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一千年後の再会
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「やぁ、昨日ぶりだねミュラー君」
「えぇ、昨日ぶりですね。それで依頼した件の話ですか?」
あの後、そのままミュラーさんの泊まる宿に足を運んだ。
恐らく今から行われるのは、「探し物は見つからなかった」そんな報告だろう。
唯一の手がかりだった筈の、あの海岸が空振りだったんだから・・・あれ?
あの海岸や共同墓地についてから、紛失物を捜索した覚えがない。
いや、きっと俺と別れて単独行動をとった時に探して回ったんだろう。
かなりの広さがあったが、探偵の事だ、推測して探す場所を絞って探したなら、それぐらいの時間はあった気がする。
「そうだね、結論から言わせてもらうよ。依頼された紛失物捜索の件だが、見つかったよ」
「え!?」
予想とは逆に結論に、思わず声を漏らしてしまった。
その姿を見て得意げな表情をする探偵。
こいつ、わざと黙ってたな。
「わざとだけど、理由があるんだ。それも含めて今から話すから、君は私の推理を聞いてリアクションを頼むよワンズ君」
「それが助手の仕事ってか?なら嫌だね、俺はお前の助手じゃないからな」
探偵がニヤリと笑う。
どうせ、そう言っても俺がリアクションを取ると思ってるんだろうが残念、俺は意地でもお前の思い通りには動かない。
「ではまず、これが君の探していた指輪で間違いないかい?」
そう言って探偵は、なんの変哲も無い指輪を見せる。
街中で失くされていた方が厄介そうな、見かけても気が付かなさそうな素朴なデザインの指輪を。
ミュラーさんがそれをよく確認してから「間違いないです」と答えた。
これで、ミュラーさんにその指輪を渡して依頼解決じゃないか。
「何が推理だ可能性のある場所を探したら見つかっただけじゃないか」
「そう思うかい?」
決意も虚しく、すぐに探偵の想定通りの行動をとってしまった。
いや寧ろ、あの決意の時点から探偵の思惑通りだったのかも知れない。
「ミュラー君、君にも無関係な話じゃないし、許可は得てないが噂の怪談の話をしよう」
「怪談のですか?確かに第一発見者ではありますが」
確かに無関係ではないが、あの告白をわざわざ話す程の関係性とは思えない。
「それでは、まず彼女の名前は『ルナ・ウィールズ』だ」
「は?」
また、思わず反応してしまった。
「墓標にその名前があったし、本人に確認したから間違いない。まぁ、そこはあまり関係ないから話を進めさせてもらうよ。そして彼女は千年前の人で、空中歩行魔法が使えていたのはそんな理由だ」
「なるほど」
ミュラーさんが適切な間で相槌をうつ。
こんな些細な所にも、仕事の丁寧さを感じる。
「千年前、彼女には婚約者がいた。そして、大戦の中でその約束が果たされる事は無かった。その婚約の時に彼が渡したのと対になっているのがこの指輪だ」
知らない情報が多すぎて、理解が追いつかない。
つまりあの指輪は千年前の物で、例の彼が持っていた物ってことか?
「ここからは仮説なんだけどね、彼は今際の際に指輪に呪いをかけた。『彼女の待つこの街に戻るように』と。彼女は彼女で、彼との約束を守るために莫大な魔力と知識を駆使して彼を一千年間待ち続けた。恐らくは、何かしらの条件を満たした上で、たった数日だけ顕現できるみたいな魔法だと思う。例えば特定の星が輝いている間だけとかね。そして一千年経って再会した」
当然、今の時代にそんな魔法は存在しないが、千年前の上級貴族位の魔術師ならそんな魔法も使えるかも知れない。なにせ彼女は空中を歩けた魔術師なのだから。
そして、呪いの方は今でも恐らく可能だ。
呪いは、使える人も使おうとする人も珍しいが今でも存在する。ただ、千年も継続されるとなるとやはり千年前の魔術の粋を感じる。
探偵の推理を咀嚼して飲み込もうとした時、小骨のように何かが俺の中で引っ掛かる。
「なんとなく理解したが、少し引っ掛かる事がある。なぜ、彼女は一千年待ったんだ?彼が死んでいるなら、待つより追いかけそうなものだし、死んでいないならそれこそ、生きて待つんじゃないのか?」
この疑問は間を置いて考えてみると、色んな可能性を失念していたが、どうやら俺の疑問は正しかったらしい。
「それは、恐らく彼が呪いを得意とする家系の人間だったからじゃないかな。呪いを使うと死後、魂はこの世界に残ってしまう。昔からそう言われているから、彼女も魂をこの世界に縛り付けたんだと私は思うよ」
成る程、彼女はそれが理から外れる事でも彼を追いかけた。いや、待ったんだ。
それ程に彼の事を愛していた。
探偵の言葉に、横で聞いていたミュラーさんも納得した様子だった。
「つまり、土地勘のない筈のミュラー君があの場所に行ったのもその呪いの効果って訳だよ。ほら、彼女が言ってただろ『何かに憑かれた者』って」
あれはノクスさんに憑かれた、正確には呪いにかけられたミュラーさんのことだったのか。
つまり、今回の二つの事件は完全に繋がっていた。
「それでミュラー君、依頼料はお返しするから、この指輪はあの墓地に返してきてもいいかな?」
「もちろん、そうしていただいた方が私も心地がいいです」
ミュラーさんは笑顔でそう答えた。
その後、必要経費だけはしっかり払ったミュラーさんは部屋へと戻った。最初から最後まで、優しいが何処か抜け目のない人だった。
事件は解決したが、俺にはまだ疑問が残っている。
探偵が指輪のことを俺に伝えなかった理由だ。
「どうして、ミュラーさんに会うまでに俺に伝えなかったんだ?」
「そうだね、一つには君のリアクションの為だけど、君に指輪の事を言ったらミュラー君に伝えないように提案すると思ってね、私は探偵としてそれはしたく無かったからだよ」
確かに、先に聞いていたらそんな提案をしていたのかも知れないが、俺のことを助手だと言う割には信用されていないみたいで、それこそ小骨の様に引っ掛かった。
「別に信用してないわけじゃないよ。その逆さ、私の求める助手ならそうしてくれると信じたからこそ私はそうしたんだよ。君は正しい事ができるとね」
探偵にそう言われて、何故か嬉しさを感じたがそんな事は伝えず帰路につく事にした。
丁度バスの始発が出る頃だ。
「えぇ、昨日ぶりですね。それで依頼した件の話ですか?」
あの後、そのままミュラーさんの泊まる宿に足を運んだ。
恐らく今から行われるのは、「探し物は見つからなかった」そんな報告だろう。
唯一の手がかりだった筈の、あの海岸が空振りだったんだから・・・あれ?
あの海岸や共同墓地についてから、紛失物を捜索した覚えがない。
いや、きっと俺と別れて単独行動をとった時に探して回ったんだろう。
かなりの広さがあったが、探偵の事だ、推測して探す場所を絞って探したなら、それぐらいの時間はあった気がする。
「そうだね、結論から言わせてもらうよ。依頼された紛失物捜索の件だが、見つかったよ」
「え!?」
予想とは逆に結論に、思わず声を漏らしてしまった。
その姿を見て得意げな表情をする探偵。
こいつ、わざと黙ってたな。
「わざとだけど、理由があるんだ。それも含めて今から話すから、君は私の推理を聞いてリアクションを頼むよワンズ君」
「それが助手の仕事ってか?なら嫌だね、俺はお前の助手じゃないからな」
探偵がニヤリと笑う。
どうせ、そう言っても俺がリアクションを取ると思ってるんだろうが残念、俺は意地でもお前の思い通りには動かない。
「ではまず、これが君の探していた指輪で間違いないかい?」
そう言って探偵は、なんの変哲も無い指輪を見せる。
街中で失くされていた方が厄介そうな、見かけても気が付かなさそうな素朴なデザインの指輪を。
ミュラーさんがそれをよく確認してから「間違いないです」と答えた。
これで、ミュラーさんにその指輪を渡して依頼解決じゃないか。
「何が推理だ可能性のある場所を探したら見つかっただけじゃないか」
「そう思うかい?」
決意も虚しく、すぐに探偵の想定通りの行動をとってしまった。
いや寧ろ、あの決意の時点から探偵の思惑通りだったのかも知れない。
「ミュラー君、君にも無関係な話じゃないし、許可は得てないが噂の怪談の話をしよう」
「怪談のですか?確かに第一発見者ではありますが」
確かに無関係ではないが、あの告白をわざわざ話す程の関係性とは思えない。
「それでは、まず彼女の名前は『ルナ・ウィールズ』だ」
「は?」
また、思わず反応してしまった。
「墓標にその名前があったし、本人に確認したから間違いない。まぁ、そこはあまり関係ないから話を進めさせてもらうよ。そして彼女は千年前の人で、空中歩行魔法が使えていたのはそんな理由だ」
「なるほど」
ミュラーさんが適切な間で相槌をうつ。
こんな些細な所にも、仕事の丁寧さを感じる。
「千年前、彼女には婚約者がいた。そして、大戦の中でその約束が果たされる事は無かった。その婚約の時に彼が渡したのと対になっているのがこの指輪だ」
知らない情報が多すぎて、理解が追いつかない。
つまりあの指輪は千年前の物で、例の彼が持っていた物ってことか?
「ここからは仮説なんだけどね、彼は今際の際に指輪に呪いをかけた。『彼女の待つこの街に戻るように』と。彼女は彼女で、彼との約束を守るために莫大な魔力と知識を駆使して彼を一千年間待ち続けた。恐らくは、何かしらの条件を満たした上で、たった数日だけ顕現できるみたいな魔法だと思う。例えば特定の星が輝いている間だけとかね。そして一千年経って再会した」
当然、今の時代にそんな魔法は存在しないが、千年前の上級貴族位の魔術師ならそんな魔法も使えるかも知れない。なにせ彼女は空中を歩けた魔術師なのだから。
そして、呪いの方は今でも恐らく可能だ。
呪いは、使える人も使おうとする人も珍しいが今でも存在する。ただ、千年も継続されるとなるとやはり千年前の魔術の粋を感じる。
探偵の推理を咀嚼して飲み込もうとした時、小骨のように何かが俺の中で引っ掛かる。
「なんとなく理解したが、少し引っ掛かる事がある。なぜ、彼女は一千年待ったんだ?彼が死んでいるなら、待つより追いかけそうなものだし、死んでいないならそれこそ、生きて待つんじゃないのか?」
この疑問は間を置いて考えてみると、色んな可能性を失念していたが、どうやら俺の疑問は正しかったらしい。
「それは、恐らく彼が呪いを得意とする家系の人間だったからじゃないかな。呪いを使うと死後、魂はこの世界に残ってしまう。昔からそう言われているから、彼女も魂をこの世界に縛り付けたんだと私は思うよ」
成る程、彼女はそれが理から外れる事でも彼を追いかけた。いや、待ったんだ。
それ程に彼の事を愛していた。
探偵の言葉に、横で聞いていたミュラーさんも納得した様子だった。
「つまり、土地勘のない筈のミュラー君があの場所に行ったのもその呪いの効果って訳だよ。ほら、彼女が言ってただろ『何かに憑かれた者』って」
あれはノクスさんに憑かれた、正確には呪いにかけられたミュラーさんのことだったのか。
つまり、今回の二つの事件は完全に繋がっていた。
「それでミュラー君、依頼料はお返しするから、この指輪はあの墓地に返してきてもいいかな?」
「もちろん、そうしていただいた方が私も心地がいいです」
ミュラーさんは笑顔でそう答えた。
その後、必要経費だけはしっかり払ったミュラーさんは部屋へと戻った。最初から最後まで、優しいが何処か抜け目のない人だった。
事件は解決したが、俺にはまだ疑問が残っている。
探偵が指輪のことを俺に伝えなかった理由だ。
「どうして、ミュラーさんに会うまでに俺に伝えなかったんだ?」
「そうだね、一つには君のリアクションの為だけど、君に指輪の事を言ったらミュラー君に伝えないように提案すると思ってね、私は探偵としてそれはしたく無かったからだよ」
確かに、先に聞いていたらそんな提案をしていたのかも知れないが、俺のことを助手だと言う割には信用されていないみたいで、それこそ小骨の様に引っ掛かった。
「別に信用してないわけじゃないよ。その逆さ、私の求める助手ならそうしてくれると信じたからこそ私はそうしたんだよ。君は正しい事ができるとね」
探偵にそう言われて、何故か嬉しさを感じたがそんな事は伝えず帰路につく事にした。
丁度バスの始発が出る頃だ。
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