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第二章:独裁の予兆!?中央政治局常務委員《フラワーナイン》の選抜

第9話:支配者達は犬がお好み!?シュウと共にコウに赴く

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「シー。これは何かの嫌がらせかな」
 
 後部座席で長い足を少し窮屈そうに組みながら、シュウが呆れたようにシーに話しかけた。
 
「?、シュウ様?、それはどういう?」
 
 シーが、シュウの嫌味を分からないはずはないのだが、とぼけているのか真面目に聞き返している。

 こんな時、いつもの無表情なシーは本気なのか、演技なのか全く分からない。
 本当にわかってないのかもしれない。
 
 シュウは、嫌味を伝えるのを諦めたのか、美しい髪をかきあげながらシーに聞き直した。
 
「はー、シー。我々なら車など使わなくとも数分で着くだろう。なぜ、こんな乗り心地の悪い車など使うのだ?」
 
「この車は党が用意してて、国産の中では高級の部類ですが、シュウ様には日ノ本製か、環星州の独鳥国製の高級車でないと不快でしたか?」
 
「シー……。分かった、分かった。先ほどの茶の件、まだ根に持っているのか。あれはお前の言う通りだ。まぁ、庶民の事を考えるのも必要だ。時にはな」
 
「ご理解いただけて何よりです。先程は意見の対立はありましたが、お互い党と華の国のためだと理解しております。中央政治局常務委員フラワーナインの先輩としてこれからもご指導よろしくお願いします」
 
 「はっ、お前もそんなおべっか使えるようになったか。|中央政治局常務委員《フラワーナイン
 》になって五年か。私も若かったが、お前は飛び級だったから、子供みたいなもんだっただろう」
 
「はい、十四歳でした。まだ、政治経験が浅く、なりたての頃は周りに迷惑をかけました」
 
 「それが、あと半年もすれば、総書記か。おべっか使わなくてはならなくなるのは私の方だな」
 
 「い、いえ、そんなことは、ありません」
 
 「ふん、まぁ、いい。引退する者からの餞だ。先輩方を蔑ろにするなよ。今の華の国と党があるのは、当然、先輩同志達のおかげだ。特にコウ様の功績は説明することもないだろう」
 
 「ええ、もちろんです。シュウ様も引退されても党のためによろしくお願いいたします」
 
 「まあ、そうだな。まずは、今回の件、コウ様にきちんと申し開きしろ。ボアの件は相当気分を害しているぞ。もちろん、この私もな」
 
 「ボアの件は、コウ様、シュウ様のためでもありました」
 
 「ほう……」
 
 「詳しくはコウ様に説明いたします」
 
シュウは、返事をせず手を挙げるジェスチャーだけを返した。
 
 その後は特に二人は会話もなく、ただ黙っていた。
 
 シュウとシーは始めから微妙な距離感であったが、ボアの話題になってからは明らかに緊張感が高まった。ボアの処遇をシュウはまだ納得していないのだろう。

 「着きました」
 
 俺はシュウ側のドアを開けて、シュウをエスコートした。
 
 中北湖にあるコウの邸宅は思いの外、普通であった。
 
 他の引退した幹部と同じような邸宅だった。
 功績と現在の影響力を考えると、もっととてつもない豪邸でも構えているのか想像していたが、そうではなかった。
 
 「思ったより普通か……?」
 
 シュウが俺の方をニヤニヤしながら見ながら声をかけてきた。
 
 「あ、い、いえ。正直に言えば、そう思いました」
 
 「ふん、そうだろう。コウ様の功績を考えるとな。他の引退した幹部と同じなのはな。ま、ここはコウ様が持っている邸宅の一つだ」
 
 シュウは、党のコウへの扱いに不満なのだろう。他の者と同じかと。誰でもないあのコウなのだ、と。
 
 ただ、特別扱いは党の方針に反する。特別扱いは、党を作ったカミだけなのだ。

 「行くぞ、ルー」
 
 シーは静かに、それでいて力強く俺にいった。
 
 「え、え?」
 
 俺は当然車で待機だと思っていたので、間抜けな声を上げてしまった。
 
 「おい、おい、おい。シー。いくらお気に入りだからって、流石にそれはないだろう」
 
 「??。コウ様は、男好きでは?」
 
 「いやいや、シー。それはそうだが、こんなちんけなのでないぞ。コウ様の好みは。というか好みの問題以前だろう。その男は」
 
 シュウは心底呆れるようには顔を手で覆った。
 
 「いえ、私もそういうつもりでルーを連れて行くつもりではありません。ただ、同類と思われた方が何かと都合いいかと」
 
 「あー、そういう魂胆か。シー、流石にそれは無理があるぞ。いくらお前でもそれを好きで連れているとは思われないだろう。そういうとこは、相変わらずズレてるな」
 
 シュウの言葉にシーは困ったように俺を見た。そして、心底真面目に話した。
 
 「そうですか?犬と比べればかわいいほうかと」
 
 「ハッハッハッ!!。犬か!。犬と同等か。シー、お前、中央政治局常務委員フラワーナインに淹れる茶を、犬にやらせたとでも。クックック。犬か。おい、ルーとか言ったな。大変な御主人様に飼われたな。この私でも、流石に犬扱いはしないぞ。ハッハッハッ」
 
 シーの犬発言がツボに入ったらしい。シュウは、しばらく上機嫌に笑っていた。
 
 「ハハハ……」
 
 俺はどう反応すればいいのかわからず、愛想笑いを浮かべていた。

 もともと、支配者クラスに人間扱いされるとは期待してないので、傷付くこともないが、どちらかというと、コウとの面談を俺は恐れていた。

 先ほどまで、支配者クラスの超人が集まった中央政治局常務委員会ティータイムにでていたのだ。

 さらに、その超人達のなかでも、一触即発しそうな二人を、車でここまで運んだ。

 比喩でもなんでもなく、本当に瞬き一つで俺を殺せる者達なのだ。

 生殺与奪を常に握られている感覚。

 それのプレッシャーで、俺の精神は、相当すり減っている。
 
 さらにより緊張感が、高まるであろうコウとの面談に同席するなんて、本当に勘弁してほしい。
 
 「ルー。車に手土産が置いてあるだろう。それを持ってきてくれ。では行くぞ」
 
 シーはシュウの意見など、意に介さず改めて俺にそう言った。
 無表情な、それでいてこちらをより不安にさせるような美しい顔を向けて。
 
 「はい…。承知しました」
 
 ワンとでも言えばよかっただろうか。
 
 もちろん逆らえるはずもなく、俺はシーに付いて、コウの待つ邸宅に向かった。
 
 
 
 
 
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