、可愛らしい笑顔で私を見る。
その笑顔に押されて私は萌香にお願いをする。

「あの、出来たら・・・その・・・。」

「ん?何?」

勇気を出せ、私!

「お、お昼ご飯を一緒に・・・食べてくれる?」

誰かを誘ったのは初めてだ。
いつも蘇芳達が誘ってくれていたから。

自分から誘うなんて事は無かった。
断られたら辛いから、一歩が踏み出せなかった。

萌香は私と友達になってくれたから、誘っても良いよね?
誰かともう約束していたら仕方が無いけれど、
私は勇気を出したんだ。
それは私にとって大きな前進だ。

「何言ってんの?」

萌香の言葉に反射的に俯く。

『アンタと一緒になんて食べる訳無いでしょう?』
って言われちゃうのかな・・・・。
どうしよう。本当に凹む。
立ち直れない。
萌香の言葉に体が硬くなる。

私の手をぎゅっと握る手はアリスの手だ。

「一緒に食べるに決まってるじゃん!!」

「・・・え?」

萌香の顔を見る。少し怒っている?

「ていうか、一緒に食べるつもりだったよ!?
まさか愛良は、そのつもりじゃなかった?」

今度は悲し気に眉を下げる萌香に、勢いよく首を横に振る。

「一緒に食べたかったの!
私なんかと迷惑じゃないかと思ってた!」

「なんで~!?迷惑な訳無いじゃん!
こんなに愛良の事好きなのに!」

私の手を握ったままブンブンと手を上下する。
迷惑じゃない?良かった・・・。

「じゃあ、一緒にお昼ご飯・・・食べよ?」

私は安堵と嬉しさと少しの照れで顔が緩みきっている筈。
変な顔になっていそうだから、顔を少しだけ隠しながら萌香に言った。

教室内がどよめく。
目の前の萌香は何故か鼻を手で押さえて仰け反っている。

「~~~~~~!!!」

どうしたんだろう?
気分でも悪くなったかな?

「萌香?大丈夫?」

立ち上がり、萌香の体に少しだけ触れようとするも、私の手をガッと掴む手。

「愛良、ちょっとこっちへ。」

また魔王の顔をした蘇芳だ。
ええ~?何で?
私今日何もしてないよね?


「も、萌香!じゃあ!お昼ご飯!一緒にね!ね!」

蘇芳に連行されながらも、必死に萌香に呼びかける。
萌香は片手は顔を押さえたまま、もう片方の手を私へ差し出し、親指を上げる。
了解の合図のようだ。
私はホッ息を吐くも、自分の身に危険が迫っている事に気付き、
あれはもしかしたら、健闘を祈るの合図だったのかもしれないと、
青褪めた顔でその場を立ち去るしかなかった。
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