彼女の独裁は止められない!? 〜超絶美女たちが支配する一党独裁国家に転生したら、絶対美少女の次期総書記様に気に入られた〜

歯牙内かつきち

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第一章:独裁の萌芽!?華の国ツバキ市の腐敗

第36話:オウとの初デート!? 託された燃える信念

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  フヨウ市は、華の国に4つしかない直轄市であるツバキ市の比べると人口は半分ほどであるが、それでも華の国内で、上位に位置する大都市だ。
 
 もちろん、星合国をはじめ、諸外国の領事館があるくらいなので、歴史ある市でもある。
 
   国内外の観光客も多く、巨大なショッピングモールがいくつもある。
    市の中心には、外資の高級ホテルとブティックも数多くあり、服を調達する場所は事欠かない。
 
 オウは適当なブランドショップに目を付けると、俺が止める間もなく入ってしまった。

 オウの格好なら本来入店お断りとなるのであろうが、そこは支配者クラス、軽く思力を使って店員を黙らせた。
 
 「別に私だってファッションに関心がないわけではないからな」
 
 試着室から出てきたオウはゴージャスなドレスに身を包まれながら照れ臭そうにそう言った。
 
 ファッションは、この世界と前の世界の違いの一つだ。
 それも当然だ。
    この世界は女性の方が圧倒的に力を持っており、支配者は常に女性だった。
 それが、ファッションの歴史にも色濃く反映されている。
 
 特に支配者が戦う時には纏う思力装ドレス、それが美の基準の1つとなっており、歴史上の様々な偉人の思力装ドレスをベースにしたデザインが人気だ。

 もちろん、歴史上の偉人の思力装ドレスなんて、言い伝えなのだから、ほんとうの姿に近いかなんて誰もわからないのではあるが。
 
 いずれにせよ、ファッションに、男に媚びるような要素や前の世界で考えられていたような女性らしさを強調するような要素がなく、いいデザインは、美しく、そして、実戦的だ。
 
 もちろん、歯牙ない一般庶民のルーは、ファッション、それもこういうハイブランドのセンスなんてわからなし、日本でもハイブランドなんか縁がない公務員だったので、正直ファッションなんて、よくわからない。
 
 だだ、そんなこと、分からなくても目の前のオウは美しかった。
 
 その美しさはまるで絵画のようであった。
 
 「まあ、こういう服とは縁のない仕事だったからな」
 
 オウは鏡で自分を見ながら、そう満足感するように言った。
 
 「こいつにも一着見繕ってくれ」
 
 オウはそう店員に指示をした。

 俺が遠慮していると、
 「一着くらい、いいのを持っておけ。後々困るぞ。遠慮するな」
 と強引に着せられた。
 
 女性向けとは逆に男のファッションは、強い女性に媚びるような要素が多分に入っている。
 ただ、それは、性的だったり肉体をアピールするようなものではない。
 
 この世界で女性に好かれる男は人畜無害で、便利な男だ。
 だから、ファッションも、前の世界のスーツと近いデザインであるが、なんとなく力強さがないのだ。清潔感があり、あまり存在を主張しないような、そんな服装だ。

 「もう、使わないからな」
 
 そう言ってオウは、高級な服を俺の分まで現金で購入した。俺の給料からしたら、一生買えないような金額だ。

 買った服をそのまま着て、俺とオウは超高級な外資系ホテルのレストランに入った。普通予約が必要なのだろうが、それもオウがなんとかしてしまった。
 
 広い個室でオウと向かい合って座っている。高級過ぎて、俺は当然落ち着かなかった。

 料理は、華の国と外国の料理を合わせた創作料理だった。
 
 (ホテルの高級レストランなんて、娘の卒業祝い以来だな)
 
 もちろん、ルーとしてはホテルでの食事なんて、縁がなかったし、一生縁がないだろう。
 
 日本では、ここまで高級なホテルでの食事は経験なかったが、娘の卒業祝いの他、両親の古希のお祝いなどで経験はあった。
 
 (そういえば、お義父さんの傘寿がそろそろだったな……)
  
 かつきは日本での生活を思い出していた。
 そして、日本では絶対味わえないこちらの世界の高級料理の味を噛み締めながら、家族と会えない事実を痛感していた。
 
「…… 、泣くほど旨いか」
 
 オウに指摘されてルーは自分が泣いているのに気付いた。
 
 「い、いえ、あ、料理はとても美味しいです。これまで食べた何よりも。ただ、家族を思い出してしまいまして」
 
 「そうか。私もついぞ両親には孝行出来なかったな。それどころか、不名誉な娘となってしまうな」
 
 「あ、申し訳ありません。そんなつまりでは。それにオウ様はこれからとてつもない使命を果たすのです。故郷のご両親もわかってくださるでしょう。シー様もご両親のことは任せろとおっしゃってました」
 
 「そうだな。ありがとう。……ところで、ルー。私がルーに覚悟を聞いたとき、ルーは家族を奪われる事に怒っていたな。何か理由があるのか。ご両親は?」
 
 「い、いえ、両親は、健在です。田舎で元気に農作業をしてます。ただ、田舎ですので、権力者や強き者の身勝手で、家族が失われる様子は何度も見ました」
 
 この国では、権力者のやりたい放題であった。

 俺の両親も、ある日急に畑を党幹部に取られ、他の荒れ果てた土地を耕せと命令されたこともある。

 俺の両親は、家族皆でそのような苦難を乗り越えたが、出稼ぎに行くなどバラバラになってしまった家族もいた。
 
 「そうか。弱き者のために、『搾取を廃止し、社会から貧困を無くし、能力に応じて働き、必要に応じて受け取れる社会』を実現する。それが、党の理念なんだがな。いつからか、それは強き者が権力を握るための方便になってしまった……」
 
 オウは、華の国の党が掲げる共生主義の理念を口にした。
 この国の人間なら誰もが知っている理念だ。小学生で習い、大人になってその真実を知る。
 
 「シー様は、その理念を実現してくれるかもしれない。私は期待している。そして、ルー、私は君にも期待している」
 
 「え、私ですか」
 
 「ああ、我々強き者は、往々にして弱き者の気持ちを忘れてしまう。しかし、強き者の回りには強き者しか集まらない。それが、権力構造だ。そんな中、ルー。君は弱き者のまま、シー様の側にお仕えできるのではないかな。それは、シー様が我が党の理念を実現するためにとても大切なことだと思う」
 
 オウがまっすぐ俺を見つめている。

 その目を俺も見返した。

 オウが俺に期待する気持ちに真摯に答えたい。そんな気持ちをこめて俺は深く頷いた。
 
 「ただ、我々の世界は甘くないぞ。些細な失敗ですぐ廃棄だ」
 
 「はい。心得てます」
 
 「……、そうか。なら、しみったれた話はここまでだ。ある意味、私にとっては最後の晩餐だぞ。楽しくいこう」
 
 オウはいつもの挑戦的な笑顔を向けて来た。流石に、これから亡命するのだから酒は控えていたが、オウとグラスを待ってソフトドリンクで乾杯した。
 
 それからは、他愛のない話をしながら食事を楽しんだ。

 多分、オウはこんな状況だからこそいつものオウを演じていたのだと思う。
 
 そうやって平常心を保っていたのだ。

 この数ヶ月間、オウという人柄に惹かれていた俺は、これからのオウの運命を考えるととても楽しめる気分にはならない。
 
 しかし、それは気丈に振る舞うオウに失礼だ。俺はこのひとときを全力で楽しんだ。

 食事を終え、レストランを出る支度をしてる時、オウは突然俺に顔を近づけながら予想外の事を言い出した。
 
 「そうだ。ルー。私は男とデートしたのは初めてだぞ。私の初めての男だな」
 
 「え、ええ?」
 
 「ま、女なら何人も泣かせてきたけどな。ワーハッハッ」
 
 そう言ってオウはまごついている俺を大笑いした。
 
 そして、真顔になり俺の肩に手をかけ力強く言った。
 
「これをもらってほしい」
 
「こ、これは?」
 
「君は、正規の党員にはならないだろう。ただ、党員よりもよっぽどの貢献をする。これは私の期待の証だ。だから、付ける事は許されないが持っていてほしい」

 オウが俺に握らせたのは、オウの党員の証である党員バッチであった。
 
「こ、こんな大事な物を」
 
「ああ、党員になってから、正義を果たしたいと思っていた私の想いが込められている。」
 
 「受け取れ、いや、あ、ありがとうございます。オウ様の期待裏切らないよう頑張ります」
 
「ああ、期待してるぞ。ボアの件だけでなく、その先もな」
 
「は、はい」
 
「ハハハハ、泣くやつがあるか、こんな事で。まぁ、でもそうだな。一つおまじないをしよう。それを口元に私に見せるように持ってくれ」
 
「は、はいこうですか?」

 俺がバッチをオウに向けた途端、オウは、そのバッチにキスをした。
 ということは、俺の目のすぐに前にオウの顔がある。
 
 キスする時と、同じくらいの距離感だ。

 オウは、目を閉じている。

 その美しい顔にうっすら思力様式スタイルが纏だした。

 「わ、」
 
  突然、俺の持っていた党員バッチが炎に包まれた。
 オウの思力様式スタイルの炎だ。

「落とすなよ」
 
「は、はい」
 
俺は炎に包まれたバッチとその奥にあるオウの瞳を見つめた。
 
 炎は、バッチを持つ俺の手も包んでいるが、まったく熱くはない。
 
 その炎のゆらめきがオウの瞳を輝かせている。
 
 その美しはどんな言葉にしても陳腐になってしまうくらいだ。

 見つめていた炎は徐々に弱くなり、最後はバッチの中に吸い込まれるように消えた。
 
「まあ、おまじないみたいなものだよ。ただ、私のルーへの期待を込めたのだ。持っていてくれ」

 「は、はい!」
 
 俺はもう一度しっかりオウの、その燃え盛る瞳を見つめた。

 
 
――その後、オウは亡命するため合星国総領事館に駆け込んだ。

 オウが無事に合星国総領事館に駆け込むのを見届けたあと、俺は、オウのくれた党員バッチを見つめ直した。
 
 炎は当然ない。
 
 ただそれでもじんわりと手に熱を伝えているような気がした。
 
 託されたのだ。ボアの事だけではない。

 もっと大きく、重い信念を。
 

  
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