念願の悪役令嬢に!!

コロンパン

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軽はずみ

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講堂まで、秋葉先生に送って貰った。

「先生、ありがとうございました。」

お礼を言ってお辞儀する。

「教師として当然の事をしただけだ。」

そう言って、先生はまた校舎へ戻って行った。

そうか、見回りをしているんだ。
私みたいにふらふら関係無い所に行く生徒が居ないかを。

余計な仕事を増やしてしまったのか。
これはお詫びにクッキーを焼いていこう。
クッキーをね。
ふふふ。

でも、先生って大変だなぁ。

「愛良!」

私が一人でほくそ笑みを浮かべていたら、
後ろから声を掛けられる。

案の定、蘇芳で何だかとても焦った顔をしていた。

「何処に行っていたの?
いきなり何処かへ行ってしまったから、心配したんだよ?」

よく見ると髪の毛が少し乱れていて、私を探し回ってくれたのかと思い、
少しだけ胸がきゅうと締め付けられた。

「ごめんなさい。
教室にちょっと取りに行く物があったから。
でも、途中で秋葉先生に会って、此処まで送って貰ったから大丈夫だよ。」

「秋葉先生と・・・?」

蘇芳の声が低くなる。

「え、うん。
危ないからって。先生、私みたいな生徒が居ないか見回りしているみたい。
大変よね、先生って。」

どのタイミングでそうなったか分からないが、怒っている、不機嫌なのは確かだ。
何故か言い訳の様な言葉を言ってしまったが、蘇芳は以前不機嫌なままだ。


「・・・何も無かった?」

「何もって?本当に送って貰っただけよ?」

秋葉先生と私に何か起きると思ったのか、
そんな事起こり得ないのに。
ちょっと、先生が笑った所を見れた位で。

だが、これは何か言ってはいけないと本能が警告したので、言わなかった。


「・・・なら、いいけど。
東矢も宗近も探してくれてたんだよ、あと、ついでに草薙さんも。」

「ついでって酷くないですか?」

蘇芳の後ろから冷泉と鷺宮、そして萌香がやって来た。

「ああ、ごめんね?つい。」

今の謝罪には全く心が篭っていない。
私ですら分かった。
清々しいまでの棒読みだよ、蘇芳。

「まぁ、いいですけど。
それより、愛良~!!いきなりどっか行っちゃうなんて寂しかったじゃない!!」

萌香はガバッと私に抱き着き頬擦りする。

「ごめんね、萌香。ちょっと教室に行ってただけなの。」

「教室?何で?」

頬擦りしたまま私に問いかける。
萌香、摩擦でちょっと頬っぺた熱いの。
そう思ってたら、蘇芳が萌香を引っぺがした。

また蘇芳と萌香が睨み合っている。
もう放っておこう。

私は鷺宮に歩み寄る。
鷺宮もそれに気付き、首を傾げる。

「どうした、西園寺。」

私は鷺宮に持っているプレゼント包装の袋を渡す。

「やっぱり、残って貰うのは悪いと思ったので、
今お渡しします。」

鷺宮は少し驚いた風な表情をする。

「そこまで気を使わずとも良かったのに。
でも、ありがとう。」

良かった、受け取ってくれた。

「いえいえ、こちらこそありがとうございました。
鷺宮君の趣味に合うかは分かりませんが、
良ければ使って下さい。
あと、それとお口に合えば良いのですが、
クッキーを焼いたのでそれも「ちょっと待って?」・・え?」

蘇芳が割り込んできた。

また凄く怖い顔をしている。

「愛良が焼いたクッキーって聞こえたんだけど?」

「え、ええ。私が焼いたクッキーだけど、それが何か?」

秋葉先生と同じ様に私が焼いたって信用が無いのかしら?

「何かって・・・。何で婚約者の僕より先に、宗近が愛良の手作りのクッキーを食べれるの?」

「何で・・・と言われても。
ハンカチのお礼にと思っただけで、
別に深い意味は。」

「え~!愛良の手作りクッキー!?
何それ!食べたい!食べたい!」

萌香も参戦してきた。

「俺だって食べたいよ~。」

冷泉、お前もか。

「ちょっと草薙さん、黙ってくれるかな?
東矢には絶対に食べさせないから。」

冷気を漂わせた声で蘇芳が二人を黙らせる。

「ねえ、愛良。
婚約者を差し置いて、違う男に手作りの物を渡すのは、如何なものかな?」

優しく聞いてくるけど、目が笑って無いわ。
怒ってる!怒ってるよ!
え、そんなに重大な話なの、クッキー焼いただけだよ?

「え、いや、クッキーだよ?只の。
それに蘇芳、甘い物嫌いじゃない?
食べられない物を蘇芳に作るのはそれこそどうかと思うのだけれど。」

「そうじゃないよね?
愛良の手作りの物、
僕一度も貰った事が無いのに、何で宗近が先に貰ってるのっていう話だよ?」

「ああ・・・。」

言いたい事は分かるのだが、手作りを蘇芳にあげて良いものなのか、
いや、鷺宮だからと軽んじてる訳では無い。

未だにゲームの意識が抜けきらないので、
いざ、渡して拒絶されたら、どうしようという気持ちの方が強い。

鷺宮は紳士的なので、後でどうするかは知らないけれど、受け取ることはしてくれるだろうと思い、
渡したのだ。

要らない気を回しすぎたのかな。
こんな事になるなら、後で渡した方が良かったか。
いや、どのみちバレそうだから、同じか。


私が考え込んでいるのを心配してくれたのか、

「西園寺、俺は本当にお礼は大丈夫だ。
蘇芳の気持ちを汲んでやれ。
ハンカチは有り難く頂戴する。
それだけで充分だ。」

「でも・・・。」

「俺だって、好きな女性が他の男に手作りの物を渡しているのを知ったら、悲しい気持ちになる。」

「そ、そうですか・・・。」

返却されたクッキーを見て困り果てる。
うーん、どうしよう。

「皇君、ホント妬き持ち焼きですよね。
手作り位、今時珍しく無いのにそんな目くじら立てて。」

「君には関係無い。」

あ、また蘇芳と萌香が険悪なムード。
攻略対象とヒロインがこんな感じでいいのかな?

クッキー本当にどうしよう。
自分で食べようかな?

ガサゴソと包みを開ける。
プレーンとチョコのオーソドックスなクッキー。
バターの良い匂いがする。

サクッ。
ふむ。
美味しい。
良い焼き加減だ。

「あ、愛良?」

「?」

もくもくと口を動かしながら、呼び掛けた蘇芳を見る。

「何してるの?」

蘇芳が首を傾げる。
クッキーを飲み込み、私はあっけらかんと話す。

「何って、このクッキー誰にもあげる事が出来ないから、自分で処理しようと食べてるの。」

「えー!私も食べたい!愛良~、頂戴?」

私より身長が高い筈の萌香が上目遣いをしてくる。
どうやら、腰を折って私を見上げる形になっているみたい。

あげたいのは山々だけど、
チラリと蘇芳を見る。

蘇芳ははあああ、と息を吐く。

「いいよ、もう。
何か僕が悪い奴になった気分だよ。」

「悪者は寧ろ私の方では?」

一応悪役令嬢のポジションだし。

「いや、それは絶対に無いから。」

強く否定された。
むう、何故だろう?













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